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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT032    『袖付きの末路』




 『シャアの再来』、フルフロンタル。仮面に顔を隠した出自不明の男……高いニュータイプ能力から、おそらくはネオ・ジオン製の強化人間と目される―――。

「―――自分たちの組織のために、カリスマを自作するようになったら、世も末だわね」

 パキスタンへと向かう輸送機のなかで、パイロット・スーツを身につけたミシェル・ルオはそうつぶやいた。

 ネオ・ジオンは落ち目の組織だ。ハマーン・カーンを失い、シャア・アズナブルを新たなトップに据えたが、彼もまた第二次ネオ・ジオン抗争の果てに……アクシズ落下作戦の混乱の最中に、アムロ・レイと共に消えた。

 間違いなく、死んだのだろう。もしも生きていれば、フルフロンタルのような代役を作らなくても良かった。シャアの模造品を作り、それに依存する。装備も人材も物資も枯れ果てた組織としては、ある意味お似合いとも言える行動ではあるけれど。

 どこかもの悲しさも感じてしまう。

「考えられる?自分たちの首領を、自分たちで作るって発想?」

『……私にはミシェルさまがいてくれるので、そんな心配をする必要がなくて幸いです』

 ブリック・テクラートは端末越しの通信でも、相変わらず皮肉を少し帯びたお世辞を使ってくれる。いつもの通り。良いことだ。緊張も和らぐというものね。

「……ジュナは?」

『特訓中ですね。複数の兵装を短期間で使いこなすようになるためには、かなりのハードワークが必要となる』

「当然ではあるわね。彼女、対応出来そうなのね?」

『ニュータイプに近しい能力がある。医療チームはそう語っていますから』

「……ジュナは、私よりも、オーガスタには長くいた。他の強化人間候補と同じような前処置も施されているでしょうし……あそこの子供たちと一緒にいれば、感性も否が応でも磨かれたのかもしれない」

『ニュータイプのそれは、先天的な能力ではないという説ですか』

「リタの脳には器質的な変化はない。遺伝子上でも、変異なんてなかった。先天的な進化じゃないなら、環境から学び取る可能性って、あるんじゃないかしら?」

『……ヒトは、高度な学習機能と、環境に対する適応能力を有していますからね』

「そういうことよ。ジュナは、私と同じように……リタにヴィジョンを見せられたのだもの。アレで、コツを学んでいるのかもしれない」

 それに。歴代の偉大なニュータイプたちは、そのほとんど全てがモビルスーツ・パイロットたちだった。モビルスーツで戦わされることで、モビルスーツを学習することで、ヒトは、よりニュータイプとして磨かれる。その可能性は、あるはずだわ。

「……とにかく、ジュナをナラティブとシンクロさせるように調整して。NTDシステムの支配力を上げるには、ジュナの精神活動とモビルスーツでの戦闘時における思考をモニタリングしておくべきなの」

『了解しました。そのように調整させて頂きます。ミシェルさまのために、そして、彼女自身の意志のために』

「そうね。私たちのために、働いて、ブリック」

『はい。そのために、私はいるのですから。では―――』

 いい男だ。自分がレズビアンであり、例外的に男として求めている者が『お父さま』だけでなかったとしたら、彼に惚れたのだろうか?……そうじゃなくて、良かったわね。だって、ブリックもまた同性愛者だものね。

「……ジュナは、ブリックに惚れたりして、失恋したりするのかしらね、リタ……いや、昔から、ジュナが本当に好きなのは……あなただけか」

 どいつもこいつも、非生産的な愛情体系をしていやがる。

 自分たちは、生き物として、どこかおかしいような気がする。オーガスタで精神が歪められたからだろうか?……女子部屋で覚えたのは、慰め合うだけの行為だったから。

 もっと違う環境で生きていれば、もっとフツーの性癖に育ったのか?……分からない。違う人生を歩む自分を想像することなんて、それこそ非生産的だった。スイッチを切り替えるために、黒い髪をなでる。

 意志の鋭さを瞳に帯びさせて、ミシェル・ルオは端末の画面を変える。フルフロンタルは戦死した。ユニコーンガンダム1号機と戦って。ミネバ・ザビの擁立にも失敗した『袖付き』どもは、軍隊を失い、ジオンの正式な継承者という立場をも失っている。

「燃え尽きた灰みたいなモノね……」

 ミネバ・ザビを首魁とすることが出来ていれば、地球に潜むジオンの残党どもや、宇宙に点在するネオ・ジオンの戦力どもも、一つに結集したのだろうか?

 事実上失敗した地球連邦からの独立戦争を、未だに続けている哀れな自己陶酔者ども。もはやスペースノイドたちも、地球からの独立なんて求めてはいない。求めているのは、ただの平穏だってことに、革命家気取りの思想家どもは気づいちゃいない。

 マーサ・ビスト・カーバインの逮捕は、軍需産業が神のように振る舞える時代の終焉を象徴しているようにミシェルには感じられた。

 彼女には、ニュータイプ能力なんて無いのだが、彼女の優秀な頭脳は、地球圏最強のコネクションから吸い上げた情報を分析し、世界が進むであろう未来を予測することを可能としている。

 ミシェルには時空を超える知覚能力はないのだが、時代を読む力は備わっていた。平和な時代は来る。一部の思想家気取りのバカが、バカを騙して限定的に殺し合うことぐらいは起きるだろうが……これから何十年かは、人類は平和を謳歌するだろう。

 ネオ・ジオンの急先鋒である『袖付き』は事実上、滅びているのだ。資本もない、戦力もない、政治的なリーダーも喪失した。『シャア3号』を、彼らは用意できてはいないだろう。いたら、こんなに時間をムダにしない。

「……隊長?」

 ミシェルは端末に呼びかける。愛機であるグフに乗り込んでいる、自分の今夜のナイトは、作業の手を止めて、素早く応答してくれた。

『―――なんですか、ミシェルお嬢さま?』


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