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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT153    『クローン・ミシェル』




 ミシェル・ルオは父親の劣化を早めるとしても、その『婚姻』を望んだのだ。これは、ある意味では報酬でもあった。今までの十年間、ルオ商会に尽くして、その発展を裏側から支えた。

 狂気に染まっていると評価されることもあるかもしれないが、多くのヒトはニュータイプの持つ能力を……『奇跡の子供たち』の力を求め、あがめ、頼り、依存し―――ミシェル・ルオはそれらの期待に応えてきたのである。

 持ち前の知能の高さを存分に使ってきたことではあるが……ミシェルに助けられた者からすれば、知力を用いた奇跡であろうとも、神秘の力を用いた奇跡であろうとも、彼女の八卦の力に救われたのなら、どちらも大差のないことであった。

 とにかく、ミシェル・ルオの功績は大きく、それは彼女という『ブランド』にしか成立させることの出来ない結果である……だからこそ、『報酬』をいただくつもりだ。本当のルオ家の一員となるべく、ルオ家の子を産むのだ。

 そのための子種を、冷凍睡眠状態にあるルオ・ウーミンから採取する……ミシェルが前々から計画はしていたものの、実行に移すことはしなかった手段であった。

 しかし、ステファニー・ルオと戦うことを決めた彼女には、もう一つぐらいの武器がいる。ステファニーの弟か妹を産み……ある意味では、ステファニーの『母』の立場を奪うのだ。

「実の子供では、その称号を得ることは出来ませんものね、お姉さま。でも、私とお父さまは血がつながってはいない。私は、お父さまの子を、堂々と妊娠して出産することも出来るのよ……アミ、私、お母さんになるの。どう思う?」

 難しい質問をされたと、アミは考える。どう受け止めるべきなのか……?」

「分かりません、ミシェルさま……私の最愛のミシェルさまのお腹に、男のヒトの子がいるなんて……っ」

「ウフフ。私がしてあげたみたいに。貴方も私に、貴方のことを生ませたいのかしら、アミ?」

 そう言いながら、ミシェルは蛇のような狡猾さを宿す笑みを浮かべて、可愛らしいアミのお腹をさするのだ。

 そこには、ミシェル・ルオの狂気が宿っていた。ジュナ・バシュタに対する狂気的な愛を、その場所に封じるために……ミシェルは倒錯した愛を、ジュナ・バシュタに似せて作らせたアミという少女に注いだのだ。

 アミの下腹を、ミシェル・ルオの手がやさしく撫でる。アミは、ちいさな嬌声をもらすが、それは清楚なものだ。つい先日まで、穢れを知らなかった少女は、未だに純粋な声で鳴いてくれる。

「ほら。私に可愛い可愛い、アミ……?あなたが、お医者さまたちに、いったい何をされちゃったのか、報告しなさいな」

「は、はい……あ、アミは……ミシェルさまのクローンを……アミの卵子を使った、ミシェルさまと私の赤ちゃんを……妊娠させていただきました……っ」

「ウフフ。科学って、スゴいわよね?……女が、女を妊娠させることだって出来るんだからね?……うれしい。アミ?……私のことを、妊娠しちゃったのよ、貴方?」

「は、はい。とても嬉しいですう、私の最愛なるミシェルさまぁ……」

 発情した動物のような声と貌で、アミはミシェルに抱きついていった。ミシェル・ルオは満足げに笑う。最愛なるジュナ・バシュタに、自分を妊娠させたような気持ちになる。そうするために、こんな狂気を実践している。

 クローン。それもまた、永遠の命を求めるミシェル・ルオの選択肢の一つだった。自分を滅ぼしたくない。死にたくない。その願望の一つが、自分と遺伝子的に同じ存在を、他の女に産ませる行為であった……。

 もちろん、遺伝子が同じだからといって、魂まで同じわけではない。本当に同じ存在なのかという疑問は尽きないし、それを証明しきる手段を、現代の科学や哲学は持っていない。魂の在処をどこに定義するのかは、とても難しい行為だ。

 そんなことは承知しているものの……それでも、ミシェル・ルオはこの自分の狂気的な行動に勝利を感じていた。アミの口のなかに、親指をツッコミ、アミの舌による奉仕を受けながら、ミシェル・ルオはアミの下腹をやさしく撫でる。

 自分自身がそこに息づいているのだ。自分の細胞から採取した遺伝子を、アミの卵子に挿入して創った新たな命がそこにいる。母になり、父にもなったような気分だ。もうすぐ、彼女も義父の子を妊娠することになるが……。

 永遠の命に魅入られた者たちに、大きな力と財力が与えられている。それゆえに、どんな倒錯した行為も受け入れられるのだ。

 法律も、倫理も、全て、こうして曲げてしまえば良かったのだ。ミシェル・ルオはそう感じている。悪に堕ちるほと、罪に穢れるほど、女はより強くなれるのだから。もっと早くに、お父さまの子を孕んで、私を他の女たちに孕ませてやれば良かったのだ。

 処女のままお父さまとの子を懐胎するなんて、まるで聖母さまみたいで素敵な行いよね……。

「……アミ。強くて立派な私を生みなさいな」

「は、はい。わ、私、がんばって、強くて立派な、ミシェルさまを生みますから……ご褒美を、ください。アミの最愛なるミシェルさまあ……」

 愛に囚われたしまったアミは、ミシェルのあらゆる行為を受容し肯定するようになっているのだ。それは調教とも言えるし、純粋な愛情であるとも言えた。

 アミはミシェル・ルオのことを、どこまでも愛しているし……その結果、自分がミシェル・ルオ・クローンを妊娠し、それを生むための母胎となることさえも、大きな幸福であるようにしか認識することは出来なかった。

 迷うことはなく、アミはミシェル・ルオを求めている。そんなアミが、ミシェル・ルオはたまらなく愛しかったのである―――。


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