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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT168    『傭兵の襲撃』




 ハードナー基地は北米の連邦軍基地のなかでも、最大級の基地だ。

 一年戦争時に地球連邦軍は数多くの軍事拠点を失ってしまっているが……太平洋に隣接するハードナー基地はこの十年の基地再編計画のなかで新設された軍港のなかでは、間違いなく最大のものだった。

 歴史も伝統もないが、太平洋に面しているために、空輸だけではなく海運による物資の供給が可能となるのだ。

 ルオ商会の本拠地であるユーラシアから、多くの軍需品がハードナー基地に運び込まれてくることになる。

「この基地への投資に、ルオ商会が積極的であったことを、是非ともお忘れなく」

 基地の代表者であるチャールズ将軍を前に、ステファニー・ルオは釘を刺すように語る。チャールズ将軍と彼女は、長い付き合いがあり……だからこそ、チャールズ将軍は把握してしまう。

 今日のステファニー・ルオは、ご機嫌斜めだ。ティターンズの残党にでも出くわしたかのように、眉間に深いシワを寄せ、怒りを隠せていない。

 ポーカーファイスの商売人を、ここまで感情的にさせるとは、一体どこの誰が問題なのだろうか?

 おそらくは自分が原因ではないのだろうと、その点に関してだけは、チャールズ将軍という人物は絶対的な自信を持っていた。ステファニー・ルオには、いつだって敬意を支払って来た。

 見返りを多くくれる才女には、彼は従うようにしている。この基地の利権を、ルオ商会に提供したのだ。間違いなく、自分は彼女の不機嫌の原因ではないだろう。情報を、集めていないわけでもないのだ。

「……オーストラリアで、大きな戦いをしたようですな」

「……私は、そんなことは命じていませんわ」

「そうですか。なるほど……たしかに、そうでしょうな。しかし……どんな誤解があったのかは存じ上げませんが、状況はよくはありません。アフリカの連邦軍に、ティターンズの戦犯どもの技術が伝わっていると、ウワサが起きている。それに、貴方が関わっているというウワサも」

「私が、ニューホンコンを襲撃したティターンズの戦犯どもに、仕事を依頼するとお考えだとすれば、的外れもいいところですよ、チャールズ将軍。私は、ティターンズに対して恨みしか持ってはいませんの。故郷であり、本拠地を攻撃されたのですよ?」

「……ええ。ですが、事実は大きい。アフリカとのお付き合いも親密だったようですな」

「……否定はいたしません。我がルオ商会は、地球の全域、宇宙の三分の一のコロニーとの商取引がありますから」

「ロンド・ベルには、ティターンズ嫌いも多くいます。ステファニー・ルオ、私は、いつでも貴方のために友人たちへメールも送れば、電話をかけることも苦には思いませんよ」

「分かっています。いつもご協力を感謝しておりますわ、チャールズ将軍」

 ……窮地でも弱みは見せないか。さすがは、ルオ・ウーミンの娘だ。自分の作りあげて来た人脈と、利害関係は、必ずや自分を守り抜くという自信があるのだろう。

 しかし、このハードナー基地に、これほど長居をするとはな……護衛を待っているのか?……彼女の、通常警備だけでは安心を得られないという状況なのだろうか。

 ルオ商会の内紛……アナハイム・エレクトロニクス並みの醜聞とならなければ良いのだが……。

「……チャールズ将軍」

「なんですかな?」

「……貴方には、ご兄弟がおられますか?」

「いますな。五つ下に弟と、六つ下に妹が。幸い、どれもまだ生きていてくれております」

「……そう。家族仲が良いようで、羨ましいですわ」

「……いえ。それほどでもありません。皆、それぞれに生活がありますからな。ほとんど無関心な状態と言えるかもしれない。何か、特別なキッカケでもなければ、電話することさえもありませんから」

「その距離感が、良いのかもしれませんわ。私のように、義理の妹と、同じ商売の表と裏を司るような立場であれば……あまりにも、距離感が近すぎる。それに……妹は、私よりもカリスマがある」

「……地球最大の総合商社を仕切っているのは、貴方ではありませんか?」

「ええ。そうね。でも、私は父たちが作った基盤を受け継ぎ、マネジメントして来ただけ。ミシェルのように、想定外の危機にすら反応するような力はない……アレが、ニュータイプとしての力だとしても、ただの商才だとしても……私よりも、歴史の流れを読むことに長けているのは確かです」

「……まさか、あのステファニー・ルオに、そこまで言わせるのですか、貴方の妹御は……ミシェル・ルオは……?」

「そうですわ。父が溺愛した理由は分かる……それに、ヒトは、やはり得体の知れぬ伝説に心を惹かれてしまう存在なのでしょう。『奇跡の子供たち』の一人に、助言をあおぎたい。ヒトは……どこか、そういう感情に囚われてしまう。偉大な力に触れて、その恩恵を賜りたいと願うのでしょう……私は、優秀ですが、フツーの女です。奇跡を起こしたことは、一度だってありません」

 ステファニー・ルオがどこか疲れた顔でそう語り終えた瞬間、ハードナー基地にはけたたましいサイレンの音が鳴り響いていた。


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