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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT150    『ティターンズ・アレルギー』




 ニューホンコンの表も裏も取り仕切る。それがルオ商会という組織の本質であり、このニューホンコンの摂理でもあった。傭兵部隊の隊長は、その摂理の一つに自分が組み込まれたことに対して、最近は誇りに思えるようになってきている。

「ヒトの心根が悪だとするのなら……オレたち傭兵はまさに、その化身。ヒト殺しの技を金に換えて生きているのだからな……善良さとは、真逆の道を歩んできている……」

 悪に堕ちることを、快楽のように感じ始めたのは、一年戦争での手痛い敗北のせいだろうか?……ジオニズム運動に燃えていた、純粋な少年のような心はとっくに変質して、今の彼の心ににあるものは理想を求める狂気ではなく、より自分を自分らしく表現することが許された環境を作ろうとする、冷徹な欲求だけである……。

 それでも、『女王』に出会えた。傭兵たちや、悪人どもを統べるに相応しい、闇の女王に彼は出逢ってしまったのだ。ここまで、ミシェル・ルオを評価してしまうのは、本能だ。

 野性の勘といっていい。原始的な感覚が訴えてきている。ミシェル・ルオの作り出すルオ商会は、この大陸に大きな騒乱さえ巻き起こすかもしれないが……それこそが隊長にとっての正しい世界だった。それほどに行きやすい未来はないというものだ。

 戦いのことだけ考えて……モビルスーツの一部に融け合いたい。戦いそのものになってしまいたいのだろうな、オレは……鋼になって、何でもいいから敵とずっと戦い続けていたい……。

 ろくでもない本性だが、結局のところ、オレが数百回の戦闘で自覚した答えは、その血なまぐさいものであった。これは、変えられることの出来ないものだろう。

「……それで。決めたのか、長老たちは?」

「……ええ。古くからのしきたりに忠実なのですよ、長老たちは」

「ブリック・テクラートよ。しきたりは嫌いなのか?お前のような賢い若造は」

「いいえ。伝統は好きです。それがなければ、ヒトはあまりにも空虚で、ただの合理的な生き方しか出来ない。まるで、虫や機械のようですよ」

「お前は、ミシェルさまの忠実な下僕か?」

「下僕というよりも、忠実な部下です。私は、ミシェルさまのために、可能な限りのマネジメントを執り行ってきました。彼女の願いを、実現化する。それが私の役割なのです」

「……そうか。頼りになる仲間ということなら、オレからすれば問題はない。ちょっとばかし予定は狂ったがな……アフリカのアホを、使う予定だったんだがな」

「……彼を使う、ですか。物騒な仕事になりそうですね……あの大尉殿は、何者です?ニュータイプか何かのように見えるというのが、戦術アドバイザーの意見ですよ」

「ふん。殺しが得意なのは、ニュータイプの専売とは限らないだろう。オールドタイプだからといって、弱いとは限らんと言うことだ」

「ええ。そうなのでしょうね。貴方や……あの大尉のような方もいる。そもそも、ニュータイプの能力は、戦闘用に生まれて来たものでもないのですからね……」

「ならば、何のために進化したというのだ?……モビルスーツ戦闘という極限状態で研ぎ澄まされる感覚は?……殺しのためでは、ないと言うのか?」

「戦闘に使っているのは、他者を深く認識する能力を使っているだけのことでしょう。おそらくは、アムロ・レイという人物が、その評価を戦闘的なものに限定させてしまった」

「バケモノのように強いと、もてはやしたエース殿だろう。お前たち、地球の連中が」

「そうですね。ですが、その能力の本質は、戦いだけのものではない。アクシズ・ショックを発生させたことで、彼は……その能力が殺戮にのみ使われる力ではないと、示してくれたように思っています」

「アクシズ・ショック。アムロ・レイとνガンダムがあのアクシズという質量を、地球からの落下軌道から外したというアレか……」

「ええ。大いなる奇跡でしょう。地球は、その奇跡がなければ滅びていた。何億人、何十億人も死んだでしょう……シャア・アズナブルは、そうまでしてヒトを次の段階へと押し上げたかったのかもしれませんが……性急すぎますよ」

「シャア・アズナブルか……」

「お嫌いですか?」

「どちらでもない。ネオ・ジオンとオレは距離があるんだ。ネオ・ジオンの総帥に対しての忠誠心もない。いや、オレは、とっくにただの傭兵として生きている。戦士として満足させてくれる、戦争屋の風格を持った主に尽くすのみだ」

「ミシェルさまは、まさにその風格の主だと?」

「違うか?……彼女は……彼女も、ようやく本気になってくれたのだろう。ステファニー・ルオを殺し、自分がこのルオ商会を継承する覚悟を、彼女は固めてくれた。その認識は、間違っているのか、ミシェル・ルオの忠実なる秘書、ブリック・テクラートよ?」

 ブリック・テクラートは静かにうなずく。眼鏡の奥にある瞳は、若干の迷いや戸惑いを感じさせるが―――隊長には分かる。この男もまた、ミシェルさまの忠実な下僕である。

「はい。ステファニーさまの存在は、今後の憂いになるでしょう。ティターンズの遺産と絡んでしまった。『ストレガ・ユニット』……連邦軍の中には、ティターンズにアレルギーといえるほどの過剰な憎しみを持つ者たちだって多い」

「……ステファニー・ルオは、そんな連中に睨まれるようになるわけだな」

「ええ。このニューホンコンを襲った、サイコガンダム……あの被災を、我々は忘れてはいません。ティターンズの強化人間……それに対する、我々の怒りと憎しみは、ステファニーさまも知っていたでしょうが……組んでしまった相手が、悪かったのですよ」

「長老たちが一致した理由は、それか。ティターンズ・アレルギー」

「ええ。彼らもまた、知人や親族を、あのティターンズの攻撃で失った者たちなのですからね……」



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