ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

サヨナラだけが人生だ ~合縁奇縁~

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

正義の呪縛

それから、一味はレイリーの下を後にすると海軍から身を隠すべくシャボンディ諸島を奔走していた。
しかしそう簡単に隠れる場所などあるはずもなく、次々と増員される海兵達の戦力は時間を重ねる毎に更に更にと強力になっていく。
シンはといえば、レイリーの居る場所に一緒に居る訳にもいかずルフィ達と行動を共にしていた。
当たり前だが未だ良くならない体調を、チョッパーの配合してくれた薬によって何とか誤魔化して、だ。
“3日”という再会の約束を果たす為に走り続ける麦わらの一味だったが、"その時"は突然訪れる。

「おやぁ、お前さん、見た事があるねぇ。」

戦い、逃げ続けてどれくらいの時間が経った頃か。
海軍が開発した新兵器"パシフィスタ"の登場により麦わらの一味は手も足も出ず窮地に立たされ。
そこに、更に其処に追い討ちを掛けるかのように一人の男が現れたのだ。
「大将、黄猿・・・!」
誰かの声が、その男の正体を教えてくれた。
間延びする特徴的な喋り方のその男が、海軍本部最高戦力である事を。
その名に誰もが絶望する中、黄猿はシンの姿を目に映すと相変わらずの間延びした声でシンに声を掛ける。
「おかしいねぇ、お前さん、もう死んだ筈だったと思ったんだけどねぇ。」
「わた、しを、知ってる、の?」
異様な威圧感に、シンの足が震えて止まる。
「シンちゃん、止まるな!!」
そんなシンの様子に真っ先に気が付いたサンジの怒声が、その場に響いた。
その声にはっとしてサンジの方を向いたシンの目に飛び込んできたのは、逃げるのもままならない程に傷付いたサンジの姿。
更にその向こうには、ゾロが倒れて居るのも見えた。
「サンジ、っゾロ・・・!!」
「んー、しぶといねぇ」
サンジとゾロの状態に対しシンが悲鳴の様な声を上げたその時、耳元で聞こえたその声にシンの背筋がゾッと凍りつく。
「お前さん、"0支部"の生き残りだねぇ。」
何故、生きている。
あれは存在を否定された海軍の闇だ。
彼処の情報を知っている、彼処の闇そのもののお前の存在は、
「邪魔、だねぇ。」
黄猿のその言葉に、まるでフラッシュバックの様に甦る過去の記憶。
海賊を殲滅する事だけが生活の全てだっその頃の記憶を思い出したシンは、全身から冷や汗を噴出させた。
「シンから、離れろっ!!!」
その時、だ。
まるで闇を掻き消すようにシンの視界に飛び込んできたのはルフィの拳。
それにより黄猿とシンには一定の距離が作られ、緊張の糸が解かれたシンは腰が抜けたように地面にへたり込む。
「おっとぉ、油断したかなぁ」
ルフィの攻撃に意識が向いていなかったのだろう、黄猿はルフィの拳を難なく避けたものの僅かに不服そうな響きを含んだ声をその緩んだ口元から漏らした。
しかし次の瞬間にはまるで“光”のような速度でルフィに近付いた黄猿の攻撃を受けてルフィの体は遠くへと吹き飛ばされる。
「っルフィ!!!」
「お前さんは後回しだ。とりあえず、麦わらの一味の戦力を減らさないとゆっくりお話も出来ないねぇ」
「・・・っ」
慌ててルフィの名を呼ぶシンの横を、悠々と通り抜ける黄猿。
止めなければいけないと分かっていてもシンの足はまるで動かず、伸ばした手で必死に黄猿のマントを掴んでみた所で黄猿の足が止まる事はない。
「まずは、海賊狩り」
そして聞こえたその声に、シンは目を見開いた。
声を、手を、足を、何かを出さないといけないと分かっているのに、全身が凍り付いたように動かない。
その理由はシン自身、認めたくはないものの理解していた。

それは、黄猿の羽織ったロングコートに書かれたたった二つの文字のせいである、と。

『“これ”にお前は逆らえない。』
解かれたはずの呪縛が、今更顔を出していた。
もう目の前に現れるはずのない人物が繰り返し自分に染み付かせたその言葉が、未だに自分を縛り付けるのだ。

“正義”の二文字、が。

そんな状態のシンの異常に、普段の麦わらの一味であったならすぐに気が付いただろう。
しかしこの状況でシンに気が回る人物などおらず、皆の視線はゾロの側に立つ黄猿に向けられていた。
「ゾロ!!」
地面に伏したゾロに攻撃を仕掛けようとする黄猿。
蓄積され続けたダメージのせいで身動き一つとれない状況に陥っていたゾロがそれを避ける事など出来るはずもなく、ルフィの、そして一味の悲鳴に似たゾロを呼ぶ声が響いたその時だった。

「あんたの出る幕かい、冥王レイリー・・・!」
「若い芽を摘むんじゃない、これから始まるのだよ!彼らの時代は!!」

ゾロへの黄猿の攻撃を、一味の窮地を嗅ぎ付け駆け付けたレイリーが寸前で止めるという光景が、皆の目に飛び込んだ。
それに一同は安堵の息を漏らしたものの、決して状況が好転した訳ではない。
目の前には海軍大将、そして自分達を取り囲む海兵達の中にはルフィですら手こずるレベルの猛者と、更には王下七武海にその名を連ねる“暴君”バーソロミュー・くまの姿もそこにはあって。

その状況を真っ先に、本能で理解したのはルフィだった
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。