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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
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錬鉄の英雄

 他でもない衛宮 士郎が、誰か一人を愛せた可能性を見た。羨望と仄かな哀切を覚えながらも、運命がこの場に至った。
 眼を細めて
「だから、オレは貴様に力を貸そう」

 元より彼に望みはない。紅の騎士に至る可能性が消えて、尚も勝利を望むならば。士郎か凜が聖杯に至る方がありがたい。
 アーチャーの記憶を通して、聖杯の欠陥も理解した。

 願いがないからこそ、至り破壊しなければならないと気づけた。
「色々な想いがあるんじゃないのか」
 贖罪の気持ちを抱えながら戦っている。紅の騎士は、重たく潰れそうな罪悪感を背負っている。なんて大きな背中だろう。
「全て呑み込んでオレは戦う。いつだってそうしてきた」

 士郎から言える言葉はない。戦う力もない。彼の理想を魂に焼き付けて、投影し模倣は出来ても。錬鉄の英雄に至る力はないんだ。
 ありえない筈の契約が成立する。ぽつりと士郎が言葉を返した。
「…正義の味方みたいだな」

 少年の言葉に悲しげな笑みを浮かべた。
「よしてくれ。冗談にしても笑えない」
 なりたかった理想がある。なれなかった想いがある。忘却された始まりを取り戻すことは、この世界線では不可能である。

「俺は、アンタに届く理想はない。翳りが生まれている」
 正義の味方になりたいと願っていても、得てしまった縁が引っ張ってくれるんだ。彼の幸せを、強引にでも願える物と出会えた。

 理想は遠く自己犠牲の心は消えなくても、手を引く誰かを全て捨ててきたアーチャーは、士郎が得た運命を素直に賞賛しよう。

「それで良い。幸せを願ってくれ。その道が誰かを笑顔に出来る」
 それでも宿した想いが言葉を紡ぐ。無意味と知っても想いを語る。無価値と知っていても、月下の誓いが歩みを進める。

「道は違えてしまったけど。ただ一つだけ、伝えられることがあるとするなら」
 錬鉄の英雄の心は変えられない。答えは得られないだろう。後悔を抱えながら、彼は進み続ける。

 でも、迷いながらも。空虚に思ったって言葉は止まらない。
「俺達は、救われたいから信念を模倣したんじゃなかったか?」
「……ああ、そうだったな」
 ずきりと胸が痛んだ。切嗣の救われた笑顔を知っている。

 煉獄の中で、生き残ってくれていたと笑った男の表情を、救われた顔を知っているんだ。そうあれたらと思えた。許されたいと願っていた。
 ――爺さんの夢は俺が。かつて誓った願いは果たされない。

 今更答えは得られない。どう考えても、アーチャーは先へと進めないだろう。だが、一欠片の幻想を語るのならば。
「一度だけでも、たった一度だけでも。高らかに宣言することくらいは、自分に許しても良いんじゃないのか?」

 子供じみた我儘だ。理想を抱きながら、現実を知った弓兵には皮肉が過ぎる。理想に翳りを生んで、道を違えた者がいうのも可笑しい。

「くはっ! …幼子の様に?」
「憧れて届かなかったように。現実を見つめないで、夢想に酔ったように」
 高らかに謳う英雄の言葉。少年だけに許された愚かしい言葉。
「ヒーロー参上と。くは、ははは!}

 それはかつて一度も許せなかった行動だ。己が正義の味方だなんて、たった一度も思えた事はなかった。果てに至ったのは歯車の在り方だ。
 敗北はない。理解もない。ただ勝利だけを得続けた末路が錬鉄の英雄である。

「ああ。なんて愚かしい発言だろうな。未熟さが胸に沁みる」
 涙は流れない。そんなモノはとうに枯れ果てている。
「俺だって分かってるよ」

 未熟且つずれた己の言葉に、いつかの子供じみた月下の誓いを思い出しながらも、取り戻せない。

 歩んだ道の後悔は重く。既に違えてしまった己の姿を見ても、魂に宿す答えは得られない。
「なあ、私の想いは間違いではなかったのか?」
 誰かを救いたいと願うことは、間違いではなかったのだろうか?

 空虚な問いだ。得られないと知っているから、悲哀を帯びていた。
「その答えは俺が出せるものじゃない。だけどきっと、俺達は正しくもないんだ」
 答えは得られず。歩き続けられる理由も見つけられなかったけど。たった一つだけ。幼かった頃の、馬鹿げたヒーロー願望を取り戻せたから。

「ふ、ふふ。そう、だな。それでもオレは…良いだろう。問答は終りだ」
 双剣の記憶が衛宮 士郎を上の段階へと突き上げている。魔術回路は鍛えられていたのが幸いだった。


「回路の焼き付きはあるか?」
「いや大丈夫だ」
 既に、干将・莫耶は士郎も投影出来るだろう。英霊相手に時間稼ぎが出来る、と言えば破格の能力であった。

「貴様が宿した憑依経験は、私に最適化された戦闘技術だ」
「骨格とかが違うもんな」
 筋力や肉体の性能が違い過ぎる。模倣も過ぎれば肉体が崩壊する。

「勝利は求めるな。想いを届けろ」
 特に耐久面では隔絶した差が存在した。当たれば死ぬ。掠っただけでも致命傷になるだろう。
 英霊に勝利する力ではない。負けずに縋りつくだけの技術だ。

「すぐにでも救援へ向かう。まだ夜は始まったばかりだ。明ける前に決着をつけるぞ」「ああ」
 未熟者と理想の果てが手を組んで、夜を駆け抜けていく。決戦の時は近づきながら、ありえない運命を宿していた。
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