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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT228    『決意』


「うふふ。いつか、ジュナも母親ってものになれば、分かるわよ」

「男と寝るとか、考えられない」

「あら。それなら、貴方にも私のクローンを妊娠させてあげてもいいけど」

「……貴方にも、ね。ろくでもないことばかりしていると、いつか痛い目見るぞ」

「あらまあ。『聖なる営み』をろくでもないことですって?……そういうのは、良くないことだと思うわよ、ジュナ?」

「……いいさ。あの子は渡した、この病院のヤツらに任せるしかない……見張りは?」

「医療スタッフが2名と、サイコミュの調整スタッフを2名ね」

「裏切る心配がない、ルオ商会の傀儡たちか」

「ええ。裏切れば、家族がバラバラにされるって分かっている。そして、自分たちも必ず捕まって、報復を受けるという事実もね」

「忠実に働いてくれそうだな」

「そうなると思うわ。ルオ商会の『絆』を舐めちゃダメよ、私の愛しいジュナ・バシュタ少尉」

「……そういうのを『絆』って呼べるのは、お前の強さかもしれないな」

 幼なじみたちはそんな言葉を交わしながら、久しぶりに笑顔を見せ合っていた。心が落ち着く瞬間がある―――10年のわだかまりも、ゆっくりと融け始めているような気になれた。これで……これで、リタ・ベルナルがとなりいれば、全ての時が戻ったかのような気持ちになれるだろう。それを望んで、宇宙まで彼女たちはやって来た。

 結末は……素晴らしいものばかりだとは、限らないということも、十分に承知の上で。

「……さて。さっさと戻りましょう。本題の方に」

「ん。そうだな。リタに会わなきゃならん。そして……終わらせる」

「回収するのよ」

「……分かってる。銀河旅行から戻って来た幼なじみを、抱きしめてやるつもりだ。そのための、サイコ・キャプチャーだ」

「そうね。頼んだわよ」

「……進化したサイコフレームを回収したいのか?」

「さっき話したでしょ?……実現させてみたい。ヒトが、死という概念から解放されたら……死者と生者の垣根が消えて、誰もが、いつでも、心を融け合わせるように交わしあえたなら……それは、それこそが、人類の真なる調和の始まりかもしれない」

「科学でヒトを進化させるつもりなのか」

「ええ。そう言えるかもしれない。でも……見たくない?生者と死者が、お互いに理解し合える世界。ヒトは……死の概念から解放されるという、歴史上の特異点に接触することになるかもしれないわ」

「……機械につながれた魂に、永遠の安らぎと平和が訪れるか。だが……それは、お前自身が言った限界も持つものだな」

「分かってるわ。でも……死の克服も、私の夢。サイコフレームの中には、リタの魂も住むことになるわよ」

「…………そうか。それが、私たちの罪滅ぼしになると、思うか?」

「……難しい質問ね。でも……どうあれ、すべきことは一つよ」

「ああ。NTDに支配されつつあるのなら、大量破壊兵器そのものだ。リタに、罪を重ねさせることはしない。あの子は、やさしい少女であるべきだ」

「そうね……リタは、そうでなくてはいけないわ。『奇跡の子供たち』……本物の奇跡を起こして、ヒトを救った聖なる女の子なんだものね」

「……決心はついたよ。リタに、合いに行こうぜ」

「うん。全ての決着を、つけに行くとしましょう。ここにいたって、あの母子に視線を集めるだけにしかならない。さっさと、船に戻りましょう」

「……スペースノイドは、全員がジオンの手先だっけかな」

「可能性は捨てきれないわ。とくに……ネオ・ジオンだか、ジオン共和国だかのモビルスーツ部隊も、フェネクスを追っている」

「このコロニーに、『ハーベスト』にスパイを仕込んで、色々と嗅ぎ回らせている可能性は捨てきれないわけだ」

「ご明察よ。さっさと行きましょう。私服姿の女2人。どこにでもいる聖なるレズビアンのカップルにしか見えないけど、ジオン系のスパイは有能かもしれないし……ここの施設にも、ジオンに関わったことのある連中がいるかもしれないものね」

 ……レズビアンのカップルに偽装しながら、ジュナ・バシュタ少尉とミシェル・ルオはその医療施設を後にする。

 彼女たちの予感は的中していた。この施設内にも、そして、港湾周辺の労働者たちの中にも、ジオン共和国軍のスパイは存在している。医療施設側にいたスパイは、彼女たちが運び込んだ患者の正体に気がつくことはなかったが、輸送船とモビルスーツを搬入した港湾部にいたスパイは、ルオ商会の輸送船の武装レベルを上司に暗号通信で送っている。

 その暗号は、一つの軍艦に届くこととなった。

 フェネクスの襲撃情報を捉えて、この宙域にやって来ていた、『袖付き』どもに偽装した、ジオン共和国軍の特命部隊―――ゼリータ・アッカネン大尉が名目上は指揮権を持っている船である。

 ゼリータ・アッカネンは、宙に浮いたサクランボを歯で噛みつぶしながら、その報告を聞いていた。

「……なるほど。敵戦力は分断しているわけだ。コロニー内に、不死鳥に襲われた死傷者を運び込んだか。悪くないことだと思うだろう、エリク・ユーゴ中尉?」


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