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サヨナラだけが人生だ ~合縁奇縁~

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
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手繰り寄せた奇跡

そうやってローが動き出した、その時だ。
「・・・、ぃ、」
小さな小さな掠れた声が、ローの耳をかすめた。
その声の主は自分が抱え上げた少女以外に考えられる訳もなく、ローが視線をシンの方へ向ければやはりシンと視線がぶつかって。
「ル、フィ・・・の、所へ、っ行きたい・・・!」
掠れながらもはっきりとした声色と共に強い意思を含んだ視線は、ローの目を見開かせるのに十分な威力を発揮した。
「麦わら屋は何処にいるんだ」
「わから、ない・・・」
「他の仲間は?」
「っ・・・分からない・・・ッ」
目に涙さえ浮かべながら言うシンの台詞に、嘘はないのだろう。
何か起こった事は出会った時から察しており、シンの言葉にローはそうかと返すだけに留めた。
例え問い詰めても、それ以上の返答が返って来ない事を理解したからだ。
「死んだ訳じゃねえなら、今お前に出来る事はない。後の事を考えるならその熱をなんとかしてからにしろ。」
気遣うにしては乱暴な言い様ではあったが、それでもローなりにシンの体を気にしたのだろう。
自分より年下で、体躯も遥かに小さな少女が絶望したような表情を浮かべる様は流石のローにとっても見ていて辛さを感じる所があったのかもしれない。
仲間の安否が分からない今の状況からか、体調不良によるものか、小刻みに震え苦しそうに吐息を漏らすシンを抱き上げる腕にはわずかに力がこもった。
「とりあえず、此処で寝ていろ」
そうして辿り着いたのは船内にある治療室のベッド。
ローが危害を加えるでも害意があるでもない事を本能で感じたシンは、ローに寝かされたベッドに横たわるとベッドの横で治療の準備らしき行動をとっているローやハートの海賊団の船員達を目線でその行動を追った。
「なんだ?」
その視線に気付いたローが声を掛ければシンは慌てて視線を逸らすと目を伏せがちにしながら声を発する。
「あの、」
今は何も出来ない、気付いていながらそれを理解する事が怖くて気付かないフリをしていた。
何とか出来ると、まだ間に合うと、そう考えていないと黄猿を前にして何も出来なかった自分の情けなさに、非力さに押しつぶされそうだったのだ。
けれどローに言われた「今出来る事は何もない」という台詞は不思議な程にストンと胸に落ちて、そのおかげで張り詰めていた緊張が僅かに綻んで。
周りを見る余裕が出来たシンは自分の為にだろう動いてくれているハートの海賊団の面々に向けて感謝の言葉を口にした。
「ありがとう、ございます。」
そう告げたシンにローは一瞬だけ面食らったような表情を浮かべ、それからそれを隠すかのようにシンに近付くと掛布団をシンの顔を隠すかのようにしっかりと被せた。
「何か分かったら声を掛ける。だからそれまでは寝ていろ。」
精一杯の優しさが、粗暴にも見える行動の中でさえ垣間見れて。
シンははい、と小さく返事をすると目を閉じ、怠かったのだろうそのまま意識を手放した。

ローはそれを感じ取ると、布団の上からシンの頭がある場所に自らの手を置く。
「何をしてやがる、麦わら屋。」
呟いた声は此処には居ない、シンの船長へと向けた台詞で。
何て顔をさせるのかと、らしくもなく感情に任せた苛立ちを舌打ちという形で吐き出すロー。
そのローに、心配そうに様子を眺めていたベポがゆっくりと近付き声を発した。
「その子、大丈夫そう?」
「あぁ、取り敢えずは投薬もした。寝ていればその内には良くなるだろうな。」
「そっか、良かった」
「・・・随分と、心配をするんだな」
ふと、ベポの様子を見てローが訝し気に声を掛ける。
そのローの言葉にベポはえ?と視線をローに向けた後、首を傾げてローの質問に全身で疑問符を浮かべた。
「だって、キャプテンも心配してたでしょ?」
「は、?」
「なんてゆーか、」

放っておけなくて。

キャプテンも同じでしょ?そう他意も何もない純粋な目で見られながらベポに言われたローは、その言葉に返す返事が見つからずに言葉を詰まらせた。
それはそのベポの言葉が核心を付いている紛れもない証拠であって、ローとベポ以外の船員はそんな二人のやり取りを見て思わず吹き出しそうになるのを必死に堪える。
ベポにやり込められるローというその構図が、今まで見た事のない光景であった事、そしてその渦中の少女はまるで蚊帳の外にいるかのように静かに寝息を立てている事。
その様子が常日頃の自分達の雰囲気とはかけ離れ過ぎていて、可笑しくて仕方がないのだ。
「・・・・っ、お前ら・・・!」
「ちょ、キャプテン!俺ら何にも言ってないから!」
船員達のその様子が面白くなかったのだろう、こめかみに青筋を浮かべたローが船員達を睨みつけ低い声を上げ威嚇する。
一番近くにいた船員は矢面に立ってその睨みを受けたため、思わず冷や汗を流して後ずさりした。
「ペンギン、いい度胸だ・・・!」
「俺だけ!?いや、シャチとかも笑って・・・」
「やっぱり笑ってたんだな?」
ペンギン、と呼ばれた船員は墓穴を掘ったと引きつった笑みを浮かべ、巻き込まれそうになった同じく船員のシャチと、そしてその他の船員達は蜘蛛の子を散らすかのように部屋から退散し始めて。
状況がいまいち飲み込めていないベポは今だに不思議な顔をしながらも、自分から興味を外したローから視線を外してシンの寝ているベッドの横へ腰を下ろした。
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