ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT184    『ステファニー・ルオの死』


 ……連邦軍の兵士たちは、宇宙戦用のノーマル・スーツを装着してモビルスーツに乗り込む。宇宙戦用のノーマル・スーツは放射線を遮断する。この装備は、今回のように地上に放射性物質の雪が降っている最中でも、それなりに有効な装備ではある……。

 むろん、放射線だけが飛び交っている宇宙とは異なり、放射線を出している汚染物質をモビルスーツはたっぷりと浴びることになる。除染作業だけでも、相当な手間を取られるころになるのだ。

『ろくでもない作業だな』

『ああ。ミノフスキー粒子に放射性物質か……核爆発の爆風で巻き上げられた土砂やら塵もある……通信機能は、サイアクだな』

『けっきょくのところ、頼れるのはいつも、パイロットの目視か……』

『大航海時代の船乗りからの伝統だ。20メートルの高さからの視点があれば、ヒトは大概のものを見つけることが出来る。モビルスーツは動く見張り台だからな』

『センサーが機能してくれたら、楽なんだがなぁ……』

『超がつくほどの高性能機なら、核爆発のパルスにも耐えられる装備を搭載するのかもしれないが、量産機には難しいさ……整備班の負担も考えると、連邦軍みたいな強者の軍隊が、採用するような装備じゃないな』

『凡庸なオレたちには、凡庸な装備が合っているってことすかね……』

『その通りだ。数的有利を使える。補給路も確保してある。兵士の質まで、上げることはない。危険な任務は、傭兵を使えばいいんだからな』

『地球連邦軍ってのは、どんどん、気楽な商売になっていきますね……まあ、こんな日は別なんだすけどね』

『……例外すぎる。だが……思い知らされただろう。スペースノイドが乗るモビルスーツの恐ろしさだ。補給を潰し、飢えさせる。そうでなければ……パイロットの質では、オレたち地球生まれは宇宙生まれに勝てん。組織力で質を押さえるんだよ』

『宇宙育ちってのは、そんなにモビルスーツの適性を上げるもんなんすね。うちらだって熟練したパイロットたちばかりだったのに……大勢、殺されちまった』

『正直、非番で良かったよ』

『……いや。でも、たしかにそうですね。当直者だったら、間違いなく殺されているな。あの4機のグフ・カスタムたちは……あまりにも強かったじゃないか……』

『……そうだな。あれほど躍動するグフを見たのは、一年戦争以来だ。整備不良の機体ばかりで、楽な相手だと勘違いしていたが……一定の整備と改造が施されていれば、アレだけの質を出す』

『……ジオンのシャア・アズナブルが出世しまくっていた理由が分かりました』

『ああ。本当に有能なパイロットが、モビルスーツを操れば……通常ではありえないほどの戦力差だって覆してしまう。4機で、オレたちの基地を襲撃して、これだけの被害を与えるなんてことが出来たのは、兵器の質じゃない。パイロットの腕が良かったんだ』

『オレたちが訓練しても、届かない領域に、スペースノイドはいるんでしょうか』

『一般論だ。才能があるヤツは、スペースノイドのパイロットに勝てるだろう。そして、スペースノイドだって、全ての者がモビルスーツのパイロットとして高い適性を有しているわけではあるまい』

『でしょうね……はあ……でも、嫉妬しちゃいますよ。宇宙で生まれた連中に。パイロットとしての適性が高くなるなら……オレも宇宙で生まれたかった……』

『……分からないではない。だが……今は任務を達成しよう……』

『ええ……夜の闇に紛れて……ルオ商会のトップの死体を探すんですね』

『そうだ。これでは、とても生き延びてはいないだろう……』

 暗がりを照らすジェガンのライトは、悲惨な状況を映し出している。爆風で掘り返された地面に、焦げた土……空から降り続ける灰色の放射性物質の雪……そして、コクピットのなかにはガイガーカウンターの悲鳴が鳴りつづけている。

 人体に有害なレベルでの放射線が、モビルスーツの外では飛び交っているようだ。この場所にいるほど、細胞は原子レベルでのダメージを受け続けることになる。

『この状況では……生きていられんさ。むしろ……そっちの方がマシだろうな……爆風に被爆に熱線に……そんな三重苦を浴びても生きていたとしても……手の施しようなんてないんだからな』

『……救助者の死を願うってのは、アレな気持ちですけど……でも、ホント、そうかもしんないっすね…………ん。あ、あれ!』

『どうした!?』

『10時の方向!!……逆さまになった車両がある……ッ』

『……ふむ……護衛の車両に、形状が似ているな』

『ええ……ぺしゃんこになっちまっていますけど……あれが……きっと、ステファニー・ルオを乗せた車だ……』

『……行こう』

 連邦軍のパイロットたちは、ジェガンを走らせて、その車両の元に行く。ライトで照らされたそれは、爆風に煽られて、何十回も横転した物体であることを一目で察することが可能なほどに、無残に壊れてしまっている……。

『……動体センサーの有効範囲内だ……反応は……ネガティブ。そっちは……?』

『こちらも同じですよ……ネガティブだ。これで……こんなことになって……生きていられるはずがない……死んじまってますよ。この距離なら、ネズミの心音さえも拾えるハズだってのに…………ステファニー・ルオは……死んでますよ……』


目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。