ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT197    『モビルスーツ産業界の未来』





「……は、はい。ナラティブは互換性が高く、広範な汎用性が売りのモビルスーツです。しかし、時間が無かったこともあり……有効な兵装は3種類だけです」
「3種類もあれば十分だろう。シミュレーション上にアップしていた装備なわけだな?それ以上、あったとしても、運用するオレたちパイロットの方が限界を超えちまうさ」
「……そうですね。せっかくなら、陸戦用装備もルオ商会の方に試していただきたいと考えていたのですが……」
 地球重力下での、ナラティブに使われている、『エイジング・ガンダリウム合金』。それがどれだけの運動性能を発揮することが出来るのか……それは興味が尽きないところではある。地上での運動性能は、スラスターの推進力だけに依存するものではないのだから。
 地上ではモビルスーツの二本の脚が、地上を蹴りつけあの鋼の巨体を躍動させるのだ。まるで動物のようにだ。地球の重力に囚われている状況で、どれだけ動けるのか……それを確認したかったという気持ちは強い。
 月面下の軽い重力では、つまらない。地球の重力で動くことが出来なければ……地球連邦軍にもコロニー勢力にも売ることが出来ないのだ。宇宙専用機は、どちらの勢力の保守派議員も満足させることは難しい。可能であれば、装備とちょっとした整備で宇宙と地球のどちらにも対応することが可能な機体の開発が重要なのだ。
 ……戦争終結後、モビルスーツの需要は確実に減っているのだ。しかも、高性能化のせいで、製造側の負担と製造期間の延長から、その値段は高騰している。地球連邦軍が独自のモビルスーツを開発したがる理由は、利権争いもあるが……予算を考えればマトモな判断でもある。
 そういう経済的な圧力は、政治的な理由を近い将来、超えてしまうのだ。まちがいない。近い未来において、確実にモビルスーツは売れなくなる。
 そうなれば、地球と宇宙のどちらでも使える高性能機を売りつけるしか、業者と軍の双方が納得する道は存在していないのである……いや、可能であれば火星におけるジオニズム運動に対応するために、独立勢力にも、地球連邦側にも、売りつけられるような火星仕様のモビルスーツも欲しい。
 とにかく、地球上でのデータは機長なのだ。ガンダムのような、一点物のモビルスーツは情報を回収しやすさもある。大量の情報ではなく、精密で素早いフィードバック……。
「ああ……地上装備も使って欲しかったですよ」
「……地球上でのモビルスーツの戦闘データは、ルオ商会が提供しますわ」
「本当ですか?」
「連邦軍と仲が悪い状態ですもので。マーサ・ビスト・カーバイン、『月の女帝』を辱めている……彼女の支持者は、月面には多いでしょう?敵も、それは多いでしょうが、支配者としての統治の手腕は、知っているつもりです」
「……いいヒトですよ。昔は、本当に美人だったので、エンジニアのなかには、彼女のブロマイドを忍ばせながら仕事をしていたものです…………人妻の魅力に、気づくキッカケとなったんですよ」
「まあ。魅力的な女性でしたのね、マーサ・ビスト・カーバインさまは」
「そうですなぁ……っと。まあ、それはいいんです。お仕事、お仕事。アナハイム・エレクトロニクスの未来と、来年のボーナス・デーまではクビにならないためにも……仕事をしたいもんですしな」
「あら。そんなにヒドい状況なの?」
「……早期退職を勧められる者もいるでしょうね。アナハイム・エレクトロニクスは高級ですし……月面生活のエンジニアなんて、遊びに金を使うこともありません。地味なもんですからね、我々の生活なんてものは……つまり、貯金は十分。家電屋でも開いて、細々と営業するのも十分な生き方です。家電をいじるのは、趣味ですしね」
「改造してくれそうだな」
「ええ。市販の家電製品は、カスタマイズしてやるべきです。業者が性能を出し惜しみしていたり、壊れるように甘い作りをしていますからね……って、また脱線しちゃいましたな!」
 生活感のあるハナシを聞けて、ミシェル・ルオは楽しめている。こういう情報を知っていることで、アナハイム・エレクトロニクスとの契約を有利に進めることが可能となる場合もあるのだから……ミシェルの洞察力は、多角的な情報分析から成り立っている。
 譲歩提供者が多ければ多いほど、ミシェルの頭脳は頭のなかに世界を精密に再現するのであるし……彼女に覚醒しているニュータイプとしての能力は、その感性を使い、情報分析により高度な修正を与えていくことになるのだ―――。
 ―――だが、今は商売のことをしている場合ではない。『不死鳥狩り』に対しての理解を深めるべき瞬間だ。現場指揮官……になるつもりはないが、状況次第では介入も辞さない。
 間違いなく約束破りではあるし、現場に混乱を招くこともあるだろう。だが、ジュナ・バシュタがリタ・ベルナルと対峙した時……場合によれば、彼女は怯んでしまうだろう。必要な行動を避ける可能性がある。そんなときにアドバイスを送ることが、自分の役目になるだろう。

目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。