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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT024    『3番目のユニコーン』




 真実を嗅ぎつけることは、ニュータイプの特権なんかじゃない。

 ヒトの本能には、そういうものがある。世の中ってのは、どうしたって悪いコトが多くて。それらの幾つかは、致命的なまでに悲惨なことが混じっていたりする。

 ブリック・テクラートは、右耳につけられた骨伝導式のインカムから、その情報を伝えられる。

 ―――『サイコスーツ』に反応があり。ジュナ・バシュタ少尉の感応波にリアクションをしているようです。

 ……『奇跡の子供たち』の『ニセモノ』。本当に、そうなのでしょうか、ジュナ・バシュタ少尉……?

 貴方の心の力は、ニュータイプのそれにこそ近しいのではないでしょうか。少なくとも、今の貴方は一般処方内の精神安定剤ぐらいしか服用していない。そして、それはむしろ感応波を押さえるはずの薬物だ。

 ……いや。

 今は、サイコフレームについての追及をしている場合ではないですね。そう割り切り、ブリック・テクラートは知的好奇心よりも、己に与えられた職務の実行を選んでいた。

「……想像はついているようですね」

「……ッ」

「そうです。行方不明となった、ユニコーンガンダム3号機。通称、『フェネクス』……それのテスト・パイロットこそが―――」

「―――リタ・ベルナル……ッ」

 押し潰れていく心が、その言葉を吐き出していた。低く揺れるその音は、まるで自分の出した声とは思えないほどに、低くて醜かった。最愛の少女を呼ぶための言葉としては、あまりにも不釣り合いなものであった。

 指で、顔を掴んだ。

 己の顔を、鷲づかみにする。顔を隠したいのか?ブリック・テクラートに、涙を見せたくないのかもしれない。なにせ、コイツはミシェルの秘書なのだから……ッ。

 自分へか、ミシェルに対してか。怒りの震えが唇を開かせて、白い歯をガギガギと噛みしめさせる。奥歯を磨り減らしてきた悪癖が出ているが、気にしない。歯など壊れてしまってもいいとさえ考えていた。

 色々なことがどうでもよくなりそうだ。

 だって、そうだろう?

 リタに会える……そう信じていた。そう信じていたが、コイツは今、何を私に告げたと思っていやがる!?

「……その『フェネクス』は……どうなったと言った……」

「ユニコーンガンダム二号機、『バンシィ』との模擬戦闘訓練の際に、暴走を起こしました。『フェネクス』は『バンシィ』を圧倒し、その後、収容母艦であったエシャロットを強襲、ブリッジを破壊し、27名を殺害……以後、行方不明となりました」

「……宇宙で行方不明だと?……いつのハナシだよ、それは」

「15ヶ月ほど前になります」

「……ッ!!」

「搭乗パイロットのリタ・ベルナル少尉ごと、行方不明」

「……リタが…………15ヶ月も前だと……ッ」

「生死は不明です」

「……死んでるに決まってるだろうが、そんなもんッ!!」

 怒声を浴びせられても、ブリック・テクラートは動じることはなかった。彼は、そうなることを予測していたらしい。

 宇宙空間で15ヶ月も行方不明と言われたら、生死不明もクソもない。そんなものは、常識で考えれば、死んでいるに決まっているのだ―――。

「―――ですが。2週間前に、『フェネクス』は地球圏に姿を現しました」

「……なに?……どういう意味だ、姿を現したとは?」

「……その呼び方が相応しいでしょう。『フェネクス』は、未だに動いている」

「は?……いや、ちょっと待て。燃料は?」

「……通常ならば、とっくに切れているでしょう。『フェネクス』は、定点カメラが追い切れないほどのスピードで模擬戦闘を行ったあげく……母艦を破壊した後に、宇宙の彼方に消えた。高速にも近しい速度を用いて」

「……光速?」

「観測された情報によれば、そうらしいですね。そんな動きをすれば、燃料など消費される……というか、どのロケット燃料を使ったとしても、光速に迫る速度なんて出せるハズがありません」

「……それなのに、出た」

「ええ。それこそが、フル・サイコフレーム・モビルスーツとしての『フェネクス』の特徴なのかもしれません」

「……燃料を使わずに、動いている……?」

「サイコフレームを使用していると考えられています。動力としても、エネルギー源としても」

「……リタの心を喰らってか……?」

「……それ以上は、議論の答えがまだ出てはいません。とにかく、地球連邦軍の『強化人間』、リタ・ベルナル少尉と……ユニコーン三号機、『フェネクスガンダム』は……暴走後に地球圏を一度離脱し……そして、何故か再び戻って来ました。この地球圏に。その理由は……私には、理解しかねますが」

「分かるはずがない……でも、それでもいい。動いているんだな!?」

 裏返った声で、ジュナ・バシュタは問うのだ。灰色の髪の優男は、頭を縦に振ってやる。

「……ええ。機体が動いている以上、パイロットが生存している確率は、ゼロと断じることは出来ません。サイコフレームの暴走時には、物理法則も揺らぎます。光速で動いていたとするのなら……その内部の時間は、極めて遅くなっていたかもしれません」

「……タイムマシンになっていたと?」

「……アインシュタインを信じるのなら。『フェネクス』の翼は、過去はともかく、未来に移動することも出来るでしょう……もはや、技術的な常識や、既存の科学の範囲を超えた状況ではありますが……」

「……そんなことぐらいで、あきらめてたまるかよ。リタを……リタと、会えるんだ。ナラティブが、動けば……」

「はい。『不死鳥狩り』とは、ナラティブを用いて、『フェネクス』を捕獲するミッションとなります。もちろん、リタ・ベルナル少尉の確保も、その作戦目的に含まれている。ジュナ・バシュタ少尉、貴方は、この事実を聞いて、作戦に参加する意志を失いましたか?」


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