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サヨナラだけが人生だ ~合縁奇縁~

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
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邂逅

一分、一秒がとてつもなく長く感じる独りぼっちの空間で、変に冴え渡った危険だと訴える"警鐘"が身体中で鳴り響いていた。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・っ」
繰り返し口にしながらも、沸き上がるのは理由のない焦燥ばかり。
そうこうしている内に熱はぶり返し、目を閉じていても揺れる視界に思考能力も奪われていく。
その、刹那。
「っ!?」
遠くで、どこかからさえ分からないけれど遠くで確かに、"何か"が起きたと。
嫌が応にも戦慄き立つ鳥肌が、本能でそれを告げて。

「ルフィ・・・っ」

布団をはね除け、ぐらぐらと立つことさえ不安定な体幹のまま両足を床につけるシン。
途端に崩れ落ちそうになるのを必死に堪えながら、シンは船外へと足を向けた。
それはただの勘だったのかもしれない。
ただの幻聴になるのかもしれない。
けれど確かに聴こえたのだ。
確かに、感じたのだ。
付いていこうと、共に行こうと決めた船長の、確かな怒りの叫びを。
そうなれば寝ている事などもう出来はせず、正常な思考が出来なくなった頭の片隅でチョッパーにごめんと謝罪を思い浮かべるシン。
そして次の瞬間には強く地を蹴り上げ、目的地さえ分からぬままで走り出す。
辿るのはルフィ達の気配。
怒りを含んだその気配を辿るのは然程難しい事ではなく、ふらつく足元をなんとか必死に動かす事でその場所へと近付いていく。
「っ、」
熱は上昇を続けているのか、普通であれば息など上がるはずのない道程を僅かに走っただけだというのに呼吸すら難しくなる程に荒くなる息。
込み上げる吐き気と頭痛は眩暈を催し続けるが、シンはそれでも走ることを止めなかった。
「こ、こだ・・・ッ」
そして辿り着いたのは1番グローブ人間オークション会場。
他の建物と比べて一際目立つその建物からは、大勢の人々が我先にと逃げ惑う様に出てきていた。
「中に、居る、」
シンはフラフラと呟きながら、その人並みを逆流しながらその建物の中へと足を進める。
体調不良から逆に研ぎ澄まされた感覚が、この中に皆が居ると言うことを勘から確実な物へと変えていたのだ。
そしてその確実は、長い廊下を抜けた先にあった大ホールの会場に辿り着いた時に確信へと変わった。
「ルフィ!」
息を荒げながら辿り着いた場所で、目的の人物を見付けたシンはその名を呼ぶ。
ルフィ達の周りには麦わらの一味によって倒されたと見られる複数の鎧を着た人物達。
そしてその時のシンは知らない事ではあるが、オークションにかけられたケイミーを高額で競り落とし、更にケイミーを助けるべく駆け付けたハチを銃で撃ち抜いた事によりルフィの怒りを買い、ルフィの全力の拳を受け気絶した"世界貴族"チャルロス聖もそこに倒れていた。
その中心に居たルフィは、シンの声を耳にすると即座に反応を示す。
「シン!?お前、何で此処に!!」
そしてシンの姿を目にしたルフィは驚きの声を上げた。
それは麦わらの一味は勿論の事、逃げずに残っていた"二組の海賊団"も同じだった様でその表情に一様に驚きを浮かべる。
「ガキ・・・?」
思わず不審そうに声を漏らしたのは、シンが出てきた通路のすぐ傍らに居た赤い髪の男。
見るからに堅気ではないその男、ユースタス・キッドはシンを見る目を鋭く細めた。
しかし今のシンにそれを気にする余裕などなく、ふらつく足取りはルフィ達が居る方向へと向かう。
「貴様も麦わらの一味か!!」
と、その時。
怒声と共に世界貴族の護衛の残党が、シンに狙いを定めて刃を振り下ろす。
それは確かに突然の事であり、更には熱に浮かされ思考が低下している状態の人間にとっては受け流す事が難しい事態だった。
シンの体調状態を知っている麦わらの一味にとってもそれは誰もが思い浮かべた事であり、咄嗟にシンを助けようと皆が駆け出そうとする。

しかし、それは杞憂に終わった。

振り下ろされた刃をヒラリと軽く交わしたシンは、華奢な体躯からは凡そ想像の出来ない威力の込められた蹴りを襲い掛かってきた兵士へとお見舞いしたのだ。
それにより吹き飛ばされた兵士は分厚い石壁を容易く貫通し姿の見えない所まで蹴り飛ばされて。
その光景によって訪れた一瞬の静寂の中、シンはそれすら気にせずにルフィ達の元へと歩き始めた。
「・・・お前、何者だ。」
と、その途中でふとシンに声を掛ける人物が一人。
ゆっくりとシンがその声の方を向けば、帽子を目深に被った目付きの悪い男、トラファルガー・ローがシンを面白い物を見付けたような目付きで見ていた。
「・・・、」
何者かと、その質問に対する答えはシンの中に既にあった。
麦わらの一味だと、その答えを口にしようとシンが口を開いた瞬間、視界がぶれてよろめくシンの体。
発熱により既に限界にきていた体を支える体力は今のシンには残っておらず倒れそうになったその時。
「わっとっと!」
ふわり、柔らかい何かがシンの体を支える。
「キャプテン、大変!この子すごい熱だよ!」
シンの頭上から聴こえたのは焦りを含んだそんな声で、ローはその声に反応してシンに向け手を伸ばす。
「ベポ、支えてろ。・・・40度は超えてるか。こんな熱でよく動いたもんだな。」
その手はシンの額に触れ、凡その体温を経験と感覚から推察するロー。
シンを支えていたベポは、ローが判断した体温を聞いて焦った声を上げる。
「えええ!?40度以上!!?大丈夫なの!?」
「ぶっ倒れてるんだ、大丈夫じゃねーだろ。」
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