ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT216    『復讐心』


 14時間の航海の後に、輸送船はフェネクスが民間輸送船を襲った宙域へとたどり着いていた……宇宙を漂う、大型の輸送船……その残骸が映されたモニターを見つめながら、ジュナ・バシュタ少尉は苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。

「……これを、リタがやったというのか」

「……リタというより、フェネクスに搭載されているNTDでしょうね。輸送されていたのは、ヘリウム3……」

「核融合炉の燃料か。それを求めたというのか、フェネクスが?」

「そうかもしれないわね……光速を捻出するためのエネルギーが必要だったのかもしれないわ」

「フェネクスは疲弊しているというのか?」

「ハーカナ少佐は楽天的ね」

「……モビルスーツなんてものは、整備を受けなければロクに動かなくなるのがフツーでな。推進剤も冷却剤もフツーはいる……そもそも、戦闘や長時間の飛行を行えば、機体全体が歪むもんだ。それを微調整しなければ、本来は動かん……まあ、フル・サイコフレーム・モビルスーツが、常識の範疇にあるのかは、オレとしても自信を持てないがな」

 通常のモビルスーツの稼働時間なんて、たかが知れている。せいぜい、連続でも30時間が限界だ。関節が多い精密な機械は、動く度に壊れていくのが現実というものである。とくに、ロールアウト前のモビルスーツは……試作型のモビルスーツは、その部分では貧弱なものである。

 部品の選別が済んではいないために、部品の総数がやたらと多くなり、必要以上に複雑さが進んでいる……何百機も生産されて、数千回の故障のレポートをフィードバックしながら、熟練で磨かれたベテランの機体とは、道具としての信頼度と強度が違うものだ。

「……フェネクスのサイコフレームは調整無しでも強度を保てるのかもしれないが……核融合炉の燃料は必要としていた……その認識は、正しいだろうかな」

「モビルスーツのエンジニアに聞きたいところだけどね。そもそも、整備係がいない状態では、ヘリウム3を確保したところで、核融合炉に注ぐことは出来ないでしょうね」

「……『袖付き』だか、ネオ・ジオンに渡ったのだろうか、フェネクスは?」

「確保したら、目立たないように隠したいものだわ。もちろん、連邦のモビルスーツに襲撃されたという事実を、宇宙中に広めたいという意味では、あり得るでしょうけどね」

「……厄介なことになるな。そうだとすると」

「ええ。本当にね。そうなれば、ジオニズム運動は、さらに火が点くことになる。連邦政府はこの事故を隠蔽しようとしているのではなくて?」

「……デブリへの衝突事故とでもでっち上げるだろう。戦時下のミノフスキー粒子が漂っている宙域だってある。センサーの故障ってのは、宇宙船の衝突事故で最も多く、そして致命的な事故だからな」

「カバーストーリーは用意済みってことね。そういう破壊工作も、シェザール隊はしたことがあるのかしら」

「……戦時中は、多くのことをして来た。戦争は、きれい事だけでは構成されてはいないからな。しかし……」

「しかし?」

「軍人としての職業倫理に反するような行いを、して来たつもりはない。民間の施設を破壊したことはあるが……民間人を巻き込んだことは、一度としてない」

「人的被害を出さなければ、許される行いなのかしら」

「……与えられた状況で、よりマシな行いをしただけだ。モビルスーツに乗り、ヒトを殺したことがあるヤツなんてのは、皆、例外なく地獄行きになるだろう」

「自虐的ね」

「……アンタがそうさせているんだろう、ミシェル・ルオ。いや……アンタが間違ったことを口にしているとは、言わないがな……」

「そうね。正しい指摘をしてあげていると思うわ。軍隊に踏みにじられる人々もいるのよね。私みたいに、連邦軍の施設であるオーガスタ研究所でモルモットにされた子供たちみたいにね」

「……分かっている」

「分かっていても、何の救いにもならないってことも、分かってね」

「……っ。……そうだな……」

「ヒトって、罪から逃げ出したいものよね。気持ち、分かるわよ、少佐」

「……連邦軍人いじめも、それぐらいにしてやれ。イアゴ・ハーカナ少佐はマジメなんだから、ムダに重く受け止めてしまうぞ」

「ムダね。そうね、たしかにムダだわ。気にしてもらっても、何の救いにもならないんだから」

 大尉はミシェル・ルオの矛先が自分に向かなくて良かったと思いつつも、ミシェル・ルオが潜在的に連邦軍人に抱いている殺意めいた悪意についても嗅ぎ取っていた。気をつけるべきことだと、大尉は考える。

 何故ならば、もしもの時、彼女は連邦軍人であった者たちがいくら死のうとも、まったくもって気にすることなんてないだろうと悟ったからだ。

 連邦軍の軍閥であったティターンズが、彼女たち『奇跡の子供たち』をオーガスタに閉じ込めて、運命を破壊してしまった。

 ティターンズが悪い。そう、たしかにそれは事実だが、ティターンズというのは、どうあっても連邦軍が生み出した存在でしかないのだ。過去は消し去れない。彼女にとって、連邦軍とその兵士も怨念を抱くべき敵でしかなかった。

目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。