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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT158    『月へと向かう』




 ミシェル・ルオの元に、ジュナ・バシュタ少尉とシェザール1と2に、アフリカから来た大尉も集まっている。ブリック・テクラートが司会業務を開始していた。

「―――現状、『フェネクス』に挑めるのはナラティブガンダムのみ。しかし、このナラティブガンダムの『不死鳥狩り』専用装備は合流していない状況にあります」

「……シミュレーターでしか、触れてないな」

「全ての兵装ではありませんが、多くはアナハイム・エレクトロニクスから借り受けることになります。よって、我々は、そのアナハイム・エレクトロニクスがある月へと向かうことになります」

「……月か。オレたちの母艦、『ダマスカス』への合流は?」

 イアゴ・ハーカナ少佐はその疑問をぶつける。そこには彼のシェザール隊もいるというのに……。

「可能ならば、合流したいのだがな。アバーエフ艦長も、それを望んでいると思う」

「でしょうねえ。うちの連中も少佐がいないんで、ハメを外しすぎてしまっているかもしれません。アバーエフ大佐は、からかい甲斐があるヒトですから」

「ユーモアのある良い上司か?」

「いいや。マジメで無難な性格してるんだ」

「そういう意味で、からかいやすいか」

 スワンソン大尉は両肩をすくめながら、苦笑する。

「苦労人の相もあるって評判でね……『不死鳥狩り』なんてことに、関わることになってしまったんだから……その評価も、あながち嘘じゃあなかったというわけだよ」

「……大佐には、ルオ商会からも感謝を捧げています。言葉と、老後の豊かさという報酬によって」

「……かーなりもらっちまったんすかねえ」

「ハハハハ。うらやましいぜ」

「……組織としての腐敗が進み過ぎている。ろくでもないことだ」

「アバーエフ大佐は誠実な方ですよ。軍が主導して『フェネクス』を狩るべきだとしていますが、光速を出せるモビルスーツを相手にするのは、連邦軍でも難しいことでしょう」

 挑発的だと捉えてしまったのか、イアゴ・ハーカナ少佐は少しムッとしてしまう。

「……光速を狩る手段も、存在している。ビーム兵器主体の攻撃になり、消耗戦にはなるだろうがな。フォーメーションで、ルートを誘導し罠へと囲い込む。そもそも、常に光速を出しているわけではないのだ。やり用はあるさ」

「……ええ。不可能ではありませんが。それでは撃破してしまう可能性が高い。『不死鳥狩り』は『フェネクス』を回収する任務です。もちろん、その搭乗パイロットである、リタ・ベルナル少尉も確保する必要がある」

「……はあー。なんというか、ちょっと理想が高すぎやしねえかなあ」

「理想が高いことが、悪いとは思えないのだけれど?……違うのかしらね?」

 ルオ商会の特別顧問は中々に重い。黒い瞳でパイロットたちを見回しながら、彼女は続けた。

「いいかしら。難しい任務に備えて、それをこなすための人材を用意しているのよ。ジュナと私をエサにして……リタ・ベルナルと『フェネクス』を確保する。いいかしら?リタの幼なじみである我々がいる限り……他の部隊にはない、可能性があるはずよ」

「……そうだな。リタは、私たちに興味ぐらいはあるはずだ。どんな状態になっていたとしてもな」

「……どんな状態になっていたとしても、か」

 『ストレガ・ユニット』の一件が、イアゴ・ハーカナ少佐の頭に浮かぶ。少なくとも、リタ・ベルナル少尉は脳の一部を切除はされているのだ。10年ほど前に。

 医学的な知識がないイアゴ・ハーカナ少佐からしても、その行為がヒトの健康にどれだけ大きな影響を与えてしまう可能性があることは想像するのに難しくない。精神活動の、心を生み出すべき部位が小規模ながら、破壊されてしまったのだから……。

「そうよ。生きているのか、死んでいるのか。それとも、『もっと別の言葉が相応しいような状態』になっているのか……分かったもんじゃないわ……ッ」

 苦しみに歪んだ表情を使いながら、ミシェル・ルオは苦しみを吐き出していた。ジュナ・バシュタ少尉は、そんな彼女の顔から視線を外した。見れば、共感せざるを得なくなる。

 リタ・ベルナルへの同情、憐憫、そういった感情は……もちろんジュナだって持ってはいる。だが、それがあまりにも深まることは危険なことでもある。『フェネクス』に対する攻撃能力……そいつを発揮しなければならない場合もあるのだ。

 そう……リタが、どれほど『かつてのリタ』なのか分からない。リタは、どれぐらい残存しているのだろうか……それを問いただしたいが、その答えを持っているヤツらは、連邦軍の最大級の機密のベールに隠されているのだろう。

 戦争犯罪あつかいされた人体改造を、この平和な時代においても行うことが許されている部署は、秘密裏に存在している。

 まったく、世の中は、残酷なことばかりが起きているな。悪人ばかりが栄えているかのように思えてしまうほどに……。

 周囲に蔓延する鋼のように硬く、鉛のように重々しい空気に対して、ブリック・テクラートは咳払いを使い、存在感を高めていた。

「……リタ・ベルナル少尉の現状を把握することは困難です。しかし、我々がすべきことは決まっている。ナラティブガンダムの装備を完全にそろえます。シャトルにモビルスーツとスタッフを積み込み……月へと向かいましょう」



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