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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT204    『宇宙に響く』


「……ニュータイプに心を読まれているか」

「女の勘よ。どんなヒトかしら?」

「……美女ではないからな。若い兵士だ。ネオ・ジオンのパイロット。オレと一緒に、地球に落ちていくアクシズを止めようとしていた。オレの方が、先に死んでやると誓ったのだが……結果は、違う。あそこで星屑になったのは、名も顔も知らぬ青年の方だった」

「……壮絶な体験をしていたのね」

「第二次ネオ・ジオン抗争に参加していた者たちは、皆、地獄とヒトの悪意を見た。そして……ヒトの心が起こした奇跡もな」

「…………アクシズ・ショック。アムロ・レイとνガンダム……サイコフレームは『虹』を呼び、完全に地球への落下軌道にあった小惑星アクシズを地球の重力圏から外へと押し飛ばしてみせた……」

「……懐かしいハナシですよ。私も、νガンダムの製造には関わっていたんです。チェーンさん……」

 死者の名を懐かしさを込めて呼びながら、工場長はうつむいてしまった。

「……その子とも、会えると思うわよ。チェーン・アギでしょう?」

「……さすがは、ルオ商会のミシェル・ルオさまですね。何だったご存じだ……」

「まあね。サイコフレームに融けている魂の一つ…………公式な記録は軍にも残っていない。何か、意図的な削除が行われている。彼女の死は、きっと……隠さなければならない事実が絡んでいるのよ。おそらく、権力を持つ者たちの意図が働いている」

「彼女は、一技術士官ですよ?……軍隊の陰謀に、巻き込まれるような……」

「戦場では狂気が支配する。モビルスーツに乗ったパイロットは、理性的ではなくなるものよ。フレンドリー・ファイヤかもしれないわね」

「……味方に、殺された?……なんで?」

「さあね。私の外れたことの無い勘が、そう告げてくるだけよ。視界のなかにね、光が走ることがあるの。そういう時、私の勘は一度だって外れない」

「……ニュータイプの感性ですか」

「時たまに使えるのよ。私にも、ニュータイプは『感染』したの。脳が、精神が、魂が、覚えているんだと思うわ。本物のニュータイプであるリタ・ベルナルに未来を見せてもらった時の感覚を、私は忘れてはいないのよ」

「……チェーンさん……まさか……軍の関係者に、殺された……?ニュータイプの、アムロ・レイ大尉の……赤ちゃんでも妊娠していたんでしょうか?……二人は、恋人関係でしたから……だから、連邦軍に、殺された?」

「そこまでは分からないわ。でも……そういうシナリオもあるでしょうね。ロンド・ベルにおいても、アムロ・レイは大尉のままだった。もっと出世していてもいいハズなのにね?……地球連邦軍が、ニュータイプを嫌っていたという状況証拠かもね。自分たちの英雄を、冷遇し続けた」

「……平時では、階級なんて、そう上がることはない」

「あら。軍のフォロー?」

「……一般論を語ったまでのことだよ、ミシェル・ルオ……憶測でモノを言うべきじゃない。アンタは、地球圏でも大物になるんだからな……」

「そうね。自分の発言には責任を持たされることになる。不用意なコトは口に出来ないわよね?……でも、少佐。私は素直な感性でモノを言っているわ。地球連邦は、ニュータイプを嫌っている。スペースノイドのことだって、嫌っているわ」

「……悲しいコトにな」

「そうね。それを悲しめる感性を持っている人物だってこと、きっと、この殺伐とし過ぎている世界において、とても貴重なことだって思うわ、イアゴ・ハーカナ少佐」

「そりゃどうも……」

「……さて。そろそろ、私はおいとまさせていただこうかしらね。モビルスーツの専門的な知識を、少しでも得ておきたかったけれど……やっぱり、本職同士の会話には、とてもじゃないけれどついて行けないもの」

 ミシェル・ルオは自分の知識量と知能の高さを過大評価することはしない。専門家ならでのは感覚的な言葉までは、正確に把握することはどうしても出来ない。自分は占い師であり、ルオ商会の特別顧問でしかないのだから……。

 ……月の軽い重力を浴びながら、ミシェル・ルオはこの場所から立ち去ることを決めた。立ち去っていく彼女を見送りながら、工場長は、深いため息を吐く。

「……はあああ」

「どうした、ミシェル・ルオのプレッシャーに呑まれたというのか?」

「そうかもしれませんけど。いや、たしかに、それもありはするんですけどね……チェーンさんのことです。チェーン・アギ准尉……νガンダムを作った若い女性でしてね……」

「νガンダムを作ったか…………」

 ……イアゴ・ハーカナ少佐は瞳を閉じる。脳裏に浮かぶ……あのとき、あの地獄みたいな最終決戦の最中…………何故か、兵士たちが皆、やさしくなれた。心に、響いたものがある。アムロ・レイでは……なかったような気がする。

「アムロ・レイの……アクシズを押し返そうとするムチャクチャな行動を、最初は誰もがバカにしていたはずだ。それなのに……何故か……心に、アムロ・レイを見てと、告げられた気がする」

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