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サヨナラだけが人生だ ~合縁奇縁~

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
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無自覚の過保護

そんなシンの視線に気が付いていながらも、ゾロはそれを気にも留めず背を向け洗濯物を干し続けるばかり。
シンの考えている事も分かっているのだろう、それ故に多くは語らずしかしシンの体を案じてはいる為のその行動も、シンには理解できないものだった。
「あ、の、」
意を決してシンが言葉を発すれば、ゾロは振り返る事なく「あ?」と一言声を返すだけ。
それに一瞬怯んだシンだったが、いつまでも苦手意識を持っていてはいけないとは思っているのか言葉を続けた。
「あの時は、ごめんなさい」
あの時、とは勿論、攻撃を仕掛けた時の事だ。
返り討ちにされてしまったにしても、先に攻撃を仕掛けたのは自分である事は明白で、シンは今まで言おうと思いながらも言えなかった謝罪を口にする。
そうすればようやく振り返ったゾロは眉間に皺を寄せた険しい表情をしていて、それに思わずゾロから視線を外し俯いてしまうシン。
洗濯物を全部干し終えたゾロは空になった洗濯物の入っていたカゴを片腕で抱えながらシンの側に近付くと、深い溜息を洩らしながらシンの頭に再び手の平を置いた。
「なんだ、しおらしいな。俺に殺気飛ばした度胸はどこに行ったんだよ?」
え、と驚きの声と共にゾロを見上げるシン。
そしてその目に映ったのは意地悪く笑うゾロの表情で、ぽかんと間の抜けた顔をしたシンに更に笑みを深くしたゾロはシンの頭に置いた手を乱暴に動かして髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でまわした。
「心配すんな、お前程度にやられやしねえよ。なんならもう一回襲ってきてもいいんだぜ?」
普段はあまり多くを語らない寡黙な男が年相応に、もしくは宴会の席で酒を煽っている時のように笑う様子に、シンの苦手意識など霧散して。
ガシガシと未だ乱暴に撫でまわしてくる手から必死に逃れたシンは、乱れた頭髪を手櫛で直しながらゾロを見上げた。
「もう、襲わないよ。」
普通に接してくれた事が嬉しかったのだろう、本人も無意識の中で浮かべた笑顔は満面の物で、それを見たゾロは一瞬固まった後にふい、と視線を外してしまった。
「・・・そういや、コックが呼んでたぞ。キッチンに来いってよ。」
「サンジが?分かった、行ってみる」
ゾロが思い出した様にそう告げたのはその直後で、それを聞いたシンは言われた通りにキッチンへと向かう為駆け足でその場を離れていく。
そして残されたゾロは、頭をガシガシと軽く掻きながら走り去るシンの背中を見て深いため息を吐き出した。
「ちっ、扱い辛えな・・・」
「ゾロ・・・アンタ、手ぇ出すんじゃないわよ?」
「っ!!?」
誰にも聞かれていないと思っていたのだろう思わず吐き出した呟き。
それに突然返事が返ってきたものだから、驚いて勢いよく振り返った先には恐ろしくさえ感じる笑顔を浮かべるナミが腕を組んで立っていた。
「ナミ、お前いつから・・・っ」
「そうねぇ、ゾロが洗濯物を干し始めた辺りかしら」
「最初からじゃねえか!盗み見してんじゃねえよ!」
「アンタがシンを虐めてないか見張りに来ただけでしょ?まあ、その心配は一切なかったみたいだけど」
ナミはゾロにそう言いながら至近距離まで近付く。
そのナミの威圧感に思わずゾロが冷や汗を流せば、ナミの笑顔は更に深くなる。
「ゾロが女の子を気に掛けるなんて珍しい事もあるのね。嵐でも来るんじゃないかしら?」
「別に気にかけてなんて、」
「いーい?シンに何かしたら私とロビンが黙ってないから、覚悟しなさいよ。」
「だから!俺は別に何も・・・っ」
「分かった?」
全て見透かしているとばかりにゾロに詰め寄るナミの勢いに、ゾロは反論する事さえ敵わない。
ナミやロビンと違い“危うさ”を感じるシンに対して、ナミ達とは違う扱いをしている事はゾロ自身も分かっていた。
けれどそれは“仲間”だからであり、他意などまるでないとそう告げてもナミの鋭い視線はそれに納得しない。
終いにはゾロが折れるしかなく、「わかったよ!」と半ばやけくそで返事をしたゾロにようやく納得したのかナミはゾロから離れた。
「ったく、だから過保護だって言ってんだよ」
「過保護じゃないわよ、大事にしてんの!」
「同じ意味だろーが!!」
戦闘面に関して敗ける事はまずないであろう一味の航海士と考古学者に対して、口では敵わない事を思い知ったゾロは本日何度目かの深い溜息を吐き出した。

その頃、ゾロに案内されキッチンを訪れたシンは今日の昼ご飯の準備に取り掛かっているサンジの背中に向けて声を掛けた所だった。
「サンジ、来たよ。」
何か用事があるのかと問いかけながらサンジに近付くシンの声に反応し、振り返ったサンジは柔らかな笑みを浮かべてシンを迎える。
「お、あのクソマリモでもちゃんと伝言位は出来るみたいだな」
「うん、洗濯物干すのも代わってくれたよ。」
「アイツが?そりゃ、優しい事で。」
シンの言葉に何かを含んだ笑いを浮かべたサンジは、シンを自分の隣まで誘導するとシンの目の前に一つの皿を差し出した。
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