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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT166    『隊長の独白』




 ……宇宙育ちだった。だから、雨に降られるのはあまり好きじゃない。

 そう言うと、地球育ちのヤツも、オレもだと言って来た。誰もが、雨は好きではないらしい。気持ちも分からなくはない。

 放射性物質と化学物質が大量に混じり、コンクリートをも溶かすような雨なんて、誰も浴びたくなんてないものだろう。

 地球は年々、壊れて来ている。人類だけでなく、自然環境も、動物も、滅びようとしているのが分かる。

 宇宙への移民は、地球をこんな惨状になるから救うためであったハズなのに……その理念は、結局のところ、宇宙への移民が始まり、100年近く経った今でさえも守られることも、顧みられることもなかった。

 ヒトが生きるためには経済活動というものが必要であり、それがある限りは、欲望が地球を蝕むことになっている。

 地球ってのを、もっと大切にする予定だったのに……コロニー落としの残骸や、幾度となく繰り広げられた宇宙戦争の残骸が地上を汚染しながら降り注ぎ、地下にまで蓄積されているという……。

 そもそも、宇宙世紀初頭における、地球の統合戦争においての汚染も残っているのだがな。砲弾、毒ガス、燃やされた都市が吐き出す複雑な化合物の煙に……生産性重視のために大量に出てしまった産業廃棄物を埋めた穴。地球は、どこでもろくでもなかった。

 それでも争いだけは尽きることがなく、オレはただ闘争に身を任せている……一年戦争がジオン公国の敗北に終わった後でも、地上ではその残党が戦い続けていたし、モビルスーツはそこら中に放置されていた。

 それらを動かして、大暴れすることが出来るならず者は、どこの裏社会からも歓迎された。

 ルオ・ウーミンに見出されたのは、南アジアでのことだった。ルオ商会がモビルスーツ・パイロットを募集していたのさ。

 汚染されてゴミが漂う海辺の安宿で、前の仕事で稼いだはずの大金を全て博打で使い果たしたばかりの、野良犬みたいな傭兵は、すーぐに飛びついちまったもんさ。

 ……初めて見たルオ・ウーミンは、風の噂で聞いてきた怪物ぶりとは異なり、温和そうな男に見えた。

 連れている護衛は、ゴリラがボクシングを学んだような存在で、とにかくやたらとゴツいヤツらだったがな……本人は、そこらの釣り客みたいに、反パンに半袖というラフな姿だったよ。

 ルオ・ウーミンは、どこで知ったのか分からないが、オレの過去の多くを知っていた。地球連邦軍から高額な懸賞金をかけられていることもな……脅すために、それを言われたわけじゃない。

 ルオ・ウーミンの親父は、そのことを誇れと語った。ジオンの戦士であったのなら、それは勲章だろう。ワシは、そういう強い男は好きなのだ。

 『強さ』を買われたのは久しぶりだった。野良のパイロットになんて、モビルスーツの操縦者としての腕は求められてはいない。ちょっとした小競り合いの頭数に入れるだけの腕でいい。雑魚でもいいのだ。

 そこらのマフィアが求めているのは、けっきょく、腕ではなく、バカなパイロットだった。だからこそ、腕については深く評価されることはない。

 しかし、ルオ・ウーミンは野良犬としてあちこち彷徨ってきたオレの腕を褒めやがったのさ。だから、気に入った。気に入ったが、心配にもなった。オレみたいなのを飼ったとバレたら……後々、地球連邦軍に目を付けられるぜ?

 ルオ・ウーミンは笑った。気にすることはない。ワシも地球連邦軍の半分ぐらいからは嫌われておる。アナハイム・エレクトロニクス社と、仲の良い政治屋どもからな。とにかく、そんな下らないことはどうでもいい。

 強い男がいるのだ。有能なパイロットがな。お前なら、大丈夫だろう?ジオン軍のエースの一人であった、お前ならば。

 ニヤリと笑い、うなずいた。ああ、いいぜ。雇われてやる……ただし……グフを調達してくれないか?……オレのためのグフだ。古くてもいい。壊れていてもいい。

 ジオンのグフを、もう一度、オレに用意してくれたら……アンタが潰せと言ったモビルスーツの全てを、斬り裂いてやるよ。

 ルオ・ウーミンは即座にこちらの言い分を了承してくれた。オレは、久しぶりにグフに乗れることになった。

 パーツはオリジナルのものじゃないが……どうでもいい。グフの青い装甲に、素早く強い脚。そして、シールド付きのガトリング砲と、ヒートブレードがれば十分だった。

 オレは、それでルオ商会に盾突いていた、地元の漁師たちがやとったジム乗りどもを斬り裂いて、ルオ・ウーミンの期待が、間違いなどではなかったことを、しっかりと証明してみせた。

 オレは彼に気に入られることになり、それからも多くの仕事を引き受けることになったのさ。

 時には、連邦軍の援護なんていう皮肉な任務さえも、オレはこなすようになった。

 もはや、オレはジオンの闘士ではないし、ジオニズム運動に傾倒している若い将校でもなく、ただの戦争屋。ただの戦士。ただの傭兵。ただのモビルスーツの部品の一つとして、敵との戦いの日々を過ごせば、それだけで満足を得られる存在へとなっていた。


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