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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT012    『実験棟』




 長い沈黙の果てに、リムジンはどこかの基地に入っていく。たしかに、地球連邦軍の基地ではあるらしい。コンクリート製の門には、武装した兵士がいた。服装は連邦軍そのものだった。

 だが、スペースノイドには特徴的な『角』が生えていたり、緑色の皮膚をしていたりするってワケじゃない。彼らが本当に連邦の兵士なのかを証明する手段は、ジュナにはないのだ。

 ジュナは不満げな顔をしたまま、リムジンの窓から外を見続けた。四角く、巨大な建物が見えてくる……軍事施設というのは、どこも合理的な建築哲学によって作られているものだ。

 宿舎も倉庫も、一目で分かるように出来ている。どこに行っても、それらを見間違えることはないだろう。

 だからこそ、分かるのだ。

 あの四角く巨大な建物が何なのか、ジュナ・バシュタには直感的に分からない。その事実から逆引きすれば良かった。あの建物は、一般的な軍事施設などではなく、何か特別な実験だか研究を行うための施設なのだろう。

「……アレか」

 あごをしゃくって、ブリック・テクラートに訊いた。ブリックが丁寧な仕草でうなずくのを、ジュナは視界の隅で見ていた。

「そうです。よく分かりましたね」

「研究所には、慣れっこなんだ。どれだけ、そこに住んでいたと思う?」

「それは……」

「……すまん。イジメ過ぎているな」

「いえ。大丈夫です」

「大丈夫か。そいつはタフで良かったよ」

 私たちみたいな壊れた女どもと絡むのには、最適な性格をしているのかもしれない。ミシェルは、コイツに抱かれているのだろうか?

 ……私はレズビアンだから、ピンと来ないが……そんなことがあったとしても、私が気にすることじゃない。

「あそこに向かうのか?」

「そうです。そこで、貴方に見せたいものがあります」

「モビルスーツか」

「……どうして?」

「ただの勘だ。そもそも、私は……モビルスーツを運用している特殊部隊に合流するという命令を受けていたんだしな」

「その命令は嘘ではありません」

「なに?」

「我々の仕事に協力して頂けるのであれば、近い将来において、貴方はその部隊のメンバーに選ばれる予定です」

「予定ね」

「……失礼しました。それを決めるのは、全て、ジュナ・バシュタ少尉の判断です」

「……私に選ぶ権利をくれるのか」

「ミシェルさまが、そうお望みになられていますので」

「断れば?……荒野に裸で放り出すか?」

「……一般人として生きて行くには十分な資金を提供します。そして、コロニーであろうが、地球であろうが……どこにでもお送りして、安全な日々を送ってもらうことになるでしょう」

「……私を、地球連邦軍にはいさせてくれないわけだ」

「有名になり過ぎます。地球連邦軍の中に、いつまでも『奇跡の子供たち』の一人が居続けることは、危険です。再び、オーガスタに逆戻りという事態も、あり得ないとは言い切れない」

「オーガスタは閉鎖されたはずだぞ」

「それで、組織が滅びるとでも?……組織は、器でしかありません。ヒトの意志を注ぐだけの器」

「……エスコラ・ゲッダやドクター・マルガみたいなクズは、幾らでもいるか」

「……はい。『ユニコーン』も、動きましたからね」

「『ユニコーン』?」

「こちらのことです。安全な場所を確保することは、難しい時代になって来たということですよ」

「ニュータイプを、また世の中が求めている?」

「求め続けている者は、尽きません。それが、どんな結末を招くか……どれが、どんな残酷な道になるのかを、ヒトは学びませんから」

 悲観論者というよりも、現実的な考え方なのかもしれない。ニュータイプ。秘匿された神々しいまでの能力。そんなものに触れてしまえば、その力が放つ魅力に呑み込まれてしまったとしても、おかしいことではない。

 ヒトは……何かに依存したいものなのだ。

 ……リムジンは進み、その四角い施設の前で止まった。

「到着しました。私について車を降りて下さい」

「スナイパーでもいるのか?」

「最低でも4人ほど。この施設は、機密のかたまりのような場所ですから」

 存在を隠蔽された場所。まるで、ニュータイプ研究所のようなにおいを感じるな。だが、たしかにアイツがオーガスタを再現するとも思いにくい。私よりも、繊細な女だったとは思っちゃいないが……自尊心はある。

 だからこそ、あんな穢れたモノに自分から触れようとは考えないだろう。それに、モビルスーツだと言ったな。ブリック・テクラートは、嘘をついているようには思えない。

 ……顔がいいから、騙されているのか?

 だとすれば、私もしょせんは女だな。

「では、ジュナ・バシュタ少尉」

「ああ」

 灰色の髪の青年について、赤毛のジュナはリムジンから降りていく。オーストラリアの熱い日差しと、軍事施設のコンクリートが陽光を跳ね返す熱にもみくちゃにされる。

 熱さのなかを、小銃を構えた兵士たち4人がゆっくりと近づいて来た。銃口をこちらに向けてはいないことは、好ましいことだとジュナは考えていた。

「……彼らは、ここの護衛です」

「ブリック・テクラートの後ろを歩くことにするよ。同じ連邦軍人に銃撃されたりしないようにな」

「ええ。そうして下さい」

 仏頂面の兵士たちのあいだを、ブリック・テクラートは涼しい顔で歩き、ジュナはその後ろを言葉の通りに歩いて行く。

 向かうのは、あの四角い建物だった。周囲を見回した。兵士を刺激しない程度にゆっくりとした動きで。そして気がつく。この基地の周囲には、ジェガンが配備されている。

 4機だ。見えるだけで。スクランブルに備えている機体は、まだ近くにあるのかもしれない。

 しかし、あまりにも厳重な警備はしていない。していれば、敵に気取られると考えてだろう。守ることにも力は入れているが、それ以上に隠れることに気を使っているようだ。

 ……まったく、こんなことろで何を作っているというのか。


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