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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT124    『永遠の命』



 『不死鳥狩り』に、永遠の命と来たか……非科学的ではあるが、ブリック・テクラートという人物が冗談や根拠も無しに、そんな言葉を使っているとは思えない。

 ルオ商会の科学者たちは、何かを見つけたのであろうか?……一般的な常識には存在することのない、何か得体の知れない法則や、考えたくもない残酷な科学知識の果てに、そんな力にさえも、ヒトは近づこうとしているというのだろうか―――?

 ―――何とも罪深い言葉のように聞こえてならない。『永遠の命』……?多くの戦友たちの死を体感して来ているイアゴ・ハーカナ少佐にとっては、そんな命は、どこかズルいような気がしてならない。

 命は死ぬから命なのだ。どこか、漠然とではあるものの、そんな考えに囚われてきたし、それが自然だと思う。全ての生命は死んで来たのだ。だからこそ、有限の生命をヒトは尊びもするし、それに執着もする……。

 聞くべき情報なのだろうか。それを聞けば、自分の人生における普遍的な価値観の一つが、揺らいでしまうような気もする。しかし……好奇心というものは、どこまでも軽薄に人を衝動へと誘うのだ。

「……実在するのか?……宗教的な意味でなく?」

「……ええ。サイコフレームの特製と、高度な演算処理能力があれば……ヒトの記憶を肉体から分離して、サイコフレームに保存することも、今後の研究次第では可能となると考えています」

「サイコミュに、人格や記憶を保存するということか」

「無数のサイコミュを細胞のように内蔵しているサイコフレームであれば、問題なくヒトの一生分の記憶情報を蓄積することは可能です」

「それが、永遠の命か……」

「現在の科学で実現が可能な、唯一の手段です。『それ』を完成するために、我々、ルオ商会―――いえ、『ミシェル・ルオ派』は、『シンギュラリティ・ワン/技術的特異点』……進化したサイコフレーム、『フェネクス』を捕獲しようと考えています」

「……そうか」

「ご賛同出来ない理由であれば、『フェネクス』の危険性を考えてもらえれば、イアゴ・ハーカナ少佐にはご納得して頂けると思います」

「……母艦を襲撃したか」

「はい。その戦闘能力は、評価のしようがありません。この性能、とても危険な存在だと思いませんか?」

「暴走しているモビルスーツは、全て危険だが……それが、ニュータイプの搭乗したガンダムタイプだと思えば……寒気がする」

「ジオン共和国の軍港でも攻撃すれば、第三次ネオ・ジオン抗争が勃発するかもしれません。それに、ニュータイプやサイコフレーム研究の実績のある、ネオ・ジオンの『袖付き』に渡れば……どんな惨状を招くことか」

「……動き始めているだろうな、当然のごとく。宇宙は、ネオ・ジオンと……『袖付き』の方が自由に動けている……」

 スペースノイドのタカ派は大半が死亡してはいるが、その支持者まで絶えたワケではない。

 ジオニズムは……地球連邦からの独立運動の機運は、かつてほどではない。だが、全ての者が臆病者ではないのだ。

 闘争心と、独立を求める心を殺せない者は、いつの時代にもゼロにはならない。ヒトは支配されることを嫌い、その価値観は、富める者も貧しい者も、境目なく惹きつけるのだから。

 ……そう。スペースノイドたちにも、まだ牙の抜かれていない者たちは生き残っていた。

 …………ジュナ・バシュタがサイコスーツの多用から来た疲労により、深い眠りについている頃。宇宙にも動きがあった。

 ジオン共和国の外務大臣、モナハン・バハロ。彼は自身の政治的な躍進のためのプランを実行に移そうとしていた。

 ジオン共和国は、かつてのジオン公国の継承国家であり、表向きは反地球連邦組織であり、かつてハマーン・カーン、そして、シャア・アズナブルが率いた『ネオ・ジオン』とは別物である。

 ジオン公国の武闘派が、ネオ・ジオンに流れつき、そのネオ・ジオンの中でも最も武闘派集団なのが、通称『袖付き』と呼ばれる集団であった。

 モナハン・バハロは策を練っている。

 地球圏に舞い戻った、『フェネクス』―――その情報は外交ルートから、ジオン共和国にも伝えられている、もちろん地球連邦政府とその軍から正式にだ。

 暴走状態である『フェネクス』が、民間のコロニーや、ジオン共和国軍を襲撃でもすれば国際問題化は必死だ。

 ガンダムは、ジオン系のスペースノイドからすれば、連邦軍の象徴であり、それによる攻撃は、ジオニズム運動の再燃へとつながりかねないのだ。

 大いに利用価値のある素材だ。

 政治的な意味がある。

 これは、フル・サイコフレーム・モビルスーツなのだ。連邦と共和国のあいだで条約を締結して、封印をした存在……連邦からすれば、その存在自体が、外交的な弱点でもある。彼らは嘘をついていた。凍結するとした研究が、生きている。

 ……15ヶ月前には、その条約が存在しなかったが……論より証拠というものだ。

 メディアに、フル・サイコフレーム・モビルスーツであるガンダムを公開すれば?……あるいは、そう脅せば?……連邦政府とのあいだにおける、極めて有力な外交カードとなる。


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