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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT121    『オーストラリアの地へ還る    その3』




 ジュナ・バシュタ少尉は強化された筋繊維を用いて、星空高くへと『ストレガ・ユニット』をブン投げていた。

 ナラティブガンダムはサイコスーツ越しに伝達されて来た、彼女の命令に対して忠実に反応し、ビーム・ライフルを放っていた。

 荷電粒子化した水素が放つ輝きが空に煌めき、その灼熱の光の奔流は『ストレガ・ユニット』を呑み込み、消滅させてしまうのだ―――荒野には、何一つ残らなかった。煉獄の熱量は、全てを分解して、オーガスタの子供たちに正当なる死の眠りを与えている。

 ……これで、彼らが二度と地球連邦軍に利用されることはないのだ。あくまでも、彼らは……。

「……他に、どれだけアレがあるのか、分かったものじゃないな」

 ジュナ・バシュタ少尉は、首にかけた翼のネックレスを指で弄りながら、この儀式の終わりに痛ましい可能性を口にしていた。

 これで、『ストレガ・ユニット』の悪夢が終わったなどとは、彼女は考えてはいないのだ……。

「……他にもあるっていうのかよ」

「あるだろうさ。軍隊ってのは、ワンオフの装備なんて必要としちゃいないだろ。より多くのパイロットを、ニュータイプもどきにして……ニュータイプとして覚醒するヤツの数が多そうなスペースノイドどもとの、戦いに備えるんだよ」

「緊張緩和の時代に入っている、そう考えていたのだがな……」

「……どんな時代だろうが、高性能の兵器開発は続けられるさ」

「そうだな。それが、軍事的な抑止力の源でもある」

 兵器が強くなり続けることで、ヒトは戦争に対して恐怖を抱く―――ハズだった。抑止力を超えて、ヒトが自分たちの文明の全てを破壊し尽くすような勢いで戦った、一年戦争。

 たったの一年で、人類の半分の人口は失われた……高度な軍事力が持っていたハズの、抑止力。そういうものは、すでに人類の攻撃性を止めてくれないように感じられもした。

「宇宙の方が、技術力も優秀な人材も多い。資源と人口だけは、今のところ地球の方が有利だが……小惑星を資源にする考え方が今よりも進めば、軍事バランスは変わるかもしれない―――地球の汚染は、酷いからな、放っておいても、人口は減るんだ」

「……勢力を増すスペースノイドに対して、『切り札』を求めるか」

「そういうことさ。『ストレガ・ユニット』も、他の対ニュータイプ兵器も、まだまだ連邦軍は隠し持っているだろうさ……」

「酷いハナシだな」

「……この世界は、残酷だ。守る価値があるのか、本当に分からなくなる……ヒトを無理やり、力尽くで変えようとした、シャア・アズナブルの暴挙に対して、私は少し共感することが出来るようになりそうだ」

「……アクシズ落としを、正当化することは不可能だ」

「アンタは、止めようとした側の男か」

「……ああ。そうだ。だから、そんな言葉を使わないでくれ。ガンダムの乗り手が、そのνガンダムにそっくりな機体の乗り手が……地球の終末を、望まないでくれないか」

「……色々と、背負っているものがある。アンタと私は、同じ考えにはなれない。アンタだって、オーガスタ研究所を壊してはくれなかった」

「……っ!!」

「さっきのヤツらは、そういう大人がいてくれたら、今頃、大人になって、家族を作って、子供だって生んでいたかもしれない」

「……すまなかったな」

「……いいや。こちらこそ、ムチャを言っている。大きな歴史の流れに、個人の感情なんて無意味だ。お前は、きっと……オーガスタの実情を知っていたら、何かをしようとしてくれたんだろう」

「おそらく、そうだと思う。どれだけのことが、出来たのかは分からないが……」

「……こんなことを、マジメに受け答えするんじゃない。私の言葉は、ただの愚痴なんだぞ、シェザール1。我々が出来るとする罪滅ぼしは、過去に起きたことにではない。現在進行形の悲劇を、食い止めることだけだ」

「それが、『不死鳥狩り』ということか……?」

「……私の幼なじみで、『ストレガ・ユニット』の一部にも使われていたニュータイプ。リタ・ベルナル少尉。地球連邦軍の強化人間として、ユニコーンガンダム3号機、『フェネクス』に乗っていた」

「ユニコーン!……コロニーレーザーを、無効化したバケモノたちのことか……」

「……そいつらの兄弟機だよ。シェザール隊が挑むのは、さっきの機体よりも、遙かにバケモノだってことさ。なあ、ビビったのなら、逃げてもいいと思うぞ。付き合えば、死ぬ可能性だってある」

「……いいや。言っただろ?……ニュータイプには、借りがあるんだとな」

「……そうか。なら、しっかり返すといい。そうすれば、アンタは少しは背負っている罪悪感を軽くすることが出来るさ……」

 罪からは、逃れることは出来ない。でも、その罪と向き合い、清算することはヒトに許されていると思うんだよな……リタ、私は……今のお前に逢いたい。過去のお前の断片は、この手で焼き払ってしまったから……。

 だから。

 今なら、分かる。

 私は……お前に、ちゃんとした死を与えるために、宇宙へと上がることになるだろう。私は……それでもいい。そんな罪深い立場でもいいから、お前に逢って、答えを告げるぞ。

 ―――もしも、生まれ変わったら。

「……答えるための言葉を、私は見つけたんだからな」


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