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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT186    『盗賊』


 夜の闇と放射性物質の雪に隠されて、隊長とオーガ4は走りつづけていた。追跡される確率は高いが……それなりに小細工はしている。小型の地雷を自分たちの足跡の近くに設置している……その内、追跡隊がそれに引っかかり、追跡の速度を緩めるだろう。

 そんなことを考えていると、背後に爆発音が響いていた。

 ドオオオオオオオオオオンンンッッ!!

 モビルスーツに乗っていればダメージは無いだろうが、生身であれば確実に死ぬ威力には設計してある。あれだけ基地に損害が出た後だし……ステファニー・ルオを始め、救助しなければならないヤツもいるだろう。

 コクピット・ブレイクを中心に行って来たが、パイロットが瀕死の状況に陥っている場合も考えられる。そうなれば、死にかけているそいつを救助するためにも時間が要る、医療スタッフが要る。人手はどれだけあっても足りやしない。

 そんな時に、追跡していたヤツが仕掛けたトラップに引っかかる。仲間が何人も負傷して、そいつらの手当も回収もする必要が出て来る……追跡を続けたいモチベーションも少なくなってしまう。

 ……悪いペースではない。

 隊長はそう考えながら、再び小型の地雷を自分たちの足跡目掛けて放り投げていた。追跡してくればいい。また死人と負傷者を出したくないなら、ゆっくりと時間をかけて身長に行動することをオススメするがな……。

 隊長はそんな言葉を心でつぶやきながら、ゼエハアと荒くなってきた呼吸のままに走り続けた……それから一時間ほど走りつづけた後で、彼らは道路沿いにある民家を見つけていた。

 周囲には何もない、ぽつんとした一軒家だった。

「……あそこに行くぞ……動力のついたモノがあれば、それを拝借しよう」

「は、はい。賛成です……このまま走り続けるのは、さすがに体が……限界ッ」

「そうだな」

 一軒家は明かりが消えていた。新築だな。あの基地が作られたことで、仕事の増加を目論んで、この場所に新居を構えたのかもしれない……。

 基地は煙たがられることも多い。若手の兵士が大勢集まるからな、兵士の暴力沙汰に、性犯罪、確実に上昇する。しかし、数千から数万人の消費者が集まる場所だ。金も動く。そういうものに釣られて、基地の近くに引っ越して来ようと考える物好きもいる。

 ……文句を言いたいわけじゃない。むしろ、今のオレたちには救いの主であるのだからな。

 隊長とオーガ4は、その家に向かって走った。住人たちは、戦闘の音か、その後の核爆発の音で逃げ出しているようだった。当然だろう、それでも自宅に待機を続けているとすれば、肝が据わりすぎている……。

 庭には……ブランコがあった。子供がいるのだろう。なんというか、罪悪感を覚えた瞬間ではある。

「……あのブランコを使っていた子、被爆したりはしないですよね……?」

「距離は離れているからな……小さな子がいるのなら、戦闘が始まった時点で親は逃げだそうとするだろう。きっと……助かっているさ」

 自分に告げるための言葉のようだと、隊長は考えていた。子供を戦いに巻き込む……戦場では多く見かける光景ではあったが、隊長の哲学には反する行いだった。

 子供を犯しているクズの頭を撃ち抜くこともあるぐらいには、彼は善良な傭兵でもあった。

「邪魔するぜ」

 悪人らしいセリフを選び、隊長は民家の敷地に入っていく……車があれば理想的だが、車は見つからない。両親が子供を連れて、その車で逃げ出したのだろう……そうであれば、良い。

 あるいは、数日前から両親は長期休暇を取り、子供を連れてどこかに旅行にでも出かけてくれているのなら、なおさら良かった。

「……車はないようですね」

「そうだな……だが、ガレージがある」

「……そうですね。あそこに、車があればいいんですが……」

「ああ」

 ガレージに近づく。シャッターが閉まっているが、ガレージ内へとつづくドアを見つける。隊長はそこに近づき、ドアノブをひねる。当たり前のように、施錠されている。

「鍵がかかっている。だからこそ、期待が持てるというものだ」

「そうですね。何も無いなら、鍵をかけそうにないもんです……それに、オイルの臭いも漂っている。何か、作業をしていたんでしょう。つい数日前まで」

「なら、話は簡単だな!!」

 隊長は拳銃を取り出した。サプレッサー……消音装置付きの拳銃で、音の消えた弾丸を一つ撃ち込んでいた。ドアノブの大きな穴が開き、ドアの施錠を司る装置がグチャグチャに壊されていた。

 あとは腕力任せだった。隊長はドアノブをガチャガチャと鳴らしながら、力尽くで引き抜いていた。その後は、かつてドアノブがあった空洞に指を入れて、ドアのことも引きずり出す。

「開いたぜ」

「さすがです」

「どういう意味だ?……オレは、そんなに強盗作業にはなれちゃいないぞ」

「いい兵士は盗賊ですよ。敵地で有益なモノを盗めるヤツじゃないと……戦場には向きませんからね」

「そうかもしれんな。とりあえず……ガレージを探るぞ」



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