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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT157    『有線式ファンネル』



 精神的に不安定な人物が、サイコミュに触れた場合は、その不安定さを増すことがある。医師はそんな弁明をしておきたかった、愛するサイコミュの名誉を守るためと、専門領域である精神医学の立場から。

「サイコミュは自分の意識を分断するような力があるんだ。パイロットの意識を、五つにコピーして、モビルスーツの五体に分散して配置する。連携は完璧、同じ人物だから、同じ法則性で動く」

「便利だよなー、一人軍隊って」

「強うそうだな」

「実際のところ強い。ファンネルなんて、考えようによっては、ニュータイプ能力のあるパイロットが操る攻撃端末が無数に展開しているんだからね。アムロ・レイの群れに襲われれるってわけさ。しかも、極めて連携が取れたね」

「怖っ!!そんなの、ムリゲーすぎるわーッッッ!!!」

「大尉より強いらしいヤツが、うじゃうじゃ増えるって、反則だぜ」

「まあ、反則的な強さではあるよ。その代償としては……さっきもいったように、同一性の乖離」

「いってねえー」

「人生で初めて聞いた単語だわ」

「まあ。自分が増え過ぎちゃって、自分ってモノの定義が分からなくなるってことさ。君たち双子だけどさ。双子だから、あえてしゃべり方を変えて、自分もキャラクターを保っている。それが破綻したら、自分って何なのかって、少しぐらい迷うでしょ?」

「……あー……なんか、分かったかも」

「キャラが保てなくなったら、マズいよなあ。周りの皆のリアクションも気になるわ」

「そういうことさ。強化人間がサイコミュ兵器を使いすぎたら、自分が分散して薄れて、壊れてしまうことがあるんだよ。サイコミュが悪いというか……元々、強化人間の精神力の方に無理がある」

「……強化人間ってのも、難しそうだよなー……」

「ほんと……気が滅入ってくる」

「……そうかもね。でも、ボクたちの『有線式ファンネル』なら、そういう精神を分裂させる心配はない。搭載したアルゴリズムで、自動回避もしてくれる……」

「うーん。でも、ちょっとカッコ悪いよーな」

「有線式ってところがな……」

「でも、安全なんだよ、パイロットに与える精神的な負担は、通常のファンネルよりも低い。それに……数もスピードも減るけれど、その分、一個ずつは大型で、強力なビームを複数放てもする。通常のファンネルで、戦艦を撃破しようとすれば、パイロットの技量で敵艦の弱点に集中攻撃を連鎖させる必要があるけれど、『有線式ファンネル』なら、強力な砲撃で、何処に当てても敵艦を沈ませることが出来るってわけです」

「いいこともあるんだなー」

「でも、開発者の言葉ってのは、信じられねえぜ」

「まあ。そこは実戦でジュナ・バシュタ少尉に使ってもらい、成果を上げてもらわにゃいけませんけどね……でも、サイコミュのソフトを書いたモノとしては、大いに自信はあるわけですよ。サイコミュ対決になりそうですからね……宇宙での戦いは」

「……オレたち、場違いだなー……」

「ホント。でも、ヘリウム3に近づけるのは、ありがたいことだぜ」

「ヘリウム3?」

「いやー。こっちのハナシだよ」

「そうそう。それで……『フェネクス』はどんなサイコミュ兵器を使うんだい?」

「……あの機体は、フル・サイコフレーム・モビルスーツとして開発された。サイコフレームそのものに、無数のサイコミュが埋め込まれているんだよ」

「……よく分からねーけど。それって―――」

「―――金属に演算装置埋め込んだわけだよな?」

「そういうこと。製作者はクレイジーっていうかね。よくもまあ、こんなことを思いついたもんだと思う……サイコミュがあればあるほど、ニュータイプ能力のあるパイロットは優位になると考えていたんだろうね……ニュータイプは、サイコミュを操る能力が異常に高度に発達している。強い感応波で、自分という器の外に、自分のような存在を創って統御する行いに長けているんだ」

「……だからー、そういうの言われても、オレらにゃさー」

「そうだ。まったくもって、分かりゃしねえぜ」

「……ニュータイプはサイコミュと相性がいいんだ。サイコミュの群生体である、サイコフレームともね。強い意志で、自分のコピーを統制する。あるいは、自分の意志を拡張することに長けている……そんなところだ。とにかく!!」

「とーにかく?」

「なんだってんだ?」

「……『フェネクス』のサイコフレーム兵装は、光速……いや亜光速機動。既存のモビルスーツのどれよりも、もちろん速い」

「……そんな動いてさー……パイロットへのGは?」

「とんでもないことになりそうだけど……?」

「……そのための強化人間措置でもあるでしょう。ですが、いくら何でも速く動きすぎている……医師の見地からすれば……とてもじゃないが、生きてはいません」

「……パイロットもそー思うぜ」

「まあ。ジュナ・バシュタ少尉や、ミシェルさんには、言えないけどな……」


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