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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT218    『義務』


 ナラティブガンダムにジュナ・バシュタ少尉は乗り込んでいく。無重力には、かなり体は慣れている。サイコスーツに身を包んだまま、彼女の肢体は宙を飛び抜けて、狙い通りにナラティブガンダムの胸部にあるハッチへとたどり着いていた。

 彼女の体は滑り込むようにナラティブ・ガンダムの内部へと入り込む。シミュレーションですっかりと彼女の体が覚えてしまったシートの感触を、背中はサイコスーツ越しに感じていた。

 サイコスーツを着込んでいるが、サイコミュは使わない。アレは疲れてしまうからだ。マニュアルだけでも、パイロットはモビルスーツを動かせるのだし……戦闘時以外に、あの仕組みは必要ではないのだ。

「……ふう。生き残りがいてくれればいいのか。そもそも、密航者がいないほうがいいのか。とにかく、仕事よ、ナラティブ。軍人だって、人殺し以外の仕事をすることもあるのよね……とにかく!ジュナ・バシュタ!!ナラティブガンダム、タイプC!!行きますッ!!」

 サイコキャプチャーを装備していないタイプC。フェネクスを『破壊』するための装備を身に包んだナラティブガンダムの床下が開いて行き、天井から吹き付けられたスラスターの突風を浴びて『落下』していく。

 ドロップ方式……戦艦には構造上の弱さから、採用しているものは少ないが、あくまでも民間の大型輸送機ならば、これが最適な出撃方法ではある。素早く、大量にモビルスーツを展開することが出来るのは利点である。

 輸送機が構造的に虚弱になってしまうという弱点もあるが……戦闘行為に晒さなければ、十分な頑丈さは有しているのだ。

 宇宙に沈んでいきながら、ジュナ・バシュタ少尉は、全方位に広がる無限の闇を―――宇宙という存在を体感している。高度に再現されたシミュレーターと、ほぼほぼ変わらない映像と感覚であるが。これには催眠装置も薬物的な処置も、シミュレーターによるまやかしも存在していないのだ。

 真なる宇宙……無音と、極寒……あるいは高熱をもつ、真空の地獄。生物の生存を許すことのない、暗黒の世界……。

「……そのはずなのに……感動しているのは…………星が見えるからかな」

 ナラティブガンダムの両腕と両足を広げながら、ジュナ・バシュタはガンダムを通じて宇宙を抱きしめ、そして抱きしめられてもいる感覚に取りつかれる。彼女は、この感覚を好ましく考えているのだ。

 宇宙に、彼女は命を感じ取ることが出来る。広大にして無限の闇のなかにも、息づく光と命を感じることが出来るのだ。それは、彼女がニュータイプだからかもしれない。宇宙に出ることで、彼女のその力は覚醒しつつある……。

 ……リタに導かれて、オーガスタで開発され、今となっては自分で磨き上げた能力である。そして……宇宙とガンダム、そしてサイコフレームの入ったサイコスーツによっても強化されつつあることが、ジュナ・バシュタ少尉には理解することが出来た。

「……私は……アムロ・レイには及ばないだろうけど。アムロ・レイの影ぐらいにはなれるかもね…………アムロ・レイのせいで、私たちは歪められて狂ってしまったけれど……これからも、私たちみたいなのは、作られてしまうんだろうけれど……それでもさ、リタ。私とお前と、ミシェル……私たち3人の、クソッタレな物語を……終わらせることぐらいは、出来るよな」

 ナラティブガンダムが、自分の言葉に同意してくれたように感じる……。

 ガンダムという形は、あまりにもニュータイプやヒトの恐怖や憧れに触れすぎた存在なのだろう。宇宙を漂う無数の戦死者たちの魂が、そのガンダムの一族の一端ではある、ナラティブガンダムに語りかけているのかもしれない。

 おそらく、そのやさしげな魂たちは、理解しているのだろう。

 『奇跡の子供たちの神話』……そんなもののせいで、狂ってしまった自分たちの人生に決着をつけようとしている者の苦悩と……その戦闘意欲を。

「……ガンダムと。クソッタレな宇宙世紀の戦争に関わって、命を散らしてしまった者たちよ……願わくば、私とガンダムに、力を貸してくれ…………コロニー落としから、街のみんなを助けてやった女の子を……苦しみから解放することってさ……そういうの、とても大切な戦いだろう……?」

 ……ジュナ・バシュタ少尉の呼びかけに、応える魂もいるだろう。応えずに拒絶する魂もいるだろう。世界を構成する心は、やさしいだけではないのだから……ナラティブガンダムは宇宙へと沈んでいく……そのベクトルに上乗せするようにして、ジュナ・バシュタ少尉はスラスターの噴射を組み込むことで、更なる加速を得た。

 目指すのは、ユニコーンガンダム3号機、フェネクスによって破壊された大型の輸送機の残骸だ。レスキューに入るのは、自分たちが一番乗りのハズ。連邦軍が色々な嘘まみれの情報を流して、この場所の人払いをしたからだ。

 自分たちには、漂流者や生存者を探す義務がある……そうであるべきだ。パイロットという存在は、殺戮を行うためにいるわけではないのだから。


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