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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT220    『コンテナ』


 ジュナ・バシュタ少尉は、ナラティブガンダムを微弱な信号に向けて飛ばせる。ナラティブガンダムのV字アンテナは、着実にその微弱な信号を拾ってはいるようだ。この悲惨な空間のなかに、生存者がいる……?そこら中に、デブリだらけなのに……。

 ……でも。いるとすれば、やはりあそこか。

 分析された情報が、ジュナ・バシュタ少尉の予想に追随する。ニュータイプ能力により予測したというわけじゃない。常識的な判断だ。コンテナの一つだ。フェネクスに襲われて、ぐちゃぐちゃに破壊された輸送船の積み荷の一つ。

 そこに隠れていたヤツがいた。密航者……本当にいたのか。しかし……宇宙空間を漂うコンテナの多くには、斬り裂かれたような痕跡がある。フェエクスは、何もかもを破壊しようとしている……。

 殲滅のためのモード。

 総力戦用の戦いということか。スペースノイドを抹殺するための仕組み。かつてのティターンズと同じような戦いの哲学を、フェネクスのNTDは人格として搭載しているようだ。

 ……そんなものに、操られるのかよ、あの、やさしいリタが……。

「……くそ」

『……えーと。反応、切れちまったんすかー?』

『……そいつは残念だ。きっと見間違いだったんだろうな。さてと、モビルスーツに死体を探させようか』

「違うわよ。ちゃんとデータを共有しているの?」

『……はーい。分かってますよ。あのコンテナっすよねー?』

『……あそこだけ、壊れていないな。あのコンテナだけ、フェネクスってヤツは反応しなかったのか……?』

「そうみたいね」

『バシュタ少尉は、その理由とか分かりますかー?』

『幼なじみパワーとか、ニュータイプ力とかでよ?』

「アンタたちには双子のマジカル・パワーはないのよね?」

『オレたちはー、きっと心が穢れているからダメなんだよなー?』

『そうだろうな。オレたち、きっと心に汚いフィルターがかかっちまったままなんだ。主に大尉のせいでさ』

「……ほんと。無駄口の多い男どもよね。アフリカ戦線とか、クズ野郎ばっかりだったのかしら」

『クズは多かったすよー』

『全てのクズは、アフリカの荒野をうろついているってレベルだよ』

「良かった。一生、行かないわ、そんなバカみたいな土地……不時着でもしない限り、スルーしてやる」

『そうやってー、イヤがってると、アフリカに呼ばれちまうんすよー?』

『アフリカの神秘の力によって、大尉が召喚される日もあるかもな。汚職と民族紛争、環境テロリストどものフルコースを満喫するといい。モビルスーツ・ゴルフだけが唯一の正しい娯楽だって、きっと理解することが出来るよ』

「……ワケ分からないこと言っていないで、フォローして。オート・キャッチはオフにしているのよ」

『慣性で死んじゃわないよーにってヤツすか?』

『器用なことするよな。そういう繊細なタッチ、モビルスーツ・ゴルフのスイングの時にしか出来ねえよ』

「はあ。モビルスーツでゴルフ出来るなら、相対速度とか、空間的な軸を合わせて、やさしくキャッチすることぐらい……簡単なはずなんだけどね」

 さてと。お口にチャックして、集中力を使うとしましょうか……これって、地味だけど難しいのよね。モビルスーツとコンテナを衝突させてしまえば、中身を殺す可能性はある。相対速度と、縦横上下の軸を合わせて……。

「こういうの、私は得意。こういうの、私は得意。こういうの、私は得意なのよね。ナラティブ、繊細なタッチで、あのコンテナに触るわよ!!」

 言葉がモビルスーツに聞こえることはないかもしれないが、ジュナは祈らずにはいられなかった。感じるのだ。双子どもにニュータイプ力だとか言われてバカにされるかもしれないから、秘密にしていたが。

 たしかに、弱い力を感じる。この小さな鼓動は、この小さな気配は何だろう。弱くて、儚い。命が、きっと……この宇宙に融けてしまいそうな状況なのかもしれない。つまり、露骨かつ端的に言えば、この中身……死んじゃいそうってことなのよね。

 ナラティブガンダムは、その大きな腕を一杯に開いて、コンテナを受け止めるようにして接触していた。物理学が計算されていき、この体勢でもコンテナの内部に危険な振動が生まれないようにコントロールされていく。

 どうにかなりそうだ。ゆっくりと、やさしく抱きしめる。壊れてしまいそうな命に、その必要性はあるだろう…………リタが、殺さなかった命を、私が殺してしまうわけにはいかないじゃないの。

 ナラティブガンダムの重心と、コンテナの重心が完全に一致する。これで、推力を用いることが許される。そうしても、中のヒトにはダメージが最小限で済むのだ。ナラティブは繊細なスラスター操作を行い、コンテナに回転を与える。

 ねじれるような軌道で宇宙を回転しつつ、何度かの微調整をスラスターで行い、コンテナの漂流方向を母艦へと向けることに成功していた。

「さすが私ね!!ニュージーランドの海で、海難救助ばかりしていただけの腕前はあるでしょう?モビルスーツは、殺すためだけの道具じゃないのよね」

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