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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT182    『怠惰の代償』


 チャールズ将軍は、たった4機の旧型モビルスーツによって起こされた被害に愕然としていた。スペースノイドたちの操るモビルスーツの強さを、彼は久しぶりに目の当たりにした気持ちになっている……。

 忘れつつあったのだ。連邦軍のモビルスーツ・パイロットのレベルが向上するに従って、地球生まれのパイロットと、スペースノイドのパイロットの力量差は、ぐっと縮まっているものと感じていた。

 しかし、現実はそうでもないのだ。普段は整備が行き届いていないモビルスーツばかりに乗った、補給もままならないジオンの残党と戦っているだけだった。彼らは不利な条件で戦わざるを得なかっただけのことであり、『ちゃんと整備されたモビルスーツを与えられとしたら』、その戦闘能力は地球生まれのパイロットの能力を圧倒するのだと。

 幾つかの論文が頭のなかに浮かんでいた。宇宙空間という人類にとっては特殊な空間が、ヒトの脳細胞に地球で暮らしているだけでは構築されることのないシナプス・ネットワークが誕生するだとか……そういった、ヒトの変異を喜ぶ科学者たちが書いた論文だった。

 あくまでも、地球連邦軍の将軍としては、そんな考え方を認めるワケにはいかなかったからこそ、理性を使い、その真実を脳内から排除して来たのだ……。

 非科学的な行いではない。

 科学は様々な仮説を与えてくれるだけに過ぎない。だからこそ、ヒトは自分の立場にそぐう理論で己の精神を武装することが必要なのだ。例えそれが、己の実感とは異なるものであったとしても……認められないのだ。

 地球連邦軍の将校は、スペースノイドのパイロットに対して、自軍のパイロットが、絶対的に才能で劣るという『仮説』などは。

 ……だが。

 それは、時に愚かなことではある。的の強さを常に過小評価して行動すれば、こんな大恥を晒すことにだってなる……どれだけの被害を出してしまったのか?……考えたくもないが、実感している。

 自分は二週間後には軍籍を剥奪されているだろう。地球連邦軍は、新たな基地を一つジオンの残党に潰された男など、戦争犯罪者並みの扱いで非難するような組織だ。

 組織の面子を保つには、そうする他ない……自分は、戦時下でもないのに、基地を一つ潰されたマヌケな指揮官として、地球連邦軍から断罪されるのだ。

 チャールズ将軍は吐き気を催した。あまりのストレスのあまりに、胃袋が踊っていたのである。しかし……それでも、指揮を執らねばならない。少しでも、自分の落ち度を消し去るために……。

「……被害状況を確認しろ」

「モビルスーツ隊は、13機失いました。核爆発からは逃れることが出来ましたが」

「核爆発か。まったく、無茶なテロを仕掛けてくれた」

「……幸い、この気象条件では市街区に向けて放射性物質が舞い落ちることはありません」

「太平洋に流れてくれるか。地球の海が、また一つ汚染されるというわけだ」

「ええ。ですが……市街区に落ちるよりは」

「……たしかに、ずっとマシだな。そいつは認めるしかない。私は、その点だけではついている。テロリストどもは、あれでも人道的であったわけだ」

「この基地の中で爆発させれば、非戦闘員も大勢死んだでしょうからね。ジオン軍人の、矜持というヤツを見せたつもりなのかもしれません」

「誇り高い行為とは、とても言えんがな……襲撃者どものモビル・スーツを回収しておくんだ。どんな情報も逃すな」

「了解です。人員を派遣します」

「そうしてくれ……腕のいいエンジニアを山ほど送るんだ」

 ……そして回収された情報を、私はそのまま鵜呑みにした方が良いのだろうか?……どうせ、ジオン軍の残党を示す情報しか、出て来ることはないだろう。

 ヤツらのモビルスーツは、どうにもこうにも整備され過ぎてはいた。

 かなりの予算と、入念な計画があったのだ。デザインされた戦術が機能している。つまりは、後から情報を集めようとしても、連中の思惑通りのことしか起きないのだ。

 ……それに。

 ああ……そうだ。考えなければならないことがある。

「……ステファニー・ルオの生存を確認してくれ」

「……っ!……そうです、ね……あの核爆発が起きた方角は……」

「基地からの脱出路の出口がある場所だ……偶然なのか、狙ったことなのかは分からないが……あれだけの爆発ならば、彼女は巻き込まれている可能性が高い」

 マーサ・ビスト・カーバインを切って、アナハイム・エレクトロニクス社への依存を弱めるために、連邦軍と連邦政府の新たな支配者たちは、ステファニー・ルオが事実上、率いていたルオ商会との契約を望んだ。

 高官どもの新たな『収入源』を、アナハイム・エレクトロニクス社から、ルオ商会に切り替えるのだ。

 アナハイム・エレクトロニクス社が月に本社を構えているからといって、スペースノイド的だと文句を言い始めた保守派もいるのだ。

 地球に根を張るルオ商会は、そんな新たな保守派たちの受け皿とも担ぐべき神輿ともなり……何よりも、『収入源』となる。

 新たな市場を開拓しようと必死なルオ商会とは、有利な条件で取引に持ち込めると、新たな保守派たちは信じているのだ。ステファニーが死んでしまうまでは。


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