ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT035    『解き放たれる青鬼』




 砂だらけの荒野が眼下に広がっている。ミシェル・ルオは、自分の席に備え付けられた端末を操作して、その映像に情報を反映させた。

 隊長は口笛を鳴らす。

「いい手際ですな」

「ムリ言って、複座にしてもらったのよ?……サポート役ぐらいは買わせてもらうわ」

「どこで習っていたんです?」

「さっきマニュアルを見たのよ」

「……はあ、そいつは、何とも……」

「軍用品が日用品のPCに劣っているとか、考えないことよ。ニューホンコンの監視カメラの制御システム網は、アナハイムが作って来たどのモビルスーツのカメラよりも、多角的に情報を観測出来ます」

「時代は、知らぬうちに進歩しているもんだということですかな」

「そんなイメージで受け取ることが出来たなら、前向きでいいんじゃない?」

 平和な時代が訪れようとしていることの証かもしれない。技術が軍需産業からこぼれ落ちて、民需の産業を支えているのだ。ミシェルは十の指を素早く動かして、小型の観測機が調べ上げた敵の拠点の影像を調べ上げていく……。

「……情報通りみたいね。旧式のザクが5体。もちろん、外側だけがそう見えるだけのことで、その中身は一年戦争の頃とは別の機材が詰まっている」

「でしょうな。ヤツらは、ジャンク漁りも得意だ。ツギハギだらけの機体じゃありますが……一機だけ……あの、右肩に赤いラインを入れている機体」

「これのことかしら?」

 ミシェルの指が端末を叩き、赤いラインの入った旧式ザクを画面に映し出していた。その素早さに隊長は感動を覚える。本職のオペレーターみたいに、指がよく踊るものだ。

「ちょっと、隊長。聞いているのかしら?」

「……ええ。これですな」

 その機体は、他の全ての機体に比べても、醜かった。

「なんていうか、色々なモビルスーツをツギハギしたみたいね……?」

「まさに、そうです。いい目をしていますな、さすがはルオ商会の占術師殿」

「占い師はモビルスーツに詳しくないの。どういう意味があるの?……貴方が注目する機体ということは、脅威度が高い機体ってことなんでしょう?」

「利発な方だ。まさに、そうですよ」

「どう強いの?」

「……八割型は、ジオン系のモビルスーツで組まれていますが……スラスターの類いは、連邦製ですな」

「奪ったのね?」

「あるいは、提供されたのかもしれませんぜ。あまりにも、キレイ過ぎる。略奪品にしては……ヤツの背中に取り付けられたスラスター類は、欠けた部品が無いと来ています」

「……提供ね」

「連邦軍だって、戦争屋の一種ですからなあ。この高原地帯から、ジオンの残党がいなくなってしまうことを……恐れているのかもしれません」

「ジオンとの紛争が無くなってしまえば、モビルスーツの需要も無くなってしまう。供給先の、アナハイムも困りものね」

「アナハイムもですが、地球連邦軍の御用達の、地球の部品屋も失職しちまいますよ」

「……知ってるわ。その企業の会長たちの何人かに、私の易を提供したことがあるものね……社会勉強になるわ。あいつらのロビー活動は、平和を壊していることに貢献しているのね」

「ブラックな世界観と、よく触れ合っておられるようですな」

「ハナシに聞いてはいるし、実際のところ、ルオ商会だってこの経済活動には噛んでもいるわよ。この土地のモビルスーツに、ヘリウム3を提供しているのは、うちだもの」

「……地球を支配しておられますなー」

「そういうことね。でも……ハナシを聞いて、それを手配することと、現場を目撃することでは、心に受ける衝撃が違うわ」

「……楽しんでいるんですかい?」

「少しね。不謹慎よね」

「いいえ。ルオ商会の後継者候補の一人が、そういう視点を養われることは、会長にとっての喜びでございましょうよ」

「何それ?皮肉かしら?」

「素直な評価ですよ。会長からすれば、ミシェルお嬢さまは、ルオ商会の裏を支えるべき存在になって欲しいのだと思います。ステファニーさまでは、やれないことを、ミシェルお嬢さまはこなせますから」

「……ヨゴレ仕事専門?」

「必要悪を振るう覚悟ですよ。ステファニーさまは、こういった世界を嫌う。正当なトレードこそが、ルオ商会を安定させると考えておられる。それは実に正しいことではありますが……我々のような、悪漢を飼い慣らせる質だとは、とても思えません」

「お姉さまの悪口は言わないでくれない?……私は、お姉さまを愛しているし、尊敬しているのよ」

「……そいつは、すみませんね。ですが、会長は仰られたはずですぜ?……陰と陽。この世界は、そういう二元論で成り立っている」

「私は陰なわけね」

「お嫌いではないのでは?」

「……失礼ね。でも、たしかにそうかもね。私は、陽なんてポジションに居座れるようなタイプじゃないってことぐらい、自覚はあるわよ」

 邪悪な女。自覚はあるのよ、ジュナ・バシュタ、リタ・ベルナル……アンタたちの幼なじみのミシェルさんは、大悪党だものね。罪深い裏切り者……でも、その罪を、私はそそいでみせるわ。

「隊長……あちらのカスタム機には注意してコトに当たる。それだけの変更しかないわけね?」

「ええ。隊員全員に情報を共有済みですぜ……いつでも行けます」

「なら。行きなさい!」

「了解だ!!野郎ども、行くぞ!!……『グフ・カスタム』、出るぞ!!」


目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。