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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT185    『ひしゃげた車の中で』


 ステファニー・ルオを乗せているはずの車両を発見したとの知らせは、捜索に出ている兵士たちの半数をその場に引き寄せていた。残りの半分のうちの半数はオーガ4の残したグフ・カスタムの調査を行い、他は隊長たちの行方を追跡しようとしている。

 ……連邦軍のパイロットたちは、集まって来た救助隊を上から見守っている。救助作業というものは繊細だ。とくにVIPに対して行うものは、通常よりもはるかに繊細な作業となる。

 具体的な状況を把握した後でなければ、モビルスーツの力を使って、ひっくり返すことも出来やしない。その作業のせいで、救助者の頸や背骨がへし折れたりすることだって考えられるのだから……。

 作業員たちはジェガンのライトに照らされた、半ばスクラップと化した車両の隙間に、身をねじ込ませている……危険な作業であるし、担当したくない行いだなとパイロットたちは印象を受けていた。

 パイロットたちは、ため息を吐く。接触回線を使い、僚機のあいだだけの秘密の会話を使うのだ。

『……生きちゃいないだろうにな……』

『……証拠がいる。ルオ商会がついているんだ。彼女の遺体は徹底的に死因を確かめられるし……損壊の理由も、雇われた法医学者が全て解き明かしてくれる。救出作業において遺体が大きく損壊したと解明されたら、訴えられかねん』

『……厄介っすね、VIPってのは』

『だが、懇意にしているだけで、定年後の人生がバラ色になる。いいポストに天下りさせてもらえるんだからな。オレも……生きている内に、ステファニー・ルオに媚びを売りたかったもんだぜ』

『そっか。そう考えれば確かにな。もしも、彼女が生きているなら、オレ、モビルスーツのハッチを開けて、放射性物質の雪を頭から被りながらも救助に参加しますよ』

『はあ……だが、死体となっては、厄介ごとばかりだ……』

『……まあ、そうですよね』

「おーい!!お前ら、ゆっくりとひっくり返してくれ!!」

『ん。仕事のようですよ』

『ああ…………おい、いいんだな?』

「構わねえよ。死体は……黒焦げ状態だ」

『数は確認したのか?』

「したよ。3人……この車体が探していたモノだってことも確認済み。護衛の兵士が二人に……ステファニー・ルオ。三人ぶんの死体がある。ひっくり返してくれ。そしたら、その後……オレたちが車体切断用のカッターで、丁寧に解体して、彼女たちを回収できるようにする」

『……わかった。下がってろ。ジェガンでひっくり返してやる』

「頼んだ。全員、車両から離れろ!モビルスーツが来るぞ!」

 救助隊のリーダーの言葉に従って、隊員たちは素早く車両から離れていた。それを確認した後で、ジェガンが動き、その歪な形になってしまった車両を、ゆっくりと持ち上げて、反転させていた。

 ジェガンの頭部にあるアイ・カメラには……黒く焦げたの隙間から、誰かの腕が一本だけ見えた。焼けただれて、指先は炭化しているようだ。

 高熱の爆風に……放射線の熱量。それらを浴びて、焼け焦げたのだろう……一瞬で焼け焦げるほどの熱量。皮膚が沸騰し、その中身も壊れてしまっているだろう……。

 一瞬で死ねたのなら……悪い死に方じゃないさ。

 そんなことを考えながら、モビルスーツの腕は持ち上げていた車両をゆっくりと地上へと降ろしていた。

「よし!ありがとう!!ここからは、オレたちの仕事だ!!モビルスーツから、ライトで照らしてくれると助かるぜ!!」

『わかっている』

『もちろん、協力させてもらうよ。アンタたちに比べれば、オレたちは楽な任務だ』

 救助隊は獲物に群がる獣のように、ひしゃげた車両へと集まっていく。救助用のカッターを使い、次から次に車両のフレームを切断しては、薄皮を一枚一枚剥がすかのように、車両からフレームを取り外していく。

 ……さすがに手慣れていた。彼らは車両の上部を解放し、その中にある三つの死体をジェガンのライトの下に引きずり出している。

 3人いるのが、たしかに分かった。そして、その誰もが死者であることも、即座に理解が及んだ。皆、衣服も残さないように黒焦げになっていた。そして、手や足や頸が、折れ曲がってもいた。爆風に煽られながら転がったせいで、あちこちの骨をへし折ってもいるのだ。

 一目でそれが死者だということを、十分に悟らせてしまうほどの形状が、そこには三つほど横たわっていた。

 ……しかし、全身が焼け焦げているわけじゃない。さらに言えば、こうした灼熱の猛威に晒されたところで、情報を全て失わないようにという工夫を、地球連邦軍は採用しているのだ。

 兵士の一人が、死体の足下を探る……軍靴までもが焼け焦げてはいるが……そのかかと部分にあるIDの刻印部分だけは変質を免れている。兵士が目視でそれらを読み上げていき、聴き手である兵士が端末にそのIDの数字を打ち込んでいった。

「……判明しました。彼は、イーライ・オーズマン軍曹です」

「……ふむ。護衛車両か……そっちは?」

「身元判明。この二人は、ステファニー・ルオの護衛に就いていた二人の兵士です」

「……ステファニー・ルオに身元を確認出来るシロモノはあるか……?」

「歯が焼け残っていますね。これで、歯科情報と参照すれば、すぐにこの死体が誰なのか分かりますよ」

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