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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT148    『ベテランたちのささやかな宴』




「『ガンダムもどき』に乗る、『ニュータイプもどき』か……」

 アムロ・レイのコンセプトを求めたような存在が、どちらもしくじってしまったような答えだな。

「……スペースノイドの皆さんも、アムロ・レイやガンダムに憧れるのかい?」

「連邦側はな。ジオン側からすれば、恐怖と殺戮の象徴ってところだ。スマートな外見の機体だが……それが、どこか薄ら寒く感じると、コロニーに住む女に言われたことがある」

「……たしかに、殺戮兵器の割りには、ガンダムやジム系列の機体は、愛着が湧くような気がします。どこか、女性的っていうか?」

「自分たちが『正義』だと主張しておきたい、地球連邦のエゴを背負っているようにも思えるがな……」

「大尉殿は、連邦軍がそう好きじゃないようだな」

「ああ、そうだな、少佐。アンタは軍隊一筋なのかもしれないが……オレは、そんなにマジメじゃなかったよ……どっちかというと、さっさと家に帰りたいと願っていたハズだが。気づけば、そういう場所は消えていたし、新たに作る努力も怠ってしまった」

「……孤独を感じる年齢でもあるよな。皆、独身か」

「へへへ。なんていうか。そのうち、宇宙で死ぬ死ぬーって思っていたら、意外と長生きしていたんですよね。昨夜も、二度も殺されかけたのに、どうにかこうにか生きてますしね」

「昨日はゴメンな、殺しかけて。ほら。酒呑め、酒呑め」

 大尉も少しは気に病んでいるのだ、昨日、スワンソン大尉のことを殺しかけたことを。

 ビーム・ライフルの不意打ちテクニック。大尉の得意技だが、シェザール隊仕様のジェスタでなければ、死んでしまっていた可能性もあった。

 ヒョイヒョイと、ビールや老酒の缶や瓶を手渡してくる大尉の行動に、スワンソン大尉は理由を察した。

「……危うく、殺しかけていたか」

「まあな。ホント、ゴメン。オレちゃん、けっこう雑なところがあってさ?」

「ハハハ。それは、まあ、意外じゃないよ……いや。結果オーライだ。アンタたちがいなかったら、オレたちは狩られていたかもしれない……護衛対象のガンダムにも、助けられてしまったがな……情けないハナシだぜ」

「気にするな、スワンソン。生き抜けたなら、それだけでパイロットは御の字だ」

「……そうですね」

「……オレちゃんと戦ってて、逃げ出していたヤツも……ダメだったなぁ……」

「死んでいたらしいな」

「双子が見つけた。運が悪いったらない。脱出装置が上手いこと作用せずに、首の骨が折れちまうなんてな……残念だよ」

 上手に逃げていたと思ったが、落下の衝撃で首が振られて、頸椎の上から2番目の骨が砕けてしまう。

「脱出装置が着地する場所に、ちょっとした岩があるだけで、そうなっちまう。オーストラリアってのは、平坦なはずだったのによ?……はあ、命ってのは、あいかわらず、儚いもんだよ」

「……その不運なパイロットに」

 スワンソン大尉は、そんな言葉と共に、缶ビールを掲げた。イアゴ・ハーカナ少佐も、缶ビールのタブを開けて、部下の動きをマネていた。

「昨日死んだ、全てのパイロットに」

「……へへ。いい儀式だ。じゃあ、オレちゃんは……これから殺す、どこかの誰かに」

 罪深いことを、これからもするだろう。きっと、生きている限り……モビルスーツのパイロットでいる限り。

 ここにいる三人の男たちは、自分たちの本質を理解している。善良であろうとは考えているが、それでもモビルスーツのパイロットである自分に、ハマってしまっているのだ。去ろうと思えば、去ることも出来たのに、いつまでもモビルスーツに夢中なまま。

 殺し合いだって、嫌いじゃないのだ。技術と能力の勝負に、彼らは皆、子供のような無邪気さで挑んでいる。楽しくて、たまらない。殺し合うことも含めて……パイロットという仕事に取り憑かれている。

 ろくでなしな男たちの指が持つ、それぞれのアルコールがぶつかり……死者たちへの祈りは終わる。

「……これからも殺すか」

「ゴメン。空気、読んでなかったかな。オレちゃん、酔っ払っているから、少し、いつもよりダメさがパワーアップしてやがるんだ」

「……いや。正直だよ、アンタは」

「うん。そういうの、ダメなんだよね。大人って、嘘つかなきゃダメなのにな」

「いいや。パイロットは子供のままでもいいんだよ」

「……少佐サマになると、良いこと言えるようになるんだ。オレも、そういう大人になれたら良かったんだがなぁ……まあ。ダメな大人の一人として、明日も殺すよ……『袖付き』……いや、違うんだっけ?」

「ミシェル・ルオの勘ではな」

「……だとすると、意味、分かるよね?」

「……まあ、な。ややこしい任務になりそうだ」

「明日までには、肺からの血も止まる。オレも……どうにか、バックアップに備える。機体を残してくれたら……戦う」

「そだね。でも、それまではオレちゃんが、イアゴ・ハーカナ少佐の2番機を、代理で務めてやる」

「でも。アンタ、宇宙は、行けるのか?」

「うん。6機、殺したことがある。元々は、宇宙配属だったんだよ。オレちゃん、宇宙戦の適応のが、高いから」


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