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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT147    『カッコつけたい中年男ども』




「……そんなことを言ったんですね、最近の若い女に?……ドン引きされたでしょ?」

 ベッドに寝かされたスワンソン大尉は、ニヤニヤと笑っていた。相棒にそんな顔で笑われたイアゴ・ハーカナ少佐は、不機嫌そうに顔をしかめる。

「ああ。ちょっと……いや、かなり引いていやがったよ。オレはマジメに言っているつもりだったんだがなあ……どうにもこうにも、ああいのうが、伝わりにくいらしい。世代間のギャップというヤツだろうか?」

「ハハハハ!そういうのもあるかもしれませんね。世代によって、価値観ってのは、大きく異なっています。オレたちも、すっかりと中年ですしね」

「……そうだな。一年戦争で、初めてモビルスーツを見た時は、生き残れるなんて考えることも出来なかった。何てバカデカい機械仕掛けの巨人を、ジオンのヤツらは作っちまったんだろうなと……怯えちまったよ」

「でしょうね。モビルスーツなんて兵器は……それまで、存在しなかったわけですから」

「それから、二十年足らずで、地球にも宇宙にもモビルスーツはあふれている。その結果、人類の人口は……半分に減っちまってもいるわけだ。これじゃあ、宇宙移民がますます進まないわけだよ」

「そうっすねえ。オレたちがガキの頃は、宇宙への移民で地球が救われるんだって、だから、皆で地球のために宇宙に行こう!……って、スローガンであふれていたってのに」

「今でも、ヒトは地球に縛られている。破壊された都市を再建して、経済を動かすために法まで歪めて、自然を破壊する再開発ってのを行っている……宇宙から見た地球は、どんどん茶色い荒野が広がっているんだ」

「……そうかい。宇宙勤務のアンタたちから見ると、やっぱり、地球ってのは壊れて来ているように見えるんだな」

 シェザール隊の会話に、瓶に入った老酒をラッパ呑みしながら、アフリカから来た大尉は、そんなセリフを使って割って入る。

「ああ。そう見えるよ、大尉サン……アンタたちは、アフリカだっけ?」

「そうだ。ジオンの連中がサバイバルして20年。世代交代しながら、かつてのガキがヒゲだらけのオッサンになって、スペースノイドの独立のために戦い続けている。オレたちは、そういうヤツらを、数で取り囲んで、その家族ごと焼き払う仕事をしていた」

「……それは、酷い任務だな」

「ジオンの残党のヤツらも悪い。ヤツらは、ハッキリ言ってテロリストだからな。だが……同情すべき存在だとも思う時だってあるんだよ。正義を親から継いで、宇宙も知らないのに、宇宙のために戦うヤツらがいる……それは、どこか空しい」

 そういった若者たちを、モビルスーツで踏みつぶす。ろくでもない作業ではある。アレは、もう戦争ではなく、ただの虐殺なようにも見えた。

「……イアゴ・ハーカナ少佐よ。さっきの言葉は、オレちゃんみたいな、ダメな中年男のハートには突き刺さっていたぜ」

「そうか。アンタも、一年戦争から戦い抜いて来た口だもんな」

「ああ。世の中が、どんどんおかしくなって、気づけば戦争のなかにいて。モビルスーツの適性があるから、それに乗せられて、ジオンのモビルスーツと戦い続けて来た。いつしか、ジオン公国も消え去って、気づけばティターンズとカラバに別れて……ああ、宇宙じゃエゥーゴもだな。とにかく、連邦軍同士での殺し合いもやっていたよ」

「……混迷の時代ってヤツだよなあ。宇宙世紀の最初の百年ってのは、ろくでもなかったって、歴史に刻まれるんだろう」

「そう在るべきだな」

「え?」

「いや、イアゴ・ハーカナ少佐の言う通りだよ、スワンソンくん。あの時代が、ろくでもないように見えないほどの時代なんて、来ちゃいけないってことだよ……」

「……なるほど。たしかに、その通りだな……」

「次に、一年戦争みたいなサイズの戦いが起きたら……ザクどころじゃない、高性能のモビルスーツでお互いを潰し合うことになる……一体、どれだけの命が、そんなことが起きたら失われてしまうのか……」

 一年戦争で、全人類の半分が死んだ。次は、その半分になるだけで、済むのだろうか?……想像するだけで、背中に冷たい電流が走ってしまう。次の世紀に同じような戦いが起きれば、本当に人類を終焉に導くことにだって、なりかねないような気がする……。

「……オレたちは、やれることをしよう。『フェネクス』、その脅威を止める」

「ああ。そうだな、オレちゃんたちにしか、出来なさそうな任務だ……かなりターゲットは強いし……厄介そうな敵もいる」

「ギラ・ズール……『袖付き』……」

「ミシェル・ルオは、ニセモノだと語っていた。ニュータイプとしての力か、占いなのか、それとも、アナハイム・エレクトロニクスからの情報なのかは知らないがな……」

「何であれ、信じた方が良さそうっすね。より酷い方に備えておくべきですよ。オレたちの相手は、光速のモビルスーツと……ガンダムもどきの狂ったエースなんですから。そいつも、きっとニュータイプか……いや、ジオンが一緒というのなら、強化人間でしょうよ」


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