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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT183    『ウォー・マネー』


 状況は変わる。ステファニー・ルオは死んでしまっているだろう。この騒動は、彼女一人をこの世から消し去るために行ったのだろうから、ミシェル・ルオが……。

 ……状況証拠しかないが、それだけでも十分だ。他の誰も、こんな大それた計画を実行させる力なんてありはしない。くたびれたジオン共和国には、地球連邦軍とまた一年戦争をしようという気概のある男は残ってはいないはずだった。

 多くの者が、気づきはするだろう。

 その事実に……。

 この事件が、ルオ商会の継承問題に根差した闘争に過ぎないものなのだと、気づけるはずだった。

 だが。それが、状況をどれだけ変えるというのだろうか?

 けっきょくは、金のことしか頭に無いのだ。

 軍人も政治家も……拝金主義者のクズ野郎ばかりだということは、長年、連邦軍の制服に腕を通して来た自分が、誰よりも分かっているのだ。

 チャールズ将軍は理解している。この襲撃を企画したのは、ルオ商会しかあり得ないということを。スペースノイドが地球にいるジオンの残党に兵器を供給した?最新鋭ではなく一年戦争からあるようなモビルスーツに搭載可能なパーツを、宇宙から投げ捨てて寄越した?

 ……そんな余裕は、スペースノイドにだってない。

 消去法に頼った推理にはなるが……十分だ。他の容疑者が弱りすぎているんだからな。

 ルオ商会にしか出来やしないさ。

 ……だが、モビルスーツを幾ら漁ったところで、その証拠は出ては来ないのだろう。そして……そもそも、連邦軍だって、そんなイヤな真実につながる証拠なんてものを望みはしない。

 マーサ・ビスト・カーバインを切り、アナハイム・エレクトロニクス社と距離を置いた連邦軍の新たな権力者たちは、ルオ商会とも疎遠になることを絶対に嫌う。

 『収入源』をこれ以上、遠ざけては得にならないことぐらいは、欲深い軍人の頭は理解するのだ。

 ……ルオ商会を責めて、仲違いをしてしまえば……?

 ……アナハイム・エレクトロニクス社と連携していた連邦軍の旧支配者勢力に、求心力が蘇るかもしれない。

 サイアクの場合は、アナハイム・エレクトロニクス社と連邦軍の旧支配者勢力に、ミシェル・ルオの率いるルオ商会までが力を貸すことになれば……?権力は、再び逆転を起こすだろう。

 この事件を、スペースノイドのせいにすることは、今、連邦軍を牛耳っているヤツらからすれば……とてもメリットが大きいことなのだ。

 ……この基地襲撃事件を、『ジオンの残党の仕業だと信じること』は、地球連邦軍の『ビジネス』を盛り上げることにつながるのだ。ステファニーが死んだ以上、もうミシェル・ルオと組むしかないのだから。

 ミシェルがこの事件の首謀者であってはならないのだ、連邦軍の儲けのために。

 宇宙に敵を作ればいいのだ。都合の悪いことは、全てスペースノイドのせいにすればいい。

 そうすれば、皆が仲良く仕事が出来る。

 ミシェル・ルオが率いるルオ商会。その大企業が提供してくれる資本と技術のバックアップを受けて、地球連邦軍は独自のモビルスーツ開発を加速させればいい。

 そのシナリオを成すには、宇宙に敵がいなくなったとは、連邦軍の支配者なら思いたくもない。

 そうなれば、軍拡の必要までもが消え去るからだ。

 そうなれば、連邦軍の高官という最高に儲かるポジションを得た男たちは、損をする。

 関連企業をどれだか天下れると思っているのだ?三つや四つではない。それらを歴任するだけで、ヒトが人生を賭けて稼ぐ金額の何十倍にも匹敵するほどの、莫大な退職金が一々、転がり込んでくることになる。

 そんな美味しい餌を前にすれば、正義や真実などに、どれだけの重みがあるというのだろうか?

 フィクションだろうが、いいのだ。

 金さえ儲かれば、みんな真実よりも虚構を選ぶ。

 敵がいると言えばいい。そうなれば、政治家は権力を楽にキープすることが出来るし、軍人は国防費を手にすることが出来るのだから。

 ミシェル・ルオ一派の作り出した、この血なまぐさいシナリオに乗ればいいのだ。そうした方が、金になるのだから。

 だから、真実なんて、みんな興味がなくなるのだ―――そして、時々、真実に打ちのめされることになる。今の私のように。

 だが……そうならない間に人生を終えるヤツだっているのだ。私は、惜しかった。ステファニーがくれるであろう利益を得ようとして、軍に長居しすぎてしまったのだ。

 さっさと引退していれば、後輩どもの不甲斐なさをニュースで聞いて憤慨しながら、気楽な年金暮らしを楽しめていたというのにな……。

「……将軍閣下」

「どうした」

「……ステファニー・ルオ氏を乗せた護衛車両との連絡がつきません」

「……そうだろうな」

 最初から期待はしちゃいなかった……いいシナリオだ。ミシェル・ルオも地球連邦軍にも得があるのだ。

「……ジオンのテロリストどもめ……か」

 我々は、ジオン残党の脅威なんて『あるハズもないこと』を理由にして、予算をあちこちから吸い上げればいいのだ。軍人の仕事なんてのは、結局、そんなものなのだから。

 自分たちの組織のために、どれだけ金を呼び込めるか。それしか考えちゃいない。だから、悪人とだって手を組む。それで儲かるのなら、問題はないのだ。それが、地球連邦軍百年の伝統だ。

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