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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT142    『ステファニー・ルオとの因縁』



 殺意をあらわにするジュナ・バシュタ少尉に対して、ミシェル・ルオは冷静だった。

 想定の範囲内のことだったからだ。リタ・ベルナルの脳の一部が使われていた兵器……『ストレガ・ユニット』……そんなモノを差し向けられたなら、ジュナは怒るに決まっている。

 もちろん、ミシェルも激怒してはいるが、彼女はステファニー・ルオの行動方針を心得ている。彼女は、とても潔癖症なのだ。邪悪すぎる行いは、選ぶことはない―――。

「―――アレは、お姉さまの趣味ではないわ。ステファニー・ルオってヒトはね、マトモな人物よ。社会理念に反することは、そんなにしないわ」

「……アフリカの連邦軍のせいにするのか」

「せいにしたいわけじゃない。事実として、リタや……オーガスタの子供たちの脳が使われていた、『ストレガ・ユニット』という存在は……アフリカにいる連邦軍が使っていたのよ」

「……そうだぜ。アフリカ暮らししていたオレが、太鼓判を押してやるよ、ジュナ・バシュタ少尉……幻覚を見せてくる、謎のモビルスーツの報告は、何度かあった。噂だと思っていたが……あの特殊部隊に移植される前に、アフリカの戦場で使われていたのさ。オレたち、友軍に対してな」

「それも考え方次第よね。友軍を相手に新兵器を使えば、使われた時の被害が、より明確に把握することが出来るもの」

 敵に対して新兵器を使ったとしても、敵の内情に通じているのならばともかく、そうでなければ、正確な被害状況や、組織に対して、どれだけのインパクトを与えるかまでは調べることが出来ない。

 友軍に新兵器を使用するという行いは、その運用試験の情報を完全に回収するためには、決して悪いと言えるものではない。それは、あまりにも非常識ではあるのだが、するだけの価値がある行いではあった。

「……とはいえ。オレたちが聞いたウワサの元が、機能の個体とは限らんわけだがな」

「……不吉なことを言うのね」

「まあ、中年のパイロットってのは、良い風に考えるよりも、悪い風に考えることの方が多いもんでね……『ストレガ・ユニット』とやらが、一つだけじゃない可能性は、あるんじゃないか」

「……否定は出来ない。一つある以上、幾つもあったとしても、おかしくはない」

 オーガスタで、脳を弄くられたのは、リタ・ベルナルだけじゃない……かなりの数の子供たちが、同じような処置を施されて来た。それに……オーガスタだけじゃないかもしれない。

 他の研究所でも、同じコトがされていて……『ストレガ・ユニット』を再現するための『部品』は、いくらでもあったかもしれないもの……力に取り憑かれているのは、ティターンズだけじゃなかったわけよね……。

 ティターンズを糾弾したはずのヤツらでさえ、ティターンズが作り出した力を求めてしまう。ニュータイプを恐れて、ユニコーンガンダムなんてモノを造り出してしまった、連邦軍らしいとも言えるかしら……。

 ……誰もが、敵に怯えて、力を求めている。軍隊としては正しいのかもしれないけれど、その恐怖の連鎖が、大きすぎる力を作り出してしまっている。ヒトは……いつか、この本能が生み出した力に、押し潰されてしまう定めなのかもしれない……。

 ……それでも。

 ……目の前に、『シンギュラリティ・ワン/技術的特異点』がある。おそらく、私たちの理想とする形の、『永遠の命』を実現するための力を……リタは運んで来てくれた。サイコフレームが、ヒトの魂をも保存してくれるのなら……私たちは、また会えるわよね、リタ。

 そうすれば、謝ることだって……出来るものね…………。

「……とにかく。アフリカの方は、どうしようもない。あちらに対する報復は、今後、考えるコトにしている……ティターンズの力を使った。ティターンズに対して、強烈な『アレルギー』を持っている将軍たちや政治家は、かなり多い」

「ほう。楽しそうだな。そいつらに、『ストレガ・ユニット』をアフリカの連中が使ったことをバラすか。ティターンズの『遺産』である、非人道的な兵器を使ったということを」

「そうよ。そうするだけでも、報復にはなる。手ぬるいけれど……まずは、彼らが失脚するための政治工作を、施しておきたいのよね」

 ステファニー・ルオとの対決を考えると、アフリカと彼女のあいだにある絆を断ち切っておかなくれはならない……ステファニーお姉さまが、アフリカとの関係を『清算』しようとしたように見せかければ……アフリカの連中も、他の地球連邦軍の勢力も、ステファニーお姉さまから、距離を取りたがるでしょうからね……。

 ……私は、そういうヨゴレ仕事をすることに、抵抗はないわ。ステファニーお姉さまはルオ商会としての『表の顔』を大事にしたいのでしょうけれど、私は『裏の顔』だって使いこなすことが出来るんだもの……戦いになれば、より残酷な方が、勝つんですよ、ステファニーお姉さま……。


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