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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT036    『グフ・カスタムの空』




 輸送機の後部ハッチが開放されて、4機の『グフ・カスタム』が夜空へと解放される。落下していく感覚を、隊長機のコックピットにいるミシェル・ルオは感じていた。

 端末に表示されている、自分のバイタル・サインを睨みつける。心拍数130。かなりビビっているらしいわね。情けない……オーガスタで、生きるか死ぬかのストレスに晒されていた頃は、もっと肝が据わっていたはずだ。

 圧倒的な戦力差で勝てるシナリオ。

 そんなヌルい戦場に参加しているだけというのに、ビビってどうするのよ、ミシェル・ルオ!!

 『不死鳥狩り』の最前線には、もちろん自分も参加する。それは、端から決定事項なのだ!!……『シンギュラリティ・ワン』との接触、回収……何よりも、リタ・ベルナルとの邂逅……それを実現するためには、私は……今よりも強くならなければならない。

 死に瀕することになる、危険極まる『不死鳥狩り』において、臆病風に吹かれることもなく、状況を冷静に把握しに、時には冷酷に判断を下すことになる。

 あの機体は、『フェネクス』は、己の母艦のブリッジを吹き飛ばすほどに、凶暴だった!!

 ……リタに殺される覚悟もしながら、現場を仕切らなければならない。連邦軍を黙らせて、操ることは……簡単なことではないだろう。現役の戦艦の艦長だ。ジオンとの幾つもの戦いを生き抜いて来た猛者たちの1匹。

 そういうヤツは……うちの隊長さんみたいに、戦いに際しても怯えていたりはしないだろう。

 まして、『フェネクス』の戦闘能力を知らされてはいないのであれば……有能なモビルスーツ部隊を手元に置いていて、相手はガンダムタイプとはいえ、たったの1機ならば、強気に振る舞うだろう。

 指揮を、掌握しなければならない。私の好き勝手にやらせてもらわなければ、『不死鳥狩り』は失敗する。私と……ジュナと、ナラティブ……それを自在に使いこなさなければ、リタと『フェネクス』を、確保することなんて出来ない。

 私は、戦場を識る必要があるのだ!!

 目を見開き、口元をニヤリと笑わせる。笑顔は、戦いのために作られた表情だ。ミシェルはかつて触れたことのある知識を実践してみせる。

 笑えば、心はリラックスする。だから、戦士は戦場で笑うのだ。サディズムと情熱を同居させて、最強のハンターになるために!!

「……いい貌してますぜ、ミシェルお嬢さま」

「そう。褒めてもらって、光栄極まりないことだわ」

「ククク!!……いやあ、やっぱり……オレはミシェルお嬢さまにルオ商会を継承してもらいたいもんっすわ!!……もしも、その野心が湧いたら、お声をかけて下さいね」

 隊長の凶悪な笑みに、ミシェルの背筋はゾクリとした寒気を走らせる。ミシェルには彼の意図が分かった。

 『ステファニー・ルオを殺してやりますよ』。この隊長は、そう告げて来たのだ。それは忠誠の証の言葉でもあり……ミシェルには、やや重すぎる言葉ではある。

 だが、戦士になるためには、舐められてはいけない。戦艦の艦長だろうが、特殊部隊のメンバーだろうが、ジュナ・バシュタだろうが―――ミシェル・ルオは目的成就のために、今後、怯むことなど許されてはいないのである。

「……考えておくわ。もしもの時が来れば……隊長、貴方に、私の命を委ねます」

「ええ。今夜これからこなすように、迅速に問題なく……ミシェルさまに勝利を与えてみせますぜ!!……野郎ども!!射程圏内だ……派手に、爆撃してやれえい!!」

『了解!!』

『焼き払います!!』

『殺しまくってやるぜええ!!』

 4機の『グフ・カスタム』たちは、夜の闇に黒く染まった空中で、それぞれの肩に増設されていたロケット砲を乱射する。

 四連装のロケット砲だ。一撃の火力で、モビルスーツを破壊することは出来ないが、四つも当たれば、十分に壊せる。

 しかし、彼らが狙っていたのは、モビルスーツではない。モビルスーツの近くにある宿舎と、突貫工事で作られたと思しき貧弱な防護壁に守られている、巨大な砲座であった。

 パイロットを宿舎ごと焼き払うことが出来たなら、それで良し。あとは、弱小モビルスーツよりも厄介な、砲座を処理する方が先決なのだ。

 宇宙での広大な戦闘とは異なり、地上という狭っこい空間での戦いでは、『陣地』というモノがモビルスーツに与える勝率の補正は、かなり大きい。

 まずは自由に戦える場所を整えるために、『グフ・カスタム』たちは重たい爆装を最初から消費した。対モビルスーツ戦に備えて、身軽となりつつも……モビルスーツ戦で『正々堂々』と戦える戦場を構築するための行動であったのだ。

 ドゴオオオオオオオオオオンン!!

 爆音が荒野の夜に満ちていた静寂を破壊して、オレンジ色の灼熱の爆裂が、視界のあちこちで花開いていた。

 ミシェルは死を感じた気がする―――今の爆撃で命が破壊されたのだろうか?……確信を得ることはないが、それでも、自分の感性を信じることにした。

 ミシェルは、初めてのモビルスーツ戦を体感しようとしている。己の手で操縦桿を握りしめることはないが、この場所は確実に、死と殺意を浴びられる場所だ。

 ニュータイプの修行の場としては、打ってつけだ。彼女はそう考えている―――。


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