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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT029    『サイコフレームへの依存』




 ……そうだ。全ての解決策は、ニュータイプの能力じゃない。ニュータイプの能力を吸収したか、あるいは共鳴し……フレーム内のサイコミュに、その能力を受容して、変異を遂げたサイコフーレムにこそある。

 サイコフレームは、受け入れてくれるのだ。

 ヒトの願いを。想いを。ニュータイプほどに強い感応波を放つ精神をも、サイコフレームはパッケージしてしまう。

 『フェネクス』が発揮した、亜光速の飛翔。現代の科学の常識を明らかに超越した現象を、あの機体は発揮した。いや、他のユニコーンガンダムたちもだ。人類が現在所有している最強の威力を放つ兵器、コロニーレーザー。それを無効化することさえやってのけた。

 未知の力。

 その単語でそれらの原因を評価するのは、あまりにも乱暴なものであるが、そう表現するのが相応しいようにも感じてしまう―――それほどまでに、フル・サイコフレーム・モビルスーツたちは……とくに、高いニュータイプ能力者をパイロットとして受け止めた機体は変化するのだ。

 『フェネクス』の暴走だって、おそらく本物のニュータイプである、リタを使ってしまったからだ。サイコフレームが、リタのニュータイプ能力を受け止めて、変異した。想定を超越する存在に、サイコフレームは変わってしまったのだ。

「サイコフレームに……リタの魂が吸われた。高いニュータイプ能力を戦場で発揮してしまった者たちはですね……皆、死者の声を聞いたとの研究結果もあるのです。それは……それらの一連の特徴は……決して偶然ではない」

 ニュータイプの能力の本質は、脅威的なまでの共感能力や、観測能力。森羅万象を把握する力―――そして、それは現世だけに止まらない。

「生も死も。刻も空間も……全ての境界線を越えてしまい、彼らは認識することが可能なのだと思います。私も……あの時、リタに見せられたから分かる。コロニーが落ちてくる未来を……そして……コロニーに焼き払われて死んでいく人たちの臭いまで……」

 あれは。

 あれは、きっと。

 ……時空を越えて、未来を認識する力。ニュータイプの認識能力には、おそらく時間や空間、生も死も関係ない。

「……その力を。その神さまみたいな力を……サイコフレームは吸収して、学習し、進化してしまう」

 演算装置として組み込まれた、極小のサイコミュたち。あれは、どちらかというと無機物というよりも、有機物に近い。モビルスーツの『細胞』として、フル・サイコフレーム・モビルスーツたちを活動させている。

 ……あれらには、学習機能が組み込まれている。パイロットの精神が放つ感応波を受診して、最適解の運動を演算し、周囲にそれを伝えるために……使用者の精神活動を、感応波に応じて、学習し、変異していく。だから、まるで『成長する』のよ。生物みたいに。

 いや……『成長』って言葉では生易しい。アレは、『進化している』。ニュータイプの能力を演算して……記録し、模倣していく。

 そして……アクセスしているのかもしれない、未来に生まれる可能性のある化学兵器や発明に……あるいは、もっと高次元の世界にアクセスして、この世界にあり得るはずのない現象を呼び起こしている。

 時間も空間も飛び越える、検索エンジンとして……ニュータイプ能力を帯びてしまったサイコフレームになら、そんな力も可能なのかもしれない。ニュータイプ能力を、喰らい、保存する。

 そして、ニュータイプたちの意志のままに、大いなる力を呼び込む。そういう存在なのだと思う……。

「お父さま……『シンギュラリティ・ワン』を……あり得るはずのない力を……回収しようと思います。神の領域に踏み込むことになるかもしれません。ですが、あの力があれば……ヒトの意志を……ヒトの魂を保存する、進化したサイコフレームがあれば。私たちは、あのサイコフレームの中に……永遠に存在することが可能となるはずです」

 『永遠の命』。

 それを実現することは出来るのだ。

 自分たちの意識を、命を、魂を、記憶を、感情を、何なら肉体の全てを……ニュータイプ能力に進化させられたサイコフレームに、注げばいい。そうなれば……私たちは死ぬことはなくなる。死者にだって、会えるようになる。

 時間も空間も、生も死も越えて、全てを認識する。そういう高次元の生き物として、サイコフレームの一部に融けて、永遠の生を手にするんです……。

「そうなれば……全く、何も、怖いコトなんて、なくなります……死という概念は、この世から消失するに等しい。私たちは、未来にも過去にも、宇宙にも地球にもいて。生きているヒトとも、死んでいるヒトとも会話することが出来る……」

 それは……素晴らしい状態だと思いませんか?

 いいえ、そう考えたからこそ、私に幾つかの実行部隊と、予算を与えて下さった。

「……安心して下さい、私の愛するお父さま。もしも、リタに会えたら……『シンギュラリティ・ワン』の一体を回収することが出来たなら……お父さまの魂も、肉体も……あのサイコフレームの中に融かして差し上げます……」

 命や肉体が定義する、あらゆる束縛の無い世界。そういう次元に、私たちを導いてくれる。リタが覚醒させた、あの『不死鳥』なら……あまりにも相応しい。

「……人類は、死を克服するはずです。リタとユニコーンガンダム3号機、『フェネクス』のおかげで……私たちは、きっと永遠を手に入れられますわ、私の愛するお父さま」

 ミシェル・ルオはそう囁きながら、氷のように冷たい冷凍睡眠装置に口づけを捧げる。親子の愛ではなく、より情念の深い愛を込めて?……いや、あるいは、罪を共に背負うと誓った共犯者の覚悟を込めて。

 彼女の唇は、凍傷さえも起こすほどに冷たい、機械仕掛けの棺へと触れたのだ。リタは聖書に出て来る蛇を頭に浮かべていた。

 人類に知恵を与えて、永遠を捨てさせた叡智。叡智が永遠を捨てさせたというのなら、今度は、叡智を使って……永遠を無理やり神さまから奪えばいい。そんなことを考えながら、彼女の口づけは終わるのだ―――。


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