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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT222    『バイザークラッシュ』


「オレはね、スワンソンくん。基本的にヒドいヤツだからさ……酷い目に遭っているヤツらを見ても、あんまり助けてやったコトとかは、ないんだよ」

「あまりってことは、少しはあるわけだ。アンタは、たぶん、自分が思っているよりは、少しぐらいマシな人間なんだと思うぜ」

「惚れたのかい?」

「……ハハハ。いいや。だが、編隊を組んでもいいって思えるぐらいには、信用している。アンタは、仲間のためになら命を賭けられるパイロットだろ」

「そんなに熱い男に見えるとすると、買いかぶられているよ。オレちゃんは、出来ることしかしないタイプの男だ」

「それでいいのさ。そうじゃないと、ヒトってのはムリする。死に急ぎがちなヤツは、チームに一人だけでいい」

「……悪くない哲学だと思うよ、それ。ホント、その通りだなって思えるからさ」

「さて、行ってみようぜ?……悲惨なことに、ならなきゃいいけどな」

「……ルオ商会の巫女さまは、なんだか悲しげな瞳をしていたな。ナーバスになっている女の近くには、たいがい、悲しいコトがあるもんだよね、スワンソンくん」

「不吉なことを言うなよ…………いや。そうじゃないか。素直なんだな、アンタは」

「皆が薄々、分かっていると思うよ。ルオ商会の巫女さまは、本当のニュータイプなんだろう。宇宙に上がって、力を得た……オレちゃんも、宇宙に来て、なんだか感覚が広がってはいる気がするんだ」

「ニュータイプに覚醒するには、年寄り過ぎじゃないか」

「オールドタイプだって、鍛えれば色々と力を見せつけるもんだよ。それに、不幸に対しての洞察にはさ……ちょっとだけだが、自信ってものがある。大した自慢にはならんが」

「……行ってみよう。シェザール7は、上手いこと着艦させてる。彼女も、きっとニュータイプなんだろう。旧式の機体で、あのソフトなモーションは、オレにだって出来ない」

 ベテラン・パイロットたちはそんな会話をしながら、ミシェル・ルオとイアゴ・ハーカナ少佐のあとを追いかける。彼らが格納デッキにたどり着いた頃には、ナラティブガンダムとコンテナは、輸送機の内部に収納され、呼吸可能なエアーに包まれていた。

 格納デッキのスタッフたちが、コンテナに固定用のクレーンを向けた。高度なAIに制御されたマニピュレーターが、そのコンテナを完全に床面に定着させる。

「医療チーム、急いで!!」

 ミシェル・ルオがそう叫んでいた。ジュナ・バシュタ少尉も、解放されたナラティブガンダムの胸部ハッチを蹴り、コンテナの元へと向かう……コンテナ丈夫にある、緊急用の開閉装置……そこにたどり着いたジュナ・バシュタ少尉の指が、古くさいタイプのコンソールを叩くが―――。

「―――ダメだ、機能しないぞ!!こじ開けるしかない!!」

「オレに任せやがれ!!」

 作業用のバーナーを抱えたイアゴ・ハーカナ少佐が、慣れた宇宙遊泳を実行しながら、コンテナのもとへとたどり着く。

「……デカい機械ね。それ、どこから?」

「どこかそこらへんにあるのを、かっぱらってきた。任せろ。人力で使えば、負傷者なんて出さずに、こいつを最速で開けられる」

「……了解よ。少佐、頼むわ」

「任せておけといっただろ!!」

 磁石入りの軍靴でコンテナに張りついたイアゴ・ハーカナ少佐は、そのまま大型バーナーを起動させて、破壊されたコンソールの隣りにある小さなハッチを焼き切っていく……火花が散り、顔や腕にそれを浴びるが、彼は怯むことなどなかった。

 すぐさまにハッチは焼き切られた。作業員たちが集合している。工具をハッチの隙間に突っ込んで、機械仕掛けのパワーを用いて、ゆっくりとハッチをこじ開けていった。

「ハッチを固定しておけ!!吹っ飛ぶぞ!!」

「大丈夫だ、固定した!!やってくれ、こじ開けろ!!」

「いくぞ!!3、2、1、今ッッ!!」

 バガシュウウ!!……乱暴な音がして、ハッチが一つ開いてた。ジュナ・バシュタ少尉は強化人間の身体能力を見せて、その内部へと飛び込んでいく。彼女の心には、見えていたのだ。感応波を出す、何か……とても小さなものが。

「……っ!!」

 そして。彼女は真実を目の当たりにする。網膜に映し出されたそれは、ジュナ・バシュタ少尉の表情を険しくさせるものだった。割れたヘルメットのバイザーと、飛び散る血の塊。

 割れたバイザーの奥には、白目を剥いて口の端に泡を吹いた若い女がいる……密航者だろう。新たな生活を求めたのか―――それとも、ふくらんだ腹の子の父親にでも、そそのかされて、コロニー間の安上がりな移住を試みたのか……どうであれ、彼女は深刻な低酸素環境に晒されてしまっていたようだ。

「……っ!!クソがああ!!医療チーム!!医療チーム、さっさと来い!!手術を準備しろ!!妊婦が死にそうだ!!たぶん、もたんぞ!!……だから!!せめて、腹んなかにいるガキの命だけでも、助けてやれ!!」

 ジュナ・バシュタ少尉は宙に力なく浮く瀕死の母親を抱きしめながら、喉に痛みを出すほどに強く、そう叫んでいたのだ。

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