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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT034    『襲撃』




 地上には長らくのモビルスーツを使った紛争の歴史の結果、あちこちに旧式のモビルスーツが存在している。モビルスーツという兵器は、かなり有能な兵器である。

 何が有能かと言えば、元々、資源に乏しいスペースノイドたちが基礎設計を行ったことにより、リサイクル面で異常なまでに優れている。

 そこらの砂漠に長らく放置されていたはずの、年代モノのグフでさえも、回収して錆を削り落とし、新品の電子部品を埋め込めば?……生産当時のスペックを、20%近く向上させた機体となって機能した。

「ルオ商会製、『グフ・カスタム』……夜戦仕様であり、まっ黒ですぜ」

 格納庫にあるそのモビルスーツの足下で、隊長は得意げに語った。新品のオモチャを自慢してくる男の子みたいね。そんなことをミシェル・ルオは考えてしまう。

 不謹慎なことね。

 この巨大なヒト型のロボットは、オモチャじゃない。たくさんのヒトの血を吸い上げてきた、邪悪な殺人兵器だった。

 ……しかし、モビルスーツ・パイロットとしての気持ちが騒いでいるのだろう、ベテランのはずの隊長も表情を綻ばせている。

「大昔の愛機に、そっくりだ」

「そうなの。ザクの使い手だと思っていたわ」

「ザクも乗りこなしていましたがね、一番、好きなのは、このグフというモビルスーツです。地上戦での強さは、乗り手次第では、ガンダムにさえも勝るでしょうよ」

「……そんなグフ・カスタムが……4機ね」

「ええ。ミシェルお嬢さまの情報が正しくて、相手さんの戦力が、陸戦仕様の旧式ザク5体だけだというのなら……我々の圧勝は間違いありません」

「そうね。この私を乗せているのだから、圧勝してもらわなければならないわ」

「……分かっていますよ。お嬢さまが乗っている、オレの期待に砲弾がかすりでもすれば……オレの部下たちは、ニューホンコンの海に浮かぶことになる」

「ウフフ。海水浴をする季節じゃないわよ、北半球は」

「……季節外れの海水浴をしなくても済むように、部下どもには言い聞かせています。ですが、もしもの時には、オレの機体も前に出ますよ?……それでも」

「構わないわ。私はね、実戦を味わいたいのよ。超一流のモビルスーツたちの動きを、楽しませてもらうわ。何度も、同じコトを言うのは嫌いよ」

「……了解です。では、こちらにどうぞ」

「ええ」

 隊長にエスコートされて、ミシェルは『グフ・カスタム』に乗り込んでいく。旧式のコクピットは広々とはしていない。視界は狭いが……他の機体と、そして、この輸送機からのカメラの映像をリンクしている。

「航空支援もあります。ヤツらは、旧ザクだけ。こちらの戦力は、圧倒的。蹂躙することになりますよ」

「それでいいのよ。内輪モメで、ネオ・ジオンの残党と、『袖付き』の残党は殺し合ってしまった……そんなシナリオで行くわ」

「そのために、ジオン系のモビルスーツで揃えたわけですか」

「そうよ。私たちが、彼らを殲滅した後で、工作部隊がそのシナリオ通りに現場を編集することになる」

「内輪モメに巻き込まれて、捕虜の地球連邦軍少佐も死亡するわけだ」

「……ええ。あるいは、私たちが回収したって、別に問題はない。どちらでもいいわ。捕虜がいるんじゃ、地球連邦軍は攻められない……テロリストみたいなジオンの残党たちと違って、少佐は本物の軍人だから」

「捕虜になる権利を持っている」

「そうよ。戦争も、法律が支配している」

 ジオン共和国政府に自国の軍隊と認められてはいない、ジオンの地上残党勢力は、軍人という身分は保障されていないのだ。

 捕らえられたなら、ただの犯罪者として処分される。彼らの抗争活動は、ただの殺戮としてしか、法律は評価しない。

「……自暴自棄になって、潰し合う。地上に捨てられたジオンの戦力には、よくあることじゃありますな」

「かつての同胞を殺すことには、抵抗が強いでしょうけれど。頼んだわよ」

「安心して下さい。オレは傭兵。過去のしがらみのせいで、狙いがブレることはない」

「頼りになるわ。この席でいいのね?」

「ええ」

 ミシェルは狭いコックピットをさらに狭くしている、サブの座席に跳び乗った。パイロット席の横にある、ミシェルのためにあしらえた座席だ。座り心地は、高級なソファーのそれには大きく劣る。

 武骨で硬い感触……でも、ジュナ・バシュタは、同じような席に座っている。この席は、ナラティブに使われているものと、同型のものではあり、ミシェルがそれを望んだから、ここにあった。

「良い席だわ」

「そうでしょうな。ここからなら、戦場がよく見えますよ」

「ヒトが殺し合う、恐い場所がね」

 ……ヒトの死を浴びることになる。私も、ニュータイプもどきなのよね。ならば、ヒトの命が壊れる時に放つ……魂から解き放たれる感応波を、感じることだって不可能じゃないはずよ。

 この席には……サイコフレームが仕込まれているんだもの。NTDは無いし、グフ・カスタムの操縦系とは切り離されているけれど。ヒトの死を、魂を、保存するための鋼があるのよ、ジュナ……?

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