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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT027    『落とし前』




 ニューホンコンは一年戦争時、ジオンの侵略を受けることのなかった、地球側の大都市の一つである。その理由は、宇宙港があったから。

 宇宙へとつながる、全長10キロメートルほどの、シャトル打ち上げレール……その貴重な存在があったことから、ジオンも攻撃を躊躇ったのである。

 そのことが、ニューホンコンを拠点とするルオ商会の発展に、結果として役立ったことも事実ではあった。

 しかし、10年前、地球連邦軍のタカ派組織である、ティターンズはサイコガンダムをニューホンコンに投入してしまった。彼らからすれば反乱分子である、エゥーゴのメンバーを攻撃するためとはいえ……日本のニュータイプ研究所から連れて来たという強化人間は暴走を開始して、サイコガンダムでニューホンコンに破壊をもたらしたのだ。

 その責任を取らせるために、ルオ・ウーミンは娘であるステファニー・ルオをオーガスタ研究所へと向かわせた。

 十年前のことだった。

 ルオ・ウーミンはニューホンコンを破壊した責任の対価として、『本物のニュータイプ』と目されていた『奇跡の子供たち』。その一人を自分に寄越すよう、ティターンズと掛け合っていたのである。

 ニューホンコンの被害を、たった一人の『超能力兵士』と引き替えにする?……ステファニー・ルオからすれば、その考えに対しては、素直に賛成することが出来ないものであった。

 父親のオカルト趣味も、年々、ヒドくなっていく。ステファニーは父親のことを尊敬していたが、裏の顔を見せられる機会が少なかった彼女は、恐れてはいなかった。

 血で血を洗う世界においては、ニューホンコンの裏社会においては、どれだけオカルト的なカリスマが尊敬を集めるのか、畏怖の対象であることが、どれだけの権力をヒトに集めることになるのか―――彼女は、そんな邪悪な手法は教えられずに育ったのである。

 それもまた、新たな時代にルオ商会を対応させるための、ルオ・ウーミンの考えでもあった。

 ルオ・ウーミンは複数の力を使い分けることでこそ、新たな時代をルオ商会が優位に生き抜けるのだと考えていたのだ……。

 ……現実的かつ現代的な経営者として育てられたステファニーは、父親の全ての面を理解することは出来なかったものの、ティターンズが大切に研究しているニュータイプとやらを、奪い取る……ということには、賛成することは出来た。

 本来なら、ルオ商会の商品をティターンズに当時の三倍は買わせるとか、そういう金に結びつく手法の方が良かったが―――当主である父親の意見には、逆らえることは出来ない。

 どうせむしり取るのであれば、ヤツらの研究に損害を与えてやるつもりで、オーガスタ研究所に足を運んだのだ。エゥーゴがティターンズに勝利したあかつきには、この研究所の非人道性を訴えてやるつもりもあった。

 戦争犯罪人として、裁かれたら良いのだ。そんなときに、ルオ商会は被害者の子を保護したという美談があっても、悪いコトではない。そんな考えも、ステファニーの心の中には存在していた。

 彼女は、根っからの商売人である。父親の裏の側面は、一切、受け継いではいなかったのだ……。

 オーガスタ研究所の所長である、エスコラ・ゲッダ大佐。ティターンズの狂った科学者の一人。その人物が差し出して来た『本物のニュータイプ』。それが、ミシェルだった。

 利発そうな男の子。

 初めてミシェルを見た時、ステファニー・ルオはそう思ってしまったが、名前がミシェルだと聞かされて、自分の発想が的外れだったことを理解していた。この利発そうな男の子は、賢そうな女の子だったのである。

 ……ステファニーは、エスコラ・ゲッダ大佐の言葉を素直に信じてはいなかったのだが、彼女が……ミシェルにまつわる伝説が実在することは前々の調査で把握してはいた。『奇跡の子供たち』の一人。三人もいるけど、その中で一人だった。

 最もニュータイプ能力の高い人物だと聞かされたし、IQは170以上もあると説明を受けた。4カ国語をマスターし、学業的な成績は、どこの名門大学にでも容易く入学できるとも紹介される。とくに数学の能力は、異常なほどに高い……。

 なかなかの天才児だ。こんなヒドい施設では、教育よりも拷問的なテストを受けることが多かっただろうに……いや、あるいは、そんな悲惨な現実から逃れるために、自分の価値を証明するために、必死になって勉学に集中したのかもしれない。

 ニュータイプかどうかは分からないが、賢さの理由に対しては、ステファニー・ルオの予想も及んだ。彼女もまた、父親の期待に応えようと必死に勉学に励んだ根暗な幼少時代を過ごしたものだから。

 保護してやるつもりで、彼女を引き取った。

 まさか、自分の義理の妹になるとは、あの時は思いも寄らなかったが……そのことについても、ステファニーは別に問題と思ってはいない。オカルトのおかげで、ルオ商会が何度か経済的な大損害を逃れて来たことを、ニュータイプの能力なのか、あの子の天才的な頭脳と努力がもたらした結果なのかは……判別がつかないが、損でないなら、問題はない。

 ……今さら、家族だとか、姉妹の絆なんてのは、作り上げることは難しいとステファニーは考えていたし、それが必要なことだとは思いもしなかった。

 父親とミシェルが同じベッドで寝ていることも聞かされなかった。そもそも、新しい義理の妹に対して、ステファニーは興味はない。

 そんなことよりも、ルオ商会の表向きのビジネスと―――ティターンズへの報復に対して精を出していく。

 エゥーゴの勝利と、ティターンズの解体。破滅していくティターンズの残党どもに対して、かつてニューホンコンに被害をもたらした落とし前を取らせようと、彼女は地球連邦政府の人権委員会にオーガスタ研究所と、エスコラ・ゲッダ大佐らの悪行を報告した。

 かくして、エスコラ・ゲッダ大佐は戦争犯罪人として書され、オーガスタ研究所は解体されることになる……やられたらやり返すだけのこと。

 彼女のプライドの高さが、地球連邦軍におけるニュータイプ研究および強化人間開発を衰退させる力の一つとなっていた。

 ……そして、表向きは、ニュータイプ研究と、強化人間開発は禁止され―――世のならいなのか、実用性のある非人道的な実験は、密かに続き……何人もの強化人間を、地球連邦軍は秘密裏に所有することになった。


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