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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT151    『恨み骨髄に徹す』



「恨みのために敵を許せないというわけだ。ニューホンコンの老人たちは」

「若者もそうですよ」

 ブリック・テクラートは理解している。ティターンズ・アレルギーはニューホンコン人の全てが共有する普遍的な怒りである。政治利用することで、得票率が上がるため……政治の場では絶対的な地位を保つ概念である。

「若者に権力がない土地でもある。ここは保守的で、あまりにも古くさい美学が支配している場所だからな」

「そうですね。否定はしません。だからこそ……時に、大きな若返りの節目も現れる」

「今度のようにだな」

「はい。大幅に権力者の年齢が若返る。25才のミシェル・ルオのもとに、ルオ商会は再建されることになるでしょう―――」

「―――暴力では、支えきれない部分も多そうだな」

「そうですね。ステファニーさまの経済的手腕を補うことの出来る人材の確保に、奔走することになるでしょう……」

「そのための月か」

「……ご明察。アナハイム・エレクトロニクスとの連携は、私たちの大きな切り札となる」

「地球連邦と仲がこじれてしまったアナハイム・エレクトロニクスを、支えてやるというわけだ」

「そうです。我々は、やがては一つに融け合うでしょう。大きな産業的複合体になる。それぞれの名前は変わるかもしれませんが、本質は同じコトです……我々は、この地球圏の経済そのものになる―――そして、いくらか世界は平和になる」

「しばらくの血塗られた道に果てにな」

「それが済んだら、貴方はどうなさるおつもりなのですか……?」

「……アフリカのバカに、させる予定だった仕事がオレに回ってくる。そいつは、かなりハードな仕事だし……使えそうな戦力は、皆、『不死鳥狩り』とやらに突っ込むわけだ」

「ええ。ルオ商会を継ぐこと以上の情熱を、ミシェルさまは持っておられますから」

「……どういう野望がお有りなのだ?……幼なじみを救出したいという願望は分かるが、それ以上のことはオレのようなパイロットには分からない」

「それは……」

「……いや。やはり、いい」

「訊かれれば、教えてもいい。それがミシェルさまの貴方への信頼を現す命令です」

「ククク!戦争屋の傭兵ごときには、勿体ない言葉だよ」

「いいのですか?」

「ああ、背負うことは少ない方がいい。オレは、ただの傭兵として生きて死ぬとしよう」

「……どういった計画なのですか?」

「お前は知るべきではないことだ。もしものとき……オレが無様に失敗なんてしちまったときには……ミシェルさまにつながる情報を断ち切り……オレを上手いこと切り捨ててくれると助かる。オレを、ジオニズムの信奉者だということにでもしてくれ。そんなストーリーを、元・ジオンのエース・パイロットの一人に設定付けするのは、難しい作業じゃあるまい」

「……ええ。分かりました」

「永く、ミシェルさまに仕えるといい。善と悪の重みと、その存在理由をよく知っておられる方だ……お仕えする価値は、必ずやある。死ぬほど、苦労することになるだろうがな」

「……そうですね。戦力は必要なのですよ。だから、可能な限り、死なないでください。ミシェルさまと、そして……私からの願いです」

「……作戦を成功させるために、全てを使う。オレがするのは、それだけだよ」

 隊長はそう言い残して、ニューホンコンの闇へと向かう……港には、モビルスーツを載せた輸送機を用意してある……多くないチャンスを狙い、仕留めるべき人物を一人だけ刈り取るのだ。そこから先は、まあ心配してはいない。

「生き残れたら、血で血を洗う楽園を味わうことになるだろう……力を示さなければ、ニューホンコンは連邦政府からの完全な独立を勝ち取ることはないのだからな」

 とどのつまり、暴力はいる。地球と宇宙で一番大きな企業、ルオ商会とアナハイム・エレクトロニクスが組んだところで……戦士がいなければ、この楽園を守り切ることは出来ないのだ。

 ……困ったものだ。生き残りたくなってしまう。

 隊長はククク!と獣染みた凶暴さを宿した笑顔を浮かべて、自分の貪欲さを笑っていた。いつまでも生きて、いつまでも戦っておきたいらしい。

「……死中に活を求めるという言葉も、アジアにはあったらしいな。いい美学だ。オレも、それに期待して生きて行くとするかね……オールとタイプは、古き言葉に支配されているらしいしな……」

 港にいるのは、彼の選んだ部下二人と……やはり、あのグフカスタムだった。問題はない。難しい仕事にはならないからだ。殺すべき者に狙いを定めて、砲弾を撃ち放つだけの仕事だ。

 それは……とてもシンプルな行いである……簡単で、もちろん罪深く。その先の人生を……永遠に犯罪者として過ごすことになるだろう。ニューホンコンには帰れないかもしれない。だが、それでもやるべきことだ。ルオ商会を、ミシェル・ルオに捧げるために―――ステファニー・ルオを殺すのだ。


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