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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT023    『フル・サイコフレーム・モビルスーツ』




 ……ユニコーン・タイプとやらは、機密事項の海に潜む存在なのだろう。饒舌なサイコフレーム・フォロワーの言葉は、すぐには出て来なかった。知っているだろうに。でも、ジュナには分かっている。イーサンは、そのうちに話し始める。

 色々と話し込んでいても、ブリック・テクラートが止めに来ないことが、彼を安心させてしまっている。それに……ジュナが、ミシェル・ルオと『親しい存在』だという事実も、彼の心のセキュリティを緩めてしまうと考えていた。

 そして、彼女の考えは当たる。予知能力ではなく、モビルスーツに取り憑かれたエンジニアたちを観察して来た、彼女の経験値による予測の通りに。

「……ユニコーン・タイプは……どれもが皆、フル・サイコフレーム・モビルスーツと呼ぶべき存在のようです」

「フル・サイコフレーム?……つまり、全身が、それだってこと?」

「そうです。豪華な装備ですよね」

「『豪華』っていうか……サイコフレームって、そんなに量産が利く存在なの?」

「いいえ。金属の内部に、高性能のサイコミュを破壊することなく封入するなんてこと、どう考えたって手間暇かかっちゃいますよ。慎重な作業をしても、サイコミュを壊す確率は少なからずあります。ボクは作っちゃいませんけど……こんな精密過ぎるもの、どれだけのリソースを消費してしまうことやら……」

「希少なそれを、ガッツリと投入したってことね」

「そうですね。だから、おそらく数機の試作機しか作られなかったはず……」

「ユニコーン・タイプは、何機あるの?」

「……元々は、アナハイムの裏側……ビスト財団が一機。連邦軍に二機ありました。ですが、1号機と2号機は、サイコフレームの研究凍結が宣言されると同時に、封印されています」

「……だから、3号機に接触しようとしているの?」

「……ええ。そうみたいですね――――」

「―――そこから先は、私からお伝えしましょう」

「ブリックか……」

「て、テクラートさん!?あの……その……すみません!!」

 エンジニアのイーサンは、ブリック・テクラートに謝罪の言葉と共にアタマを深々と下げていた。

 ジュナ・バシュタはそれを細くした横目の視界の端に捉えながらも、顔そのものはブリック・テクラートへと向けていた。

「ブリック。私が言わせたんだ。彼を責めるな」

「……責めたりはしませんよ。ただ、そろそろ……私からも貴方にお伝えしておきたいことがありましてね」

「だってよ。良かったな、イーサン」

「え、ええ……それじゃあ、ボクは、そろそろ……」

「ああ。下がっておけ。ミシェル・ルオの秘書に、顔を覚えられるものじゃないぞ」

 その言葉にはイーサンも、そしてミシェル・ルオの秘書である彼も表情を曇らせてしまっていた。

 足早に立ち去っていくエンジニアを見送った後で、翡翠色の双眸は、ブリック・テクラートを睨みつける。

「それで。色々と無知な私に、何を教えてくれるっていうんだ、ブリック・テクラートよ?」

「……先ほどのハナシの続きですよ。まずは、そこから説明しておきたい」

「ユニコーン・タイプの三機か」

「そうです。気になるでしょうし、気にして頂かなければならないことです」

「……『不死鳥狩り』の『ターゲット』か」

「勘が鋭いようで」

「バカにするな。25年も生きて来たら、色々なことを学んでいるものだ」

「そうでしょうね……では、お伝えします。ユニコーン・タイプと言われるガンダムは、三機存在しています。高性能なフル・サイコフレーム・モビルスーツとして開発されたガンダムたちです。もちろん、試験機ですがね」

「大金かかりすぎて、量産すれば地球連邦軍も破産しかねなさそうだからな」

「……ええ。量産などすれば、そのような事態になりえますし……あんな機体が巷にあふれるようになれば、あまりにも危険でしょう」

 ずいぶんと印象の悪い一角獣どもらしい。ブリック・テクラートは、おそらく自分が思っている程には、表情が顔に出るタイプだと考えてはいないようだ。眼鏡の下で瞳を嫌悪の感情に細めている美青年を見物しながら、ジュナはそんなことを考えていた。

 興味はわいてくる。

 ブリック・テクラートにではない。

 このポーカーフェイス気取りのミシェル・ルオの秘書に、あんな嫌悪を誘発させるユニコーンどもにだ。

「ユニコーンどもは、どんな悪さをしやがったっていうんだ……?」

「……ラプラス事変の中心に、その機体は存在していました」

「……ラプラス事変ね。『袖付き』と連邦があちこちでモメていたアレか」

「そうです。ラプラスの箱が開かれ……」

「ユニコーン信者を喜ばせそうな『怪電波』が放送された。それに影響を受けたヤツは、私の知ってる限りじゃ、誰もいないけどな」

「ええ。政治的には、少しばかり影響はあるでしょうが……世界は、あんな放送があったぐらいでは変わりません」

「で?……そのモメごとに、ユニコーンが?」

「絡んでいました。ユニコーン・ガンダム。ユニコーン・タイプの一号機ですね」

「二号機と三号機もか」

「いいえ。二号機は関わりましたが……三号機は、既にロストしていました」

「既に……ロスト?」

「模擬戦闘訓練の最中に、暴走し……行方不明となっていました」

「…………っ」

 ジュナ・バシュタの表情に獣の様相が浮かぶのを、ブリック・テクラートは認識する。ニュータイプの感応能力などなかったとしても、十分に伝わる。

 ジュナ・バシュタは、彼が伝えにくい真実を伝える前に……真実の一端を嗅ぎ取ったのだろう。

 唇が開き、獣みたいな犬歯が唇のあいだから露出する……ジュナは、怒りを帯びたような低い声で問いかけていた。

「―――誰が、その三号機に乗っていたんだよ……ッ」


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