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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
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伝説を借りる者

 夜も深まる頃合いだ。草木は眠り命は感じられない。人の気配は皆無に等しい。キャスター陣営の拠点。
 柳洞寺に、アーチャーと士郎が辿り着いていた。

「…門番が一人、か。消去法で考えればアサシンの様だ」
 金髪の特徴のない騎士が一人。身に合わぬ偉大な聖剣を構えていた。
「どうするんだ?」
 絶大な力量も感じられないが、士郎に相手取れる敵ではない。

「ここは私が引き受ける。貴様は敵地でセイバーを取り戻せ」
「分かった」
 弓兵の経験は引き継いでいる。戦いにならずとも、時間稼ぎならば可能だろう。

 妙な確信があった。あの妖姫が本気だったなら、とっくの昔に戦争は終了していよう。既に彼女の手にモードレッドは堕ちている。
「キャスターの企みを感じる」
「企み?」

 歴戦の者として重ねた経験が、不可思議な事実を悟らせる。
「終わらせるだけならば、幾らでも手段があった筈だ」
 何故、セイバーの宝具で蹂躙しなかったのか。詳細は分からないが、剣を見て気付いた。凄まじい破壊力を宿しているんだ。

「大砲は十二分にある。真名を察するに、相打ちならばバーサーカーも討てよう」
「…モードレッドの逸話か。なら相手は騎士王だったんだな」
 そうして、目の前の騎士が構える聖剣も、圧倒的な威光を示しているのだ。

 残った陣営は聖剣で処理すれば良い。勝利するだけならば、既にキャスターは王手をかけている。イレギュラーでも存在したのか?
「完全には読み切れないが、状況は此方に傾いている」

 なにかの企みを感じる。それも妙にきな臭いがね。話ながら石段を登り切った。アサシンの反応はない。静かに佇んでいる。
「客人が一人、そこの小僧は通って良いぞ」

 アサシンからの言葉だ。やはり、何かしらの意図があるようだ。
「アーチャー」
「貴様の心配など必要ない。目的を果たせ」
 武骨な言葉に敵意はなかった。事実だけを告げている。

「…頼んだぞ」
 士郎を素通りさせて、目の前の男がアーチャーに話しかけてきた。
「反逆の騎士の相手が終わったと思ったら、次もまた大層なこって」

 アサシンとして呼び出された騎士の声は、妙に柔らかい。
 軽口と柔和な表情は、これから殺し合う相手とは思えない。英雄らしさがないんだ。日常に埋没する程度の相手に見える。

「狂戦士には見えないな。アンタ、弓兵か?」
 ランサーの情報は得ているらしい。落ち着いた姿だ。
「さてね」

 言葉を返しながら双剣を投影した。隙も無く油断は感じられない。
 目の前の相手の見た目なんぞ気にしない。一切手を抜かず。培われた戦闘論理で排除するだけだ。

「の割りには双剣が似合ってやがる。それも天性のソレじゃねえな。努力が培った佇まいだ」
 見抜く辺りはさすがと言おうか。英霊として、最低限の実力はあるらしい。

 大抵の相手は、相手が弱いと見れば油断するものだ。そうならないとはつまり、アーチャーが常に格上と殺し合ってきた事実を証明する。
「あ~あ。嫌になる。こんな事なら、あの女の話に乗るんじゃなかったぜ」

「貴様は何者だ?」
「アコロン…なあんて、聞いたことがあるわけねえよな」
 アーサー王の聖剣と鞘をモルガンが奪って、騎士王と殺し合わされた男の名前だ。大した逸話はない。

 日本での知名度補正なんて、皆無に近いだろう。そういう意味ではアーチャーと同じ。互いに補正はないのだ。
「それで望みは?」

 問いかけを楽しそうに受けて、どこか空虚な響きと共に答えを返す。
「しれたこと。俺は騎士王になる。それこそが我が望み。俺の女の望みだからな」
 へらへらと笑いながら、アサシンが襲いかかってきた。

「ま、尋常に殺し合おう!」
 初撃はオーソドックスに切り落とし。上段からの振り落としは、素直な剣筋を描いている。容易く受け流した。

「はっ! はあっ!」
 気勢を上げながら、アサシンが猛攻を続けた。悪くはないが。
「……」
 幾度も剣をぶつけ合って気付いた。この男は。

 弱い。もう少し正確に言うのならば、アーサー王の時代に合った英雄にしては、あまりにも出力が低すぎる。
 大した逸話を持っていないのだろう。聞き慣れぬ名前だ。モルガンの力で引っ張り出されただけで、彼は大した英霊ではないのかもしれない。

 なのに、両手で扱う聖剣の圧力ときたら。
「ちぃい!」
「培われた力量も聖剣は超えられず、か?」
 一撃で双剣に罅が奔る。魔術で補強するが、アサシンに深手を負わせられない。

 アーチャーの心眼が、その剣の威力を確信させる。聖剣を解放したならば、確実に消滅させられるだろう。そう。
 それにもう一つ。異常な事実が存在している。
 何度切り裂いても、瞬時に再生してしまうのだ。

「鞘の加護は、生半可な一撃じゃあ落とせないぜ?」
 聖剣と鞘の力。これではまるで、アーサー王を相手取っているようだ。
 滾る。他ならぬアーチャーだからこそ、目の前で戦う騎士王の偽者が許せない。

「彼女の剣は、貴様みたいな男が扱って良い代物ではない!」
 らしくない。若い頃の感情を取り戻している。

 叫びは正しいがね。理想を追い求めた騎士王だけに許された、勝利を約束する聖剣だろうよ。
「俺もそう思うよ。だったら、証明してみせるんだな」
 担い手に相応しくないと、勝利で証明する他なかった。
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