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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT159    『宇宙への架け橋』



 ニューホンコンには地球でも最大の民間宇宙港がある。約10キロメートルの長大なシャトル打ち上げレールから、宇宙へと人材と物資が常に送り込まれているのだ。

 海上輸送および空輸された物資を、ここから宇宙へと運んでいる。それはスペースノイドの生活を支える上でも、地球の経済を活性化させるためにも重要な商業路なのであった。

 その打ち上げレールに、ルオ商会の手配した『特別便』が乗っている。モビルスーツ7機を打ち上げることが可能な、巨大な大型貨物シャトルだ。税関の検査は通常通りパスすることとなる。

 軍事装備……ましてやモビルスーツの宇宙への持ち出しなど、法律に照らし合わせれば、もちろんのことながら不法行為ではある。

 しかしながら、これはルオ商会の権力が成せる無法というわけではなかった。今回の任務は民間軍事コンサルタントとして、地球連邦軍の機密作戦である『不死鳥狩り』に対して、ルオ商会が正式に参加するというわけだ―――つまり、この行為は地球連邦軍から依頼された、正式なる傭兵稼業ということなのであった……。

「軍隊が傭兵に頼るか……」

 地球連邦軍の対モビルスーツ戦闘用特殊部隊を指揮しているイアゴ・ハーカナ少佐からすれば、その行いには若干ながらの抵抗が存在しているのだ。彼は古くさい思考をする人物ではあった。

 軍隊の仕事をアウトソーシングすることを、恥だと思っている。何のためにあれほど巨大な組織を作り上げて、市民の血税を注いでいると思っているのか?

「……ハーカナ少佐。傭兵稼業というのものは、軍隊よりも長い歴史を持つ人類最古の職業のうちの一つですよ」

「……最古の職業か。人類は、パン屋よりも先に、暴力のプロを作っていたわけか。ちなみに……他にも最古の職業があるっていうのか?」

「ええ。傭兵と並ぶ最古の職業は、売春婦ですよ」

「なるほど。それについては、納得が及ばなくもない」

 暴力と性欲。野蛮な古代人には、お似合いの要素なのかもしれない。それらは、けっきょくのところ人類にとって本能的な要素であり―――消し去ることの出来ない原罪というものに等しいのかもしれなかった。

「それに、軍事コンサルタントですよ。我々は、アドバイスを送ることが仕事です。『不死鳥狩り』の実行役は、地球連邦軍の特殊部隊、『シェザール隊』なのですから」

「……建前はな。事実上、ルオ商会が仕切るってわけじゃないか。それが……オレは……」

「気に入らない、ですか?」

「……ああ。アンタには失礼なものの言い方になるかもしれないが。オレは、軍隊の仕事は軍隊だけで完結すべきだと考えていた。古くさいのかもしれないがね……」

「戦時下ならば、そういった発想で良いのかもしれません。ですが、今は総力戦の最中にあるわけではなく、基本的に社会は平和なのです……」

「紛争地帯ばかりを巡っているせいか、そういう認識を強く持てないでいるんだよ」

「理解出来ます。しかし、ジオン共和国を筆頭とした、宇宙の独立戦争は低迷していますよ。少なくとも、地球圏全域では……少数のジオン公国軍、ネオ・ジオン軍の残党が比較的に小規模な抵抗運動を行ってはいますが……ルオ商会でも、対応しています。これは、地球連邦軍ではなく、地球連邦政府からの依頼ではありますがね」

「……治安の維持も、傭兵に任せているのか」

「……この土地が『独立』をしようとする日も、遠からずあるかもしれないなぁ」

 ……大尉には心あたりがある。彼の『親友』は、姿を見せてこない。『親友』がしようとしていたことを、大尉は薄々、気づき始めているが―――気づかないでいた方が、妙な責任を負うこともなく過ごせそうだった。

 だから、気づいていないフリをすることを選んでいる。今は、余計なモノを背負っている場合ではない。自分の不得意なスタイルを持つ強化人間と戦わなければならない……イアゴ・ハーカナ少佐はヤツと戦うつもりらしいが、正直、少佐の腕でも危うかろう。

 二人がかりで、どちらかが犠牲になる戦術を用いることで、ようやくあの強化人間と『ガンダムもどき』を倒せるのだと、大尉は予想を立てていた。

 シャトルに乗った面々は、シートに着席する。ジュナ・バシュタ少尉は、こんなときでも携帯型のシミュレーターを持ち込んで、目と耳にナラティブガンダムのオプション装備の使い方を学んでいる。

 エンジニアによる座学講座を耳から聞きながら、映像のなかで、可能とされているマニューバと、兵装の使用方法、火器官制の仕組みに、操縦マニュアルを読み耽っている。知識を感覚に馴染ませていくのだ。

 それが、モビルスーツ・パイロットを鍛え上げる、最も効率的な方法である。天才にはなれない。才能を上積みすることは出来ない。

 ニュージーランドで行って来たジェガン乗りとしての日々で得た経験値を、ナラティブガンダムの特製に合わせて行くしか、ジュナ・バシュタ少尉には強くなる近道はなかった。

 知識と経験。少ないそれを、どうにかガンダム・カラーに変えるために、ジュナ・バシュタ少尉は一分一秒たりともムダにするつもりはない。

 その集中力は、異常なほどではあるが、仕事への熱心さである。悪いコトなどではない……だが、宇宙のベテランとして、宇宙の初心者に忠告しておいてやる必要を、イアゴ・ハーカナ少佐は感じていた。

「……シェザール7。ジュナ・バシュタ少尉。宇宙へ上がることになる。お前はその初めての感触に、精神を集中させておけ……宇宙を知るための機会は貴重だ。その実際の経験は、シミュレーターでは味わえない。リアルな宇宙を、お前の経験値に刻め」

「……了解。シェザール1、イアゴ・ハーカナ少佐の命令に従う」

 シミュレーターを外し、ジュナは頬を叩いた。宇宙に、そうだ、宇宙へ初めて上がることになるのだ。


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