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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT210    『悪い知らせ』


「えー……バシュタ少尉、ヒデーっすよ」

「そうだよ。オレたちのこと、バカにし過ぎじゃないか?」

「……お前らと同レベルなんて言われたら、死にたくなって当然だってことさ」

「大尉、もっとヒドいー!!」

「オレたちと同じだと死にたくなるなら、そんなオレたちはどうすればいいんだ?」

「はいはい。下らないコトでもめてないでよ、パイロットさんたち」

 ミシェル・ルオが無重力のなかを漂いながら、ジュナ・バシュタ少尉のそばへとやって来る。ジュナはドヤ顔を浮かべている幼なじみのことを、突き飛ばしてやりたくなったが……一応は妊婦なのだから、そんな激しいことをしてやるべきではないと考えて、ミシェル・ルオのされるがままになる。

 ミシェルがジュナの上半身に抱きついていた。

「愛するヒトに抱き止められるのって、最高に幸せよね、ジュナ」

「……うるせーよ。愛しちゃいねえよ、妊婦に対してやさしくするのは、宇宙共通の行動だろうがよ」

「そうね。妊婦なのだから、全力でいたわってくれなきゃ困るわよ」

「おぞましいタイプの妊娠だがな。冷凍睡眠中の義理の父親から精子盗んで来て勝手に妊娠っていう行動は」

「レイプされて妊娠する女なんて、たくさんいるでしょ?……そういう可愛そうな女の子の代弁的な行為よ。たまには逆なことが起きてもいい」

「……お前の考え方にはついていけない」

「そうかもね。私みたいな魔女の考え方なんてね、ジュナには理解して欲しくはないわ」

 恋人か、あるいはペットの大型犬にでもするかのように、ミシェル・ルオの指がジュナ・バシュタ少尉の炎のように赤い髪をなで回していく。

 やさしげに……いや、愛撫のようだ。性愛がそこに存在することを隠すような手つきではない。だが……ミシェル・ルオの瞳には、どこか悲しげな輝きも存在していた。

 自分がジュナに対して捧げている感情に釣り合うほどには愛されていない、そのことを、彼女だって分かっているし……何よりも、自分が魔女のような悪に染まりすぎてしまい、ジュナの理解の範疇から逸脱した存在になってしまったことが悲しくもあった。

「遠くに来ちゃったのね。お互い、大人になったってことかしら」

「……だろうな。それで、ミシェル、何があったというんだ?」

「……フェネクスが、また暴れたのよ」

「暴れた?……『袖付き』に襲われていたってハナシだったか?」

「……今回は、そうじゃないみたいね……」

「どういうことだ?」

「……ユニコーンガンダム3号機、フェネクスが……民間の輸送船を襲ったんだ。5人の乗組員は全員死亡した」

 イアゴ・ハーカナ少佐がそう教えてくれた。やさしい彼は、ミシェルの口からジュナに対して、その痛ましい現実が告げられることに抵抗を持っていたようだった。

 痛ましさを持つ現実に、ジュナ・バシュタ少尉の眉は内側に寄ってしまう。

「……リタが、襲撃したというのか?」

「フェネクスだ。リタ・ベルナル少尉の判断が作用していたのかは、分からない」

「……NTDが作用しているのかもしれないのよ。アレについての説明は聞いている?」

「私を操縦システムの一部に組み込むための装置だろ」

「そうね。強化人間やニュータイプが持つ感応波能力を、ただの遠隔操作用のインターフェイスに落とし込む。機体にインストール済みのNTDが、フェネクス暴走の理由の一つだと考えているわ」

「……リタ・ベルナル少尉の精神状態がどれほど健康であったのかは、オレには分からないが……これまで、民間機はおろか、軍用機だって襲われない限りは攻撃することはなかったわけだからな」

「あの出所不明の戦闘記録か……」

「アナハイムの工場長も知らないと言っていたらしいが……ネオ・ジオン側からの提供以外には考えにくいことだな……まあ、それはいい。そんなことよりも重要視すべきなことは、フェネクスの行動パターンが変わったということだ」

「……戻ったわけだ」

「……そうよ。戻ったの。リタがフェネクスを暴走させた瞬間にね。NTDが発動していた。あれは、パイロットの意志とは関係なく、ニュータイプの素質を持つ者を探り当てて殺意と攻撃を向ける……本来はね」

「違うプログラムも組み込んでいたわけだ。ニュータイプにしか使えない力なんて、限定的すぎる。研究家の集まりのアナハイム・エレクトロニクス社ならともかく……連邦軍が主導して作ったフェネクスに、そんな限定的な装備を搭載することはない」

「……ニュータイプってのは、やはり頭の切れがいいじゃないか」

 イアゴ・ハーカナ少佐は感心する。言われてみれば当然だと思えることでも、最初にそれを見つけられるかどうかには、才覚というものがいるのだ。ジュナ・バシュタ少尉にはそれがある。

 ……イアゴ・ハーカナ少佐は、あの工場長から指摘されなければ気づけなかった。NTDがニュータイプ専門の兵器である……固定観念から逸脱することが出来なかったが、ジュナの言う通り、有効な装備を限定的な状況で運用するなど、非効率的である。

 アナハイム・エレクトロニクスのようなメーカーではないのだ、地球連邦軍という組織は……。
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