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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT215    『未来予知』


 パイロットたちがミーティングを始めると、ミシェル・ルオは自室へと向かう。自室に向かう自分の影に混ざるようにして、ブリック・テクラートがやって来た。

「……地球のほうに、厄介な動きはないかしら?」

「完全に支配権は掌握しています。核爆発で受けた損害を、ルオ商会が補填するというシナリオも完璧です」

「お姉さまが心血を注いでいた、地球連邦軍の再生事業ですものね。妹の私が引き継いで、テロリストに屈することはないと宣言するのも仕事だものね……」

「……スペースノイドの勢力に、ルオ商会が嫌われる可能性も出て来ますがね」

「悪くはないわ。宇宙には、アナハイム・エレクトロニクスの影響力が使えるもの。彼らがいれば、我々は宇宙といくらでも取引が出来る……宇宙とニューホンコンのシャトル便の数も増やすことが出来る……それに、宇宙とは絆があるわ」

「絆、ですか……?」

「ニューホンコンも、宇宙と同じくティターンズに攻撃された記憶があるもの。そして、幸いなことにジオニズム運動の人々と直接的にもめたことがない。それって、大きなことでしょう?」

「……たしかに。軍事侵攻の歴史は、人の心に深く傷痕を残す」

「ええ。家族が蹂躙され殺戮された。そういう記憶を、簡単に忘れてしまえることが出来るほど、ヒトって薄情な生き物じゃないのよね」

「……我々も、罪を犯したことを、お忘れないように」

「……忘れないわ。自分の保身のために……お姉さまを殺した。そして、連邦軍の基地を一つ襲撃して、核爆発で半壊させてしまった……地球にも、悪いコトをしてしまったわね。また放射性物質が、記憶の無い海を汚すことになったものね」

「……罪の深さを忘れなければ、貴方は最小限の破壊者でいられる。そして、それは世界の調和を生み出すためには、必要なことであると、私は考えています」

「肝に銘じておくわ」

 ……自室に戻ったミシェル・ルオは地球との通信を起動して、ルオ商会の長老たちとの電話会議に参加する。ルオ商会の後継者として認められてはいるが、経営的な手腕を発揮し続ける必要は、これからもずっとあるのだ。

 ……とはいえ、その行為そのものは、おそらくミシェル・ルオにとっては困難なことではない。時の流れを、今の彼女は見ることが出来るようになっている……ミシェルの生来の知性と、コネクションから得られる情報量。それに加えて、ニュータイプ能力に由来する近未来の予言……その力があれば、経営者としての間違いは起こることはない。

 ミシェル・ルオはそんな確信を抱いている。全ては、リタ・ベルナルと……お腹に宿った子がくれている力なのだと、彼女は理解している……賢しいだけの自分には、おそらくニュータイプとしての感性は乏しかったのだろうが……リタが教えてくれて、そして彼女の子宮のなかにいる生命が、母親であるミシェルに力を貸してくれてもいる。

 ……でも。

 商売上は、宇宙に出てニュータイプとしての能力が磨かれたということにしよう。そちらの方が、ジオン・ズム・ダイクンの思想が提唱していたニュータイプらしくて、聞こえがよいものだからね。

 狡猾な商才を発揮しつつ、ステファニー・ルオの消えた穴を埋めなければならない。ニューホンコンという特殊な立場がもつ強みを活かして、宇宙との商売も加速する必要がある。思想の違いで火花を生んだとしても、商業的な結びつきが強まってしまえば、ヒトは争いをしなくなるものだから。

 ルオ商会は、二つの貌を使うことにはなる。地球連邦に対して、協力的な姿勢を見せつつ……スペースノイドとの商業を加速させる。最高のプランとしては、地球連邦政府を分断するような圧力をかけられたら幸いではある。

 連邦政府の国家群……100年もの統制も、そろそろ終わりにしたって良い頃だろうと、未来を観測する才能が告げている。時代は移り変わろうとしているのだ。このまま時代が進めば……地球連邦は、各国や各コロニーの自治権だって認めることになるだろう。

 大きな戦が生まれなければ、それはそれで結束を破壊することになる。安全保障の絆が解けてしまえば、連邦という一つの集団に所属している意味はなくなっていくのだ。時代は、超巨大な支配機構など、望まなくなりつつある……それでも、ヒトは、戦争を捨てることはないのであろうが、一年戦争級の戦争は、しばらくは起きないだろう、ミシェル・ルオの腹の奥にいる生命が、そう母親に教えてくれていた。

 ……理想を追求するための時間が、我々には残されているということですわ、お父さま。もしも、フェネクスを回収することが出来たら……リタ、貴方がこの世界に生み出した力を使って……世界の姿を変えてくれてもいいのよ……?この巨大な世界を支えるためには、政治ではもはや限界があるのかもしれない。

 ……サイコフレームに、ヒトの全てを保存して。宇宙へと旅立つ。地球から、人類が飛び立つ日が来るとすれば……この道なのかもしれないと、私は考えているのよ。お腹の子もね、ソレも一つの可能性だって、囁いている……気がするのよね。

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