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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT139    『ルオ商会の晩餐』



「……最速の結果か……あの日、私とお前がリタを犠牲にしてしまった日から、もう十年も経っているんだぞ……リタが、どんな目に遭ったのか、私よりもお前の方が詳しいだろ」

 どんなにそれが、最速の結果だったとしても……けっきょくのところ、自分たちは、あまりにも遅かったのだ。
 
 リタ・ベルナルを救うために必要だった時間を、もう巻き戻すことは出来ないだろう。

「……私は、昨夜、リタの脳の一部が使われていたサイコミュ兵器と戦ったぞ……」

「……ええ。知っているわ。報告があったもの、ブリック・テクラートは、私の忠実なる秘書なんですからね」

「……あのことは、知っていたのか?」

「いいえ。それは知らなかった。信じてくれる?」

「それだけはな……でも、私に黙っていることが、まだまだあるんだろ……?」

 ジュナ・バシュタ少尉の翡翠色の双眸に見つめられながらも、ミシェル・ルオの顔色は何一つ変わることはなかった。

 彼女の唇が冷静に動いた。彼女が選んだ言葉を、その唇と舌で述べるために……。

「ええ、そうよ。貴方に伝えるには、あまりにも残酷な事実も、私はいくつも抱えている。でもね、それを共有するつもりはないわ。だって、その必要はない。悲しいコトなんて、誰しもが識るべきコトじゃないのよ……」

「……それが、リタのことでもかよ?」

「ええ」

「……リタ・ベルナルは、私たちの幼なじみだろうが?」

「そうよ。わかっているわよ。とても大切な幼なじみ。だからこそ……今になって……すべきことは、一つでしょう」

「……たしかに、そうだよなッ!!」

 イライラしながら、ジュナ・バシュタ少尉は再び、鶏肉にフォークを突き刺していた。ムカつく。美味いけど、ムカつく。

 けど、食べなければならない。モビルスーツでの戦闘も、軍用機での大陸間移動も、体には大きな負担となっている。どうにもならないほどに、体は疲れ果てているのだ……癒やさなければならない、『不死鳥狩り』を成功するために。

「……それで、お嬢さん方が不仲なのは分かったが」

「いいえ。とても仲良しですけれど?」

「……ああ、スマンね。おじさん、間違ったことを口走ってしまったようだよ。スマン、スマン。ホント、ドジなおじさんだよ……」

 大尉はそんなコトを言いながら、酒をグビグビと呑んでいた。双子たちは、あの大尉を脅しているルオ商会の『巫女』に対して、畏怖と尊敬を抱く。

「……中将の前でも、あくびしているよーなダメ軍人なのになー……」

「……あの黒髪の姉ちゃんの前では、何でか、小さく見えちまうぜ……」

「……オレは、一般人なんだぜ?……常識的な生き物だ。ニュータイプだとか、『奇跡の子供たち』だとか、ルオ商会の特別顧問だとかとは、縁が遠い生き物だっつーの」

「ウフフ。それでも、超がつくほどの凄腕なんでしょう?」

「……どうかな。シェザール隊と、アンタの赤毛の幼なじみに、双子の部下ごとぶっ殺される予定だったらしいけどね……」

「その運命を、貴方の幸運が変えた。運は、間違いなく実力を反映しているものよ」

「東洋の神秘の占いが、そう告げるってか……ニュータイプの占い師が、顧問についている……地球最大の企業ってのは、ホント、恐ろしい集団だな……」

 ……最新鋭のモビルスーツも、どこからともなく用意しているわけだしな……。

「ジェスタが5機?……どういうコネがあれば、あんな機体を、あくまでも一企業が入手しているというんだ?……地球連邦軍の将軍クラスか、アナハイム・エレクトロニクス、そのどちらかにしか、無いはずの機体だってのによ……」

「私たちは、顔が広いのよ。およそ、欲しいモノは何だって手に入る」

「ハハハハ。あー……怖くなるぜ。オレは、どうして、こんなトコロにいて、死ぬほど美味いメシを食っているんだろうなぁ……?……これ、現実かな……?」

「夢だと疑うなら、オレ、大尉のことブン殴ってあげてもいいっすよー?」

「オレも参加するぜ。一度ぐらいは、大尉のことをブン殴る権利って、オレたち持っていると思うんだよな」

「ねえよ。オレを打ってもいいのは、モデル体型の美女だけだっつーの」

「大尉の性癖、わかんねー」

「ろくでなしっぽいことは、分かるんだけどな」

「本当に、面白い方々だわ……こんななのに、超がつくほど強いだなんてね?」

「……それは、オレだけだ。この双子どもは、それなりの腕しかない」

「でも、十分な戦力よ。貴方が指揮してくれるなら、貴方に懐いている彼らにも幸運が伝染するんでしょうしね」

「幸運ってのは、そんなインフルエンザウイルスみたいな性質があるのかい?」

「あるのよ。だから、貴方たち三人は、チームを組んでおくべきよ。そうしている間は、死ぬことはないわ……」

 ……三人一緒なら、大丈夫。

 何とも、耳に痛すぎる言葉だと、ジュナ・バシュタ少尉は考えていた。私たちの場合は、そうじゃなかったし―――そもそも、けっきょく、バラバラになった。私たちは、『奇跡の子供たち』のハズなのに、神さまからは、愛されてはいなかったらしい……。

 何だか、酒が呑みたくなってくる。ジュナ・バシュタ少尉はそんなことを考えて、赤毛をガシガシと掻きむしった。

 昔の悪い癖が、久しぶりに出た。きっと、ミシェル・ルオが近くにいるからだと、彼女は考える。この場所は、とても居心地が悪かった……。
 
 
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