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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT209    『朝』



 ―――夢から覚めたジュナ・バシュタ少尉は、久しぶりに穏やかな微笑みと共に起床する。しかし、無重力の洗礼を浴びることにもなった。足首が捻挫したかのように痛い……鋭い痛みというよりは、治りかけの靱帯が疼くような痛みだった。

「……くそ。そうかよ、これが……あれだな。無重力のせいで、関節が伸びちまって、関節を固定してくれる靱帯が痛めつけられてしまう……ほんと、無重力ってヤツは、つまらんぜ」

 文句を言いつつ、ベッドを抜け出して、痛む足首をしばらくグルグルと回していた。血の巡りが良くなり、腫れた靱帯に集まっていた血液が流れ去ったのだろう。ゆっくりと痛みが消え去っていく……。

「……はあ。寝る度に、関節技を前進にじわじわっとかけられている気持ちかよ。なんていうか、サイアクだぜ……」

 イメージと異なり、無重力下での睡眠は、心地良さを伴うものではない。ヒトの体は、何だかんだ言っても、地球での重力を想定されてデザインしているのだ。宇宙は、やはりヒトが住むには、少々、過酷さがある……。

『……ジュナ、起きたかしら?』

「……ん。ああ、ミシェルか。何のようだ?私の寝姿でも視姦するつもりだったか」

『してたわよ。十二分に。三時間半ぐらい、じっと見守っていたの。可愛い寝息を立てているのね』

「……本気でやったのか?」

『してるわけないでしょ?そんなことするぐらいなら、眠っている貴方のことを襲いに行くわよ』

「やめろよ、母親になったんだから、女の寝込みを襲うなんてのはよ」

『そうね。胎教によくないわね』

「……はあ……しかし、マジか。お前が妊娠しているってか」

『ええ。義理のお父さまの子を孕んでいるわ』

「……ヒデーハナシに聞こえるぜ」

『権力を円滑に譲渡してもらうには、血を頼るというのも手でしょう?古来からの常套的な手段だと思わない……?』

「まあ、そうだけどな……それで、お前はいいわけだ」

『ええ。私は、ようやく血のつながった『家族』を得ることが出来る。強い絆で結ばれている、『家族』よ?……自分のクローンも、ある女の子に妊娠させてあげたけど』

「……なんていうか、朝から、重たい性生活について聞いちまったような気持ちだ。いや……気のせいじゃなくて、まさに重たい性生活を聞かされてるじゃないか、私」

『貴方も女なのだから、非生産的な恋愛ばかりをしていないで、自分の子宮に新たな生命を宿す女としての歓びを知ったらどうかしら?私のクローンなら、妊娠させてあげるわよ、いつでも言ってね?』

「なんで、私がお前のクローンを妊娠しなくちゃならないんだ」

『私は喜ぶわよ。ジュナの子宮のなかで、私が育っていくなんて、身もだえしちゃう』

「……やめろ。お前の愛は重すぎるぞ」

『リタと二人して、私のことを女しか愛せないようにしたのは、どこの誰だと思っているのかしらね?』

「……謝らないぞ」

『ええ。別にいいわよ。さてと。楽しい会話はこれぐらいにして……さっさと、ブリッジに来なさいな。良くない情報も届いているわよ』

「……良くない情報?……なんだ、それは?」

『通信で話すようなことじゃないわ。さっさと来なさい。服を着て、すぐにこっちに来るのよ』

「……了解した。5分で、そっちに着くようにする」

『ええ。早くしてくれると助かるわね。待っているわ、ジュナ―――』

 ―――そう言いながら、ミシェル・ルオからの通信は終わる。ジュナはズボンに長い脚を通して、ジャケットを身につける。ノーブラだが、まあ、いいか。無重力だから、垂れる心配とかはないわけだし……。

「さてと……何だろうな、良くない情報か…………フェネクスについてかな。それとも、アイツのルオ商会の株価でも下がったとかか…………いや、そんなことで、ミシェルが動揺するわけがないか」

 ミシェル・ルオほど強い精神力を持っている女も、そうはいないだろう。姉を殺すと決めたら、実際に殺してしまう女だ。血のつながりもなく、愛情も与えてはくれなかった、ただの形式だけの姉だとはいえ……殺してしまうとはな。まあ、そのおかげで、私たちもステファニー・ルオの勢力から、攻撃されることもなくなったのだが……。

「……直接、聞いてみるしかないか」

 ブリッジを目指して、ジュナ・バシュタ少尉は床を蹴って宙を飛ぶ。せまい通路を、稼働する手すりが走っている。それを掴み取ると、ジュナ・バシュタ少尉の体は、軽々とその小さな手すりの動力に体を引っ張られていく……。

 数名のスタッフと、すれ違う……ナラティブ・チームのエンジニアと医療班たちだ。オーストラリアの基地からの付き合いで、それなりに馴染みとなっている。挨拶を交わしながら、ジュナ・バシュタ少尉はブリッジを目指し、3分かけてたどり着いていた。そこには見知った顔が並んでいる。パイロットたちは、全員そろっている……。

「……おいおい、私がいちばんの寝坊かよ?……まいったな……」

「だいじょうぶっすよー、ジュナ・バシュタ少尉ー」

「オレたちも、ついさっき来たばかりだから」

「アンタたちみたいなマヌケよりも、遅れて来ちゃったわけね。ほんと、自己嫌悪で泣きたくなるわね」

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