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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT019




 ジュナ・バシュタ少尉が送った、それからの三日間は、実に慌ただしいスケジュールによって管理されていた。食事と訓練と睡眠と座学。その四つの要素だけが、彼女の心身に襲いかかって来た。

 元々、モビルスーツ・パイロットとしては『それなりに有能』な彼女は、すぐに高度な宇宙戦闘にも対応を示し始めた。強烈なGに対しても、幼い頃の悲惨な体験が有益に機能していたらしい。

 強化人間にも近しい彼女の肉体は、これまでの地球連邦軍生活における鍛錬と相成って、十分に宇宙空間での高速度戦闘にも順応していく。地上よりも、宇宙での戦闘の方が適性が高いらしいと、エンジニアとメディカル・チームは楽しんでいた。

 彼女はある意味ではモルモットでもあった。ナラティブというアナハイム・エレクトロニクスが提供してくれた、古いが実に興味深いオモチャと―――サイコフレームに対する常人よりもはるかに高い適性を持つパイロット。

 それらがそろっている時点で、技術屋の心は躍り出す部分があるようだ。

 ジュナ・バシュタは彼らが喜ぶ姿を見ていた、まるでオーガスタだと愚痴っぽく表現することもあったし……訓練による体力の消耗もあり、若干ナーバスになりつつあった。

 ……三日目の朝は、彼女に対して初めてサイコスーツの装着が行われる。鉄よりは軽いとはいえ、サイコフレームを満載した特製スーツ。それを女の体でまとうことが出来たのは、強化人間崩れである証でもあるようだった。

 鍛錬だけではありえない筋力を発揮して、ジュナ・バシュタはその爆弾処理班が着込みそうな重量型スーツを着て、どうにか立ち上がることに成功していた。

「……重すぎるだろ……っ」

「でも、宇宙空間なら大丈夫ですよ?サイコスーツを着ることになるのは、『不死鳥狩り』の本番は、宇宙空間ですし……そこに行っても、私たちはサポート・チームとして同行しますから」

 エンジニアとも馴染ませるためにか。彼らが自分に対して愛想が良い理由の一つを、ジュナ・バシュタは解明していた。

 モルモットとして興味深いだけじゃない。彼らは、自分とコミュニケーションを築くことさえも仕事の一環だったのだ。愛想が良い研究者ばかりだと考えていた自分の甘さが、本当にイヤになる。

 ……だが、慣れないスタッフと現地で組まされるよりは、その条件はマシである。とくに、サイコフレーム……アレを用いた技術に触れていると、明らかに自分の精神が不安定になる。暗くもなるし、やけに攻撃的な動きをナラティブに使わせたがる……。

 アレに詳しい人材は、この世に数えるほどしかいないだろう。

「……サイコフレームってのは、表向きは封印されているハズだもんな」

「え、ええ。そうですよ」

「ルオ商会の力と、非常識さを実感させられる」

「まあ……ルオ商会は、世界の半分ぐらいは牛耳っていますからね」

「……それのトップの養女が、ミシェルか」

「ええ。彼女は25才にしながら、特別相談役だとか?……少尉と同じように、ニュータイプの素養があるんすかねえ?八卦で、何でも当てちゃうらしいっすよ?」

「八卦?」

「ホンコンの占いの一つですよ」

「占いね……」

 そんな非科学的なモノを、信じるような女ではなかったのだがな。あのガリ勉女は。どちらかと言うまでもなく、怪しげな力に対しては否定的だった。リタの見せたあの光景については……コロニー落としのビジョンについては、すぐに信じたが……。

 栄養ドリンクをストローで吸い上げながら、サイコスーツを脱ぎ捨てて汗まみれのジュナは、自分の身体のラインをチラチラと見てくる、スケベなエンジニアに質問を再開することにした。

「……サイコフレームが要るってことは、『不死鳥狩り』のターゲットも、サイコフレームを持っているのか?」

「……あー。それ、機密事項っすから……」

「でも、予想はついてしまうだろ。サイコフレームなんて、使用していることがバレたら外交問題だ。ジオン共和国と地球連邦政府のあいだに、大きな亀裂が生じてしまう」

「……それは、そうっすけどね。でも、まあ……」

「まあ?」

「ジオン共和国の正規軍はともかく、ネオ・ジオンは……しかも、『袖付き』の連中は、絶対にサイコフレームの研究をしていますよ」

「……タカ派の連中だからな。いや、もっと素直に言えば、テロリストか」

「ええ。そんなカンジっすよね。そんな危険な彼らに対抗するためにも、サイコフレームの研究は地球側の保険に成り得るはずですよ?」

「それが、アンタの免罪符か」

「そうっすね。相手が守っていない約束を守っていて、こちらが出遅れたら?……宇宙の工業力や、それに人脈を舐めちゃいけないっすよ、少尉」

「人脈か……」

「アナハイムの技術と、ネオ・ジオンの技術は似ている部分もあります。アナハイムに技術と研究成果を提供しているヤツらの中には、おそらくネオ・ジオンの息のかかったヤツらとか、下手すりゃ、『袖付き』だっていると思いますよ」

「なんでもスカウトするんだな。アナハイムも、技術戦争に勝ちたいか」

「そりゃそうでしょう?……彼らがサイコフレームの技術を牛耳っておけば、サイコフレームがバンバン使われまくる戦争が起きた時、地球と宇宙の、どちらにもサイコフレーム兵器を売れますから」

「……商売人だけが、血を吸って肥え太るわけだ」

 戦争ってものが、経済に支配されている―――というよりも、戦争行為そのものさえが経済の一環に過ぎないとされたら……戦争で死んでいった兵士たちが見せられていた夢やら正義ってのは、どうなるんだろうか……。

「気持ちが滅入ってくる」

「サイコミュの影響っすかね?」

「いや、多分、そうじゃないと思う。このサイコスーツは、重くて熱くて、動き憎いけれど……私の心を、そこまではざわつかせない」

「馴染んでいるのかもしれないっすね、サイコスーツと?」

「どこからの技術なんだ?」

「……正直、自分らも知らないっすね。サイコフレームそのものについての研究論文も数少ないっすからね。それを、コンパクトにまとめて、パイロットに着せちまうなんて発想は……ジオンっぽくないっすかね」

「……まさかのジオン製品説か?」

「ありえなくはないっすよ」

「敵とか味方が、分からなくなる」

「大きな戦が起きなくなれば、そうなるっすよ。変なさや当てみたいに探り合う戦争になるんじゃないっすかね。技術屋のボクらにゃ、戦争論は専門外だから、自信を持てない予測になるっすけどね」


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