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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT047    『高機動装備』




『―――4、3、2…………シーケンス、開始!!』

 エンジニアの言葉が響き、ジュナ・バシュタ少尉は悪意をも感じるほどの加速に若い肉体を晒される。

「ぐ、く、おおおおおおおお……っ」

 悲鳴を上げたくなるが、そんなことも出来やしないほどのプレッシャーに全身を苛まれていた。なんていうことなのか。

 考えていたよりも、何倍かはヒドい……っ。毛根まで全て引き抜かれてしまうような、異常な圧力……か、体が、ゆ、指、一本……う、動かすのが―――恐いっ。ちょっとでも動こうとすれば―――壊れてしまいそうだ……ッ。

 奥歯をギリギリと噛みながら、引きつった顔面で世界を睨む。

 ジュナの視界に広がっているのは、広大な宇宙空間。そして、無数の流星たちだった。流星たちはお互いを破壊するために飛び回っている。あまりにも速く、あまりのもその数は多い。

 流星たちは……いや、モビルスーツたちは、殺意に満ちた全力の攻撃を、周囲の敵に向けて放っている。悪意を感じる―――宇宙を埋め尽くしそうなほどの、圧倒的な悪意をジュナ・バシュタは感じていた。

 ……バカげたGを浴びて、体が苦しんでいる。だからこそ、何か精神が体の苦痛から逃げたくなって、はみ出しているというか?……その肉体からはみ出してしまった感覚が、ジュナ・バシュタ少尉に夢想を見せている。

 データに収集された、実際の第二次ネオ・ジオン抗争の最終戦。アクシズ落下直前のその戦場に、彼女は……宇宙を覆い尽くすほどの悪意の応酬を感じている。

 エンジニアに、これが実際のデータを反映したものだと言われたことも大きいのかもしれない。まるで……今は……その時代、その場所に、自分が移動してしまったようだと、ジュナは感じていた。

「……なんて、戦場を作りやがったんだよ……シャア・アズナブル……っ。きっと、テメーは……大バカ野郎に決まっていやがるぜ……っ」

 永遠に遭遇することのないであろう人物に対して、ジュナは文句を言っていた。追い詰められた精神が、ジュナのニュータイプ、あるいは強化人間としてのセンスは……悪意と焦りと恐怖と悲しみを、心に反映させてくる。

 この場所で死んでいった者たちの怨念を、感じるような気がする。初めての感覚だ。あまりにヒドいGを体中にかけられて、心が狂い始めているのかもしれない……。

『……少尉!意識はありますよね!?』

「あたりまえだ……脳波を、モニタリングしているだろうが……っ」

『いえ。妙に落ち着いているので、機械が壊れているのかと?』

「お、おちついている……?」

 何とも心外な言葉であった。大量のイヤな感覚に触れているというのに、そんなバカなことがるのか……?

 ……。

 ……。

 ……いや、もしかしたら、そうなのかもしれない。認識が、広がっている。加速と共に、見渡せる世界や範囲が広がったからかも?……何というか……これは、俯瞰しているのだろうか。

 ヒトの死や、暴力や、戦闘行為や……悲鳴や爆音さえも。どこか、遠くから見下ろしているような、一種、シャープな感覚なのかもしれない―――あまり、健康的な現象ではない気がするけど……ああ、アレか。臨死体験っていうカンジかもしれないわね……。

 ……でも。これだけ体の負担を感じながら、冷静でいられるというのなら、私の武器になる。加速には強いとは言われていたし、抗G訓練の成績は上位だった。私は、この高機動装備と相性が良いみたいだよ、ナラティブガンダム。

『……心拍数、脳波、安定しています。サイコスーツを使うことで、手動操縦を遠隔操縦がサポートしてくれますよ』

「……強いGに晒されながらも……そんなに動かなくてもいいというわけか」

『自分の身体よりも、感応波を使い、サイコスーツ経由で機体を制御される方がスムーズかもしれません。装備に頼って下さい。我々は、パイロットの負担を減らすために装備を開発しているわけですから』

「……了解だ」

 集中する。サイコスーツに組み込まれている、サイコフレームに対して、語りかけるイメージを注いでいくのだ。

 サイコスーツが赤い発光を放ち始める。

 サイコフーレムが、私の感応波を受信してくれているのね。後は、機体の制御にマニューバのイメージを伝達する……っ!!

「…………んぐ……ッ」

『ゆっくりと動いています。速度が速すぎるために、Gが生まれている。イメージを、もっと、ゆっくりに……』

「……いいや。それも出来ない。モビルスーツに警戒されている……高機動といっても、こちらは追加装備をつけまくったおかげで、デカブツなの……ビーム兵器に狙われたら、撃ち落とされてしまう」

『……そうですね。これは、模擬戦闘訓練でした』

「……大丈夫よ。慣れて来ている……加速して、戦場を飛び回るぐらいは出来る。サイコスーツは、伊達じゃないわ。あとは……攻撃の確認をしなくちゃね……」

 ジュナ・バシュタ少尉は壊れそうなほどの痛む体を動かして、敵に対してミサイルポッドの照準を開始していく。ミノフスキー粒子のせいで誘導装置は無効化されてはいるが、ターゲットに弾頭を接近させれば、ミノフスキーの影響も妨げられる。

『ターゲットの予測の軌道を撃ち込んで下さい。モビルスーツの形式と装備から、パターンを選択し……パイロットの癖を予測して数値を入れるんです』

「分かってる……」

『予測は、イメージ出来るはずです。少尉の能力は、ニュータイプに近い。貴方の勘は、おそらく外れません。自信を持って下さい』


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