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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT167    『隊長の独白2』




 ルオ・ウーミンは、傭兵という浅ましい獣と化したオレにとっては、最良の飼い主だったことは間違いがない。

 せがめば、いつだって仕事をくれたもんだ。アジアに、ヨーロッパに、アフリカに北米も、イヤな思い出がつきまとう南米にも出かけて、とにかく戦闘の欲求を満たして回った。

 グリプス戦役のときに、ニューホンコンを守ってやれなかったことは、オレとしても悔恨が残ってはいるが……あのときは、カラバの連中を援護するために、北米を部下たちと共に彷徨いながら、ティターンズの基地を何十カ所も襲撃していたよ。

 正確な撃墜数が記録されていたら、オレは歴史上最高のモビルスーツ・ハンターの一人になれたはずだが……基本的には、地球連邦軍から賞金を懸けられているような立場なもんでね。

 大手を振って、宣伝することも出来なかった。ニューホンコンが襲撃された後では、ルオ・ウーミンは激怒していた。ティターンズを殺しまくれと、命令してくれたのさ。

 それまでも殺しまくってはいたが、潤沢な物資と補給、そして、有能なパイロットを補充してくれたもんで、クソ大嫌いな連邦軍のパイロットどもを、片っ端から殺しまくることが出来た。人生最良の日々だったな、グリプス戦役の頃は……。

 その後も、地を這う獣のように、獲物を求めて大地をさすらい、殺しと破壊に明け暮れたもんだ。

 自分が、どんどん下品な存在に落ちていくことは分かってはいたが、それは偽りの自分を捨て去り、真の自分をさらけ出す行いでもあることは理解していたのさ。

 オレは乱暴者で、粗暴で、残虐で、戦士で、傭兵で、パイロットだった。それらの言葉を並べれば、オレが表現出来るし、それ以外の肩書きはいらない……ルオ・ウーミンとつるむことを喜ぶ、邪悪な獣……それで良かった。

 親父は金と敵とグフをオレに与えて、オレはそれらで仕事をこなす。生きている実感があるのは、戦いの中だけだ。そこが生来のオレの住み処なんだと、ルオ商会の仕事はオレに分からせてくれたよ……。

 彼が病に倒れ、冷凍睡眠を選んだときは、なかなかに泣けたものだ。宇宙に残して来た親族が死んでいたことを聞かされたときよりも、ずっとさみしい気持ちになった。

 それでも、『裏のカリスマ』はミシェルお嬢さまに引き継がれた。八卦で経済も戦局も読み解く、本物の怪物―――その真偽に興味はなかったし、今でも別にいい。

 大事なのは、彼女が女王のように残酷かつ傲慢であり、殺し合いをしている敵がいるということだ。

 宇宙にだって、行くつもりではあったがな……古株の連邦のパイロットは、オレの顔やマニューバを覚えているはずだから、あくまでも連邦軍の特殊部隊が中心である今回の『不死鳥狩り』には参加するのは難しい。

 ブランクなどないハズだが、オレの部下は地球でしか戦ったこともないヤツらばかりだ。

 才能はあるし、鍛えてはいるが……地上から脚を離すことを喜びはしない連中ではある―――この血と汚染物質をいっぱいに吸い込んだ大地でも、彼らには無二の故郷であり、墓標にすべき場所でもあるのだ。

 ……さてと。そろそろ、オレたちは傭兵らしく、まったくもって名誉なき戦いをするとしよう。

 熱心なジオン・ダイクン・マニアのフリをする。地球を汚染する人類を、粛正しようというマジメなジオニズム運動中年ってことだ。

 今さら過ぎるが、まあ、しょうがないじゃないか?……それぐらいの演技は必要なんだ。

 今から……オレたちはステファニー・ルオを暗殺するために、彼女を巻き込むテロを起こすのだ。彼女が商品を売り込みに寄っている、連邦軍の基地の一つ……そこに向けて、トレーラーを走らせている。

 無線による、無人運転ではあるが……その背にはグフ・カスタムが載せてあるのさ。

 最後の戦いを行う場所としては、魅力にあふれている場所だよ。敵の基地に乗り込んで、そこに商談目的でやって来ているステファニー・ルオを殺すのだ。

 その後は……十中八九、連邦軍のモビルスーツに囲まれて、蜂の巣にされてしまうだろう……死ぬまでは、生きるための戦いを続けるつもりではあるが、そう長くは保ちはしないさ。敵の装備は最新鋭であるし……練度も悪いことはない。

 こちらはグフ・カスタムの4機編成―――命知らずが集まっている。それぞれに、振り込まれる金の使い道は決めている。オーガ2は、妹夫婦に。オーガ3は両親に。オーガ4は……身寄りが無いから、孤児院にだ。オレもオーガ4に付き合うことにしている。

 死んだ後の金の使い方なんて、別に考えてなくても良いんだけどな。オレは、名前も地位も、全部、磨り減らしてしまった立場だし……だが、孤児院に金を送るなんてのは、ヒーローっぽくて良い。

 オレの場合は、孤児を作って来た贖罪の気持ちもあるのかもしれない。そんな繊細な性格はしていないつもりだったのだが、意外と、オレの精神だって繊細らしいのさ。

 まあ。そんなことは、もうどうでもいい。ミシェルさまに、オレは尽くすと決めた。彼女が傭兵が傭兵らしく、戦士を戦士らしく生きる道を、オレのともがらどもに示すだろうから。そのために、今日、ここで死んでやることにしたのさ。


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