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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT201    『AMBAC』


 AMBAC……宇宙空間における機体の制御を、モビルスーツの稼働肢により行う方法だ。つまり、手足を高速でばたつかせることで生まれる重心移動を用いて、宇宙で方向を変えるというわけだ。スラスターによる制御以外にも、これを行うことで効率的な軌道の変化が宇宙では可能になる。

 ……モビルスーツのパイロットというのは、器用なことをしているものね。宇宙でモビルスーツを踊らせることで、機動する……地球上や重力圏内では使えないテクニックよね。

「AMBACの制御に対する補正ソフトは、ナラティブガンダムのものは旧式のままでして……それが癖を産み出す結果になっています」

「ふむ。機体設計自体が古いものだから、しょうがないというわけか」

「現行機は度重なるアップグレードが施されて、その都度、我々も新しいデータを手にしていますからね。でも、ナラティブガンダムのような一点物は……しかも、お蔵入り状態だったモノに対しては、どうしたってAMBACを微調整するためのデーもが少ない。モビルスーツというのは、実機を運行させながら完成させて行くモノですからね……」

「しょうがないということか」

「ええ。でも、慣れてもらえるハズです。ジェガンのパイロットならば、かなり似ている部分もある」

「シートで感じ取れか」

「ええ」

「……なによそれ?」

「地球連邦軍のモビルスーツ・パイロットに伝わる金言ってものさ。シートを通して骨や筋肉に伝わる位置感覚ってのがある。そいつをマニューバにフィードバックさせることで、いい動きをするパイロットは成り立つんだというな」

「機体の位置感覚……熟練したパイロットは、シートから伝わる振動で、モビルスーツの姿勢を頭のなかに想像で描くことが可能ってこと……?」

「そういうことだ。慣れればな……操縦機構だって、昔の方が、骨に振動が伝わって来て動きを使いやすかったんだがな」

「でも、あれだと骨折の危険もありますからね。宇宙戦のパイロットは、どうしても骨が虚弱になっていく。パイロットスーツで補正しても限度がありますからね」

「色々とあるのね。感心するわ」

「ヒトの形をしていることの利点ってヤツの一つですよ。AMBACも、シートや操縦桿から伝わる振動で、機体の状況を認識することが出来るということも、それらがあるおかげで、モビルスーツ・パイロットたちは感覚的な操縦を行うことが出来ているわけです」

「芸術的なお仕事ね」

「……ははは。美人さんにそう言って貰えると、ほんとうに照れてしまいますが。でも、たしかにそうです。私たちがデザインして製造しているモビルスーツってものは、本当に繊細な機体なわけですよ。最新鋭の装置も、ヒトが古来から持つ感覚も、その操縦のためには必須なわけです……」

「……さてと。概論じゃなくて、各論に行こう。基本的に、ターンやヒッチ・パターンの動作で、ズレが起きるわけだな?」

「ええ。ナラティブは、ターンにズレが起きます。でも、これは―――」

「―――ズレに『乗る』ことで、スライド式の射撃が行えるというわけか?」

「そうですよ。いいパイロットなら、そこに気づいてくれると思いました。欠陥と断じる必要もない部分です……もちろん、それはナラティブガンダムのコトを知り尽くす人物が相手なら、大きな弱点ですけど。初見では気づけないと思います。むしろ、ターンしながらスライドする動きでの射撃……こちらは、かなり戦績のいいマニューバです」

「使いこなせば、エース級の機体になるわけだ……」

「ハーカナ少佐ならば、やれるのではないでしょうか?……データだけで、そこまで推察してくれるのですから……このまま、パイロットとしてナラティブガンダムに乗られると、人手不足気味の連邦軍では、おそらくトップ1%内の……それも、上澄みの方の戦力評価になると思います」

「……あら?ナラティブに強化人間を乗せたくないの?」

「そ、そうではないんですけれどね……」

「オレなら、『普通の』パイロットとしてのデータが取れるからか?」

 からかうための笑顔を用いて、イアゴ・ハーカナ少佐はその言葉を使うのだ。

「はははは!……いやいや、ご冗談を……そういうのじゃ、ありませんよ。分かっているでしょう?……ただの、技術屋としての好奇心ですよ。少佐の戦績を知れば、乗って欲しくなるもんですよ、どんなモビルスーツにだって……?」

「よかったじゃない、イアゴ・ハーカナ少佐。天下のアナハイム・エレクトロニクス社から、テスト・パイロットにならないかっていう依頼が来たわよ?……引退後も、最高の日々を送れるんじゃないかしら?……今以上に、ハイスペックなモビルスーツとのじゃれ合いが待っているなんて、少佐みたいなヒトには最高の隠居暮らしじゃないかしらね」

「……まだ、退役するつもりはないぞ、ミシェル・ルオ。オレは……連邦軍の非道を知って、ますます、組織から離脱するわけにはいかないと考えているんだ」

「内側から変えるには、少佐という階級では、役不足よ?」
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