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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT177    『チーム・オーガその8』


 心を静かに落ち着けて、気配を完全にかき消してしまうのだ……。

 3機になったオーガ隊は、自分たちが壊したハードナー基地の施設内に、それぞれ身を隠していた。モビルスーツは隠れるのが上手なのだ。

 破壊と混乱、カオスに呑まれた戦場では、それなりに隠れ場所というものが生まれてしまうものである。

 ちょっとした遮蔽物に、静かに身を潜める。生物ではないモビルスーツが、全力で気配を消したその瞬間、並みの感覚しか持たない者には、それを見つけることは出来やしないものだ。無生物は、無機物によく融け込めるものだから……。

 隊長は愛機のチューニングをしていた。他の二人も同じだったが……時間を待っている。ステファニー・ルオが攻撃しやすい場所に移動するタイミング、じっと待っている。

 それまでは生きていなければならないし……その瞬間のために、全てを捧げなくてはならない。誰がそれを成してもいいが……可能ならば、誰もがそれを成せるために牙を研いでおくべきだろう。

 ……隊長のグフ・カスタムは大きなダメージは無いものの、その高度なマニューバのせいで機体への負担が蓄積してしまっていた。

 最高の動きは、最大のダメージをモビルスーツにもたらす。20メートルの鋼の巨人たちが最も壊れてしまう原因は、戦いで受ける的からの攻撃などではなくて……その重量とパワーとスピードで編み出される機体負荷である。

 自分の動きで、巨人は壊れてしまうのだ。だからこそ、大勢の整備士が彼らを常にメンテナンスして、彼らに新たな部品を埋め込む必要が存在しているのだ。

 今、隊長のグフ・カスタムの全身の関節は焼け焦げそうなほどの負荷にさらされていた。身を隠すことにより、その関節を冷ましているのだ。

 隊長は愛機をより長く、よりマシに動かすための設定を模索している。武骨な傭兵の指たちが、まるでピアノ弾きの鍵盤叩きのように軽やかに動いていて。火器官制のシステムを完全に棄てて、壊れたセンサーのためのシステムも棄ててしまう。

 機体の制御のためだけに、モビルスーツのOSを働かせるのだ。戦いのためのシステム的な補助は、元から多く積んではいないが……必要最低限以下にまで、システムを棄てて、OSを身軽にしてやるのだ。

 ハードを回復する手段はないが、ソフトウェアならば、まだ手段はある。モビルスーツから戦闘能力を剥ぎ取って行く作業は、モビルスーツをガリガリに痩せ細らせるような感覚でもある。

 弱くなっていくようにも見える作業だからだ。しかし、一つの目的さえ果たせばよいのであらば……そのために機体を刃のように研ぎ澄ませているとも言えるだろう?

 強がるように、隊長はそんなことを考える?……いや、彼は強がってもいない。死ぬ覚悟を決めた戦士は、もはや仕事の完遂にしか興味がない。死んでもいいのだ。

 そんなことは、とっくの昔に覚悟して、北米くんだりまでやって来て、たった4機のモビルスーツで、援護も無しに連邦軍の基地に乗り込んで大暴れをしている。

「……ジオニストのテロ屋には、完全に化けることが出来ただろう。少なくとも、オレたちがそうじゃない証拠はどこにもない」

 あとは……ルオ商会が上手いことストーリーを作り上げて、オレたちの胡散臭さをカバーしてくれるだろうよ。

 いつものように、オレたちは闇から闇へと存在を移し替えて、足跡なんてどこにも残すことはない……そして、名も無いまま死ぬのだ。傭兵らしい最期で、満足出来る。

 名など要らない。ただ、戦いを通じて、自分の強さを表現し、自分が戦士として生きたことを実感することが出来たのならば、他の多くの事は問題には思わない。

「……オレたちは、十分に生きた。生きすぎてしまったほどだ。戦友たちよ……ジオン公国軍の同胞たちよ…………お前たちと共に戦った戦争も面白かったが、ルオ・ウーミンがくれた戦争は、もっと楽しかったぞ…………そろそろ、地獄で会える。罪深いオレたちは、地獄でしか再会は出来ない。地獄で再会したら、兄弟たちよ……オレの名前を久しぶりに呼んでくれ―――」

 ―――ヘルメットのHUDに、ステファニー・ルオの反応が現れる。ミノフスキー粒子も減って来た今では、彼女の放つ信号は、オーガ隊の3機にはハッキリと伝わるのだ。

 戦士の貌が歪むのだ。戦いと狩りへの喜びを、その顔は表現していた。戦うことを愛してやまない、どうしようもない戦士の一人が、モビルスーツに起動命令を送り込む。

 最高ではなく、最善の状態に微調整を受けた青鬼が、その核エンジンを呼び起こし、機体の全身に動力を伝えていくのだ。

 グフ・カスタムが静かな眠りを終わらせる。ブオオオオオオオッ!!と全身の駆動系に電力がフル充電されていく。

 現状が許してくれる、最速のマニューバを出し切るための設定が、動力パターンとして機体の各部に保存されていくのであった。

「……行くぞッ!!人生最後の戦いを、始めるぞッッッ!!!」

『了解ッ!!』

『行きましょう隊長ッ!!我々の強さを、見せつけて……地獄に落ちるんだッ!!』


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