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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
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偽者の独白

プリクラ、格闘ゲーム、UFOキャッチャーなどなど。全部のゲームを遊びつくして、公園のベンチで2人が休んでいる。肌寒い外気が火照った体に心地良かった。
 ぬるくなった飲み物を味わいながら、のんびりと余韻を楽しんでいた。

「は~…遊びましたねえ」
 満足げに笑う彼女を見ていると、罪悪感が薄れるから不思議だった。
 手を引かれて幸せへと連れて行かれる感覚は、今までの人生であまりなかった。

 強いて言うならば、大河位だろうか。しかし彼女は姉代わりの人間だ。こうした高揚感もなく。ただ家族として過ごしていたのだから。

「セイバー」
「どうしました?」
 にこにこと窺う姿にときめいてしまう。とっくの昔に、おそらくは目覚め彼女を初めて見た瞬間に。惚れてしまう程美しいと感じてしまった。
 手を引いてくれたんだ。だから士郎も、真っ直ぐに問いを投げかけた。

「俺ばかり、その、遊び慣れてないって言ってたけどさ」
 何度も夢に見た彼女の過去の話だ。真名を明かせないと言ったセイバーへ、もう良いだろうと言外に告げる。
「セイバーもだろう?」

「まあ、娯楽とは無縁の生活でしたね」
 彼女もまた士郎の夢を見ていた。煉獄の記憶、彼の始まりを夢に見続けた。
 正直に言えば、深い共感を覚えていた。抱きしめても良いのならば、抱きしめていたかもしれない。魔術回路の繋がりから理解する。目の前で佇む青年はお人好しで、善良で、優しく。

 とても悲しい人間…人間。そうだ。どれだけぎこちなくても彼女は断言しよう。
 衛宮 士郎は人間であるべき。人間のふりをするロボットなんて言わせないと。
「はっちゃけてからは勢いがありましたけど、今の私は遊ぶつもりはありませんでした」

 正体すら明かしていないのに、士郎が確信していると気付いていた。
 彼女は知らないだろうが、セイバーの過去を見ていたのは召喚してからじゃない。

 贋作者、偽者としての縁が繋がっているんだ。選定の剣の残滓を見て、めざし続けた縁もあった。
 無意識的にセイバーとの縁が補強されていたんだ。

「ねえシロウ。理想の偽者にすら至れない愚者は、どうすれば良いのでしょうね?」
 騎士王の遺伝子から生み出されたクローンが、セイバーの肉体である。騎士王を終わらせる存在として生み出された、人工生命体。名は未だ語られず。

「確かに肉体は理想の王と同じ代物です」
 高ランクの直感、魔力放出は騎士王と同質の力だ。確かにセイバーは、騎士王の血を受け継いでいる。
「ただ私は、理想の欠片も受け継げませんでした」

 精神性が違い過ぎる。彼女に王の資質はない。人を率いるカリスマがないんだ。騎士隊長としてならば適性はあるが、王として考えるとあまりにも足りない。
「そんな事は奥底では理解していたのに」

 諦められなかった。子として認められたかった。褒めてほしかったんだ。
「まだ認められたいと、選定の剣に挑む気持ちも残っている」

 愛されたいと願ってしまうのは、果たして罪なのだろうか?
 誰だってそうだ。形は違えど愛を求めている。どういった形で現れるかなんて、本人ですら制御出来ない。

「きっと、どこかで歯車が狂ったんです」
 国を滅ぼすためだけに作られた存在だ。運命の流れは止まらず。彼女は円卓を壊してしまった。

「…私は生まれてくるべきではなかった」
 身が潰される程の罪悪感が声に乗っていた。遊んでいた時の笑顔はここにない。今にも泣き出しそうな微笑みが、彼の胸に突き刺さった。それが答えなのだろう。まだ言葉は返せない。

「多くの命を犠牲にして、私は座に至ってしまった」
 本来ならば英雄には相応しくないと、セイバーは己を卑下している。宿す力は反英霊として、正当な英霊を殺す者として彼女はあるんだ。
「私はチャンスを得られてしまった」

 騎士としての名誉を取り戻すチャンスを得られた。それでも、やり直すなんて妄言を吐かないだけ高潔なのだろうか。
 だってそうだろう。殺した事実さえ否定し、罪から目を逸らすなんて。あまりにも罪深い。

「私が殺した命は戻らないのに。失われると知って尚、ただ生きるを感じたいだけで犠牲にした」
「セイバー…」

「いっそ幼いままで現れられたら良かったです」
 アーサー王への憤怒と憎悪を抱きながら、子供のように粗暴だったなら。こうして思い悩まず戦っていられただろう。

「シロウの魂に共鳴して、かつての私の想いも現れています」
 同じ偽者として共感している。理想を夢見たけれど、己に資格はないと迷い続けている。自己嫌悪の想いがあるのもそうだ。幸せに居心地の悪さを感じてしまう。それでも彼女に手を引かれたなら、彼の手を引きながらならば。

 なんて思える相手と会えたのは、互いに幸運だったのだろう。
「私、ふふ。私ね。オレが宿した憤怒と憎悪も消えちゃいねえのにな」
 張り付き取れなくなった丁寧さの仮面を、一時的に剥がした。獣みたいに笑いながら、セイバーは真っ直ぐに士郎へと問いかけた。

「なあシロウ。他ならない貴方にこそ問いかけたい」
 煉獄の始まりを見た。誰かの理想を借りて、必死に人間であろうとする彼を見た。選定の剣を、アーサー王の在り方を見て、魔術師として腕を磨き続けた人生を見た。正義の味方になりたい。そう願った男の姿を見た。

 そこに至れないと気付いてしまったけれど、止まれぬ士郎の姿を見たんだ。
 息をするだけで苦しい罪悪感を、お互いに抱いていると確信している。だからこそこの問いは、彼女と彼にも向けられた想いなのだろう。
「偽者にすら至れない、ただ闇雲に在り続ける私は、生まれても良かったのかな?」
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